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「ウェブは死んだ」のか

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ロングテール』と『フリー』でお馴染みクリス・アンダーソンが、WIREDで「ウェブは死んだ」という特集を組んで話題になっています:

The Web Is Dead. Long Live the Internet (WIRED)

長い!全文読めるか!という方は、こちらの反論記事にまとめられた要約をどうぞ:

また「ウェブは死んだ」そうです (ギズモード・ジャパン)

「王は死んだ。王様万歳」(王が死んでも王政は続く)をもじったタイトルですね。要するにオープンなウェブ、ネットコンテンツをブラウザで見る時代は終わり、ネットはますますFacebookやらiPhone/iPadアプリといった半クローズドなプラットフォームの通り道と化している、というおはなし。

(中略)

確かに言わればみればこの記事の冒頭にもあるように、今は朝起きたらメールチェックもアプリ、TwitterやFacebookもアプリ、新聞読むのもアプリ、携帯でポッドキャスト聴くのもアプリ、電話・IMもスカイプなんかのアプリ、夕ごはんの時はネットラジオ、ごはんの後はネットゲーム遊んで、ネット配信の映画観て寝る...みたいな調子。一日中ネットを使っちゃいるんだけど、ウェブコンテンツをブラウザで見る割合いは減ってるかもね。

これが「ウェブの死」。ここ数年はHTMLが支配するオープンなウェブ(グーグルがクロールできる世界)の割合いが減り、壁に囲い込まれたアプリ(グーグルがクロールできない世界)の割合いが増えている、その動きを牽引しているのはモバイルコンピューティングのiPhoneモデルの台頭だ、消費者も自分でスクリーン開けるよりスクリーンの方から歩いてくるアプリの方が生活にフィットするし、企業も金儲けはクローズドな方がやり易いので、当分この傾向は収まりそうもない、と言うんですね。

蛇足気味に、TechCrunchの記事も引用しておきましょう:

Wired誌、カバーストーリーで「Webは死んだ」と宣言―本当か?(アップデートあり) (TechCrunch Japan)

グラフをセンセーショナルに見せるためにWiredが数字をどう操作したかはともかく、Andersonがこの記事で主張したかったことは「われわれは次第にブラウザ以外の手段で情報を得るようになっている」ということのようだ。

ここ数年来デジタル世界で起きているもっとも重要な出来事は、オープンなウェブから半分クローズドな専用プラットフォームへのシフトだ。これらのプラットフォームは通信手段としてインターネットを利用するものの、表示にはブラウザを使わない。主要な例は、iPhoneモデルのモバイルコンピューティングだ。これはHTMLが大きな役割を果たせず、Googleがデータを収集することができない世界だ。消費者はますますこの世界を多用するようになってきたが、それはウェブに不満を抱いてというより、専用プラットフォームのほうが何かと便利で、日常生活で使いやすいからだ。(ウェブの場合、いちいちサイトを探しに行く手間がかかるが、専用アプリならワンクリックで即座に目的の情報が表示される)。

たしかに現在そういう傾向は見られる。しかしだからといってブラウザが衰退しているというのは早計だ。インターネットの利用法には波がある。第一波ではブラウザがすべてを支配した。その後デベロッパーはさらに豊富な機能を求めてアプリ(デスクトップとモバイル)の開発に向かった。しかし今後ブラウザはさらに進化してこうしたアプリの機能を内部に取り込んでいくだろう。それが次の波だ。ブラウザの普遍性は多少の技術的な困難を補ってあまりある。モバイルの世界でさえ、ユーザーは無数の個別アプリに嫌気がさしてブラウザの利用に戻りつつある。

ということで、大体の主張と論点は把握していただけたかと思います。

「ウェブは死んだ」という煽り的なタイトルが付けられているために、ネット上での反応はネガティブなものが多いようです(恐らくクリス・アンダーソンのことですから、この反応を狙ってキャッチ―なタイトルにしたのでしょう)。個人的にも「死んだ」は言い過ぎだと思いますし、むしろ今まで以上に様々な情報がウェブ上に載るようになると思います。

ただ個人的には、この記事を読んで、最近様々な専門家の方が「ウェブ以外の経路でのインターネット活用が進む」と異口同音に仰っていたことを思い出しました。「脱ウェブ化」とか「非ウェブ化」などといった言葉で表される現象ですが、要はクリス・アンダーソンも指摘しているように、専用プラットフォームを通じた情報のやり取りですね。

その最も良い例がTwitterでしょう。TwitterはもちろんTwitter.comというウェブサイトを通じて利用ができるわけですが、様々な調査結果によれば、Twitter全体のトラフィックの半分程度しかTwitter.com経由ではないようです。では残り半分はどこから来るのかというと、ご想像の通り専用のTwitterクライアントや、ウィジェットなどといった存在を通じてになります。皆さんの中にも、「TwitterはiPhoneのアプリから使うことが多いなぁ」という方が多いのではないでしょうか。

「Twitter.comからTwitterを使う」というのと、「モバツイ(or様々なモバイルアプリ)からTwitterを使う」というのは、単にデータが通るパイプが違うだけ、という話にはとどまりません。それぞれのシーンで使われる端末、状況、そして付帯する情報は大きく異なります。さらにそうした専用端末を通じた情報授受に慣れてゆけば、これまでのウェブベースではない、新たなインターネットの活用スタイルが生まれてくることでしょう。それはとりもなおさず、Googleという絶対的な検索エンジンが支配する「ウェブ」という世界とは、まったく違う新世界になるはずです。

と大げさなことを書いてしまいましたが、要は「ウェブは死んだ」というよりも、「これまでとは違うインターネットとの付き合い方が生まれつつある」といったところなのではないでしょうか(そんな表現では生ぬるいので、やはり「死んだ」という表現は狙って行われているのでしょう)。そしてそこには、Googleの次を狙う存在が活発に活動しています。クリス・アンダーソンが起こした新たな論争、単なる煽りで片付けずに、付き合ってみると面白いのではないでしょうか。

< 追記 >

ちょっといろいろ会話しているうちに、以前ご紹介した『インターネットが死ぬ日』という本を思い出しました。少し話題が変わるかもしれませんが、以前書評を書いているのでご参考まで:

【書評】『インターネットが死ぬ日』

【○年前の今日の記事】

メール・シェルター (2007年8月20日)

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