隠れた保守主義者
ITmedia 読者の方なら、「あなたは保守的ですか?」と聞かれて「ハイ」と答える人は多くないと思います。しかし人は自分が考えているよりも、深層心理ではずっと保守的なのかもしれません。
今朝の日経MJ「伊藤元重のニュースな見方」(2008年4月30日第4面)に、こんな実験が紹介されていました:
無作為に選んだ二つのグループの一方に「あなたは安価だが基本的機能はついている携帯電話を使っている。高価だが機能が豊富な機種に買い替えますか?」という質問を、もう一方のグループに「あなたは高価だが豊富な機能がついている携帯電話をつかっている。基本的な機能しかないが安価な機種に買い替えますか?」という質問をぶつけたところ、
……っと本当はすぐに実験結果が紹介されているのですが、ちょっと中断させていただきます。自分がこの被験者になったとして、どんな回答をしたと思いますか?
それでは結果をどうぞ:
(無作為に選んだはずの)二つのグループともに、現状維持を選んだという。
とのこと。意外なことに、いま何を使っていようが、乗り換えるという選択肢を選んだ人は少数派だったのですね。
実は以前、Polar Bear Blog で「あなたはもう参加者です戦略」というエントリを書いたことがあります。これはハーバード・ビジネス・レビュー2006年9月号で紹介されていた実験を紹介したものですが、簡単に言うと「スタンプカードに何個かスタンプを押された状態で手渡されると(つまり既に参加しているという状況を作り出すと)、スタンプを集めようとする人の割合が増えた」という内容。何かアクションを起こす/止めるという違いはあれど、これも人間の深層心理に潜む保守主義を示したものと言えるかもしれません。
毎朝起きて仕事に出かけるまでに、「果たして今朝は何を食べるべきか、歯磨きをするべきか、ヒゲを剃る場合にどんなリスクがあるか」と考えていてはらちがあきません。普段の行動を何の疑問も抱かずに継続する、それも脳に備わった1つの大切な機能だと思います。しかしそれを悪用されて、前述の「既に何個かスタンプが押されているスタンプカード」のように、望ましい行動を起こさせるための戦術として使われてしまうかもしれません(これを読んでも、決して「そうか、それじゃさも新しい提案を現状の継続のように見せればいいんだ」などと考えてはいけませんよ)。「ゼロベース思考」などという言葉もありますが、時には何でもないことでも立ち止まってみて、「果たして自分の行動はよく考えた結果なのだろうか、それともよく考えたつもりで『保守的なもう一人の自分』に操られていただけなのだろうか」と考えてみることが必要なのでしょうね。
……折しも巷はゴールデンウィークの季節。休暇を取れた、というラッキーな方は、いつもと違った行動を取るチャンスなのでは。