オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

Google Earth と差別問題

»

Google Earth で江戸時代の日本の古地図を見ることが可能になっていることをご存知でしょうか(参考記事)。2006年11月に開始されたサービスですので、既に見たことがあるという方も多いと思いますが、それが思わぬ問題を引き起こしているとのこと:

Old Japanese maps on Google Earth unveil secrets (Yahoo! News)

しばらく日本を離れていたので、既に国内メディアで報じられているのかどうか分からないのですが、もしそうであればご容赦下さい。「Google Earth の日本古地図が秘密を暴く」と題された記事で、実はこの古地図に被差別部落が示されてしまっており、Google Earth のオーバーレイ機能(古地図上に現代の道路等を上書きする)を使えばある地域の過去がはっきりと分かってしまう問題が起きている、という内容。まったくの初耳でお恥ずかしいのですが、法務省が Google に対して確認作業を行うまでに発展しているそうです。(ちなみに Google は批判の声に対して「人権侵害を行う意図は無かった」とコメントし、古地図の当該部分を削除するという対応を行ったとのこと。)

この一件、ストリートビュー騒動などの時と同じように「Google の不遜な態度がまた明らかになった」で片付けることも可能かもしれません。しかし問題はもう少し深いところにあるのではないでしょうか。Google に問題の地図を提供したのは、米国の古地図コレクターであるデビッド・ラムゼイ氏なのですが、彼は以下のようにコメントしています:

It was Rumsey who worked with Google to post the maps in its software, and who was responsible for removing the references to the buraku villages. He said he preferred to leave them untouched as historical documents, but decided to change them after the search company told him of the complaints from Tokyo.

"We tend to think of maps as factual, like a satellite picture, but maps are never neutral, they always have a certain point of view," he said.

Google に協力し、ソフトウェア上で問題の地図が見れるようにしたのはラムゼイ氏であり、被差別部落を示した部分を削除する責任も彼にあった。彼は地図が歴史的資料であるとして、この部分に何の手も加えずに置くことを望んだが、東京で非難の声が上がっていると聞いて判断を変えることにした。

「地図は衛星写真のように事実を示していると思いがちだが、実際には地図が中立であることは無く、何らかの視点に基づいてるものだ」と彼は語った。

身近な例で言えば、数ヵ国が領有を主張しているような島を地図上でどの国に含めるか、あるいはハッキリと国境を描かないまでも何色で塗るかといった騒動はたびたび発生します。どの地図を選ぶかという時点で、多かれ少なかれ何らかの価値判断が入るのは避けられないことなのでしょう。また過去に存在した差別を思い起こさせるからと、歴史的資料を改変してしまうという対応もどうでしょうか。それはある意味で「差別があったという過去の否定」につながり、逆に真の意味での問題解決を遠ざけてしまうかもしれません。本当に必要なのは、「過去にこういう問題があり、こういう視点で作成された資料がある」というメタな視点を身につけること、そしてそんな視点が身につくように支援することではないかと思います。

考えてみれば、多機能ケータイやスマートフォンを誰もが持つ時代になって、地図アプリケーションを利用する・開発するという機会は身近なものになっています。今回の Google Earth の問題は決して他人事ではなく(そもそも日本国内で起きた騒動なわけですが)、誰もが考えていく必要があるのではないでしょうか。

【○年前の今日の記事】

「若者が海外に行かないのは、ネットで行った気分になるから」論に学ぶべきもの (2008年5月4日)

Comment(2)