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Google Docs & Spreadsheets は Word/Excel を補完する

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Google が以前買収していた"Writely"を Google Spreadsheets に統合し、"Google Docs & Spreadsheets"としてリニューアルしました。Google のアカウントがあれば自由に使えるので、まだ触れていない方はぜひ使ってみて下さい。

ちなみに ITmedia での紹介記事はこちら:

Google版Office? 「Google Docs & Spreadsheets」のテスト開始 (ITmedia)

Google Docs & Spreadsheets (長いので以下GDS)の登場に対し、「いよいよ Microsoft が窮地に立たされた」的な論調も目にします。確かに Word/Excel に近いアプリケーションですし、両ソフトのシェアをある程度奪うことは確実でしょう。しかし、僕はGDSと Word/Excel がお互いに補完しあうような関係を築く可能性もあるのではないか、と思います。

一見してお分かりの通り、GDS は本家 Word/Excel の機能には遠く及びません。例えば Excel には優れたグラフ機能・ピボットテーブル機能があり、これらを活用して資料作成に役立てている人(僕もそんな一人です)が、GDSに完全移行するということは考えられないでしょう。また客先に出す資料のような美しい体裁のドキュメントまで、Docs で完結させるというのもちょっと考えにくいです。アプリケーション個々の機能だけに限って言えば、GDSは Microsoft 製品に敵いません。

しかしGDSには、WEBを介した共同編集機能、変更履歴のRSS配信、ブログエディタ機能など、様々な新機能が備えられています。また Google のサービスということで、Gmail、Google Calendar、Google Base などといった他サービスとの融合の可能性も考えられるでしょう。こうした方向性は既存の Word/Excel の延長線上にあるものではなく、まったく新しい発想、突然変異とでも言うべきものです。従って少なくともしばらくの間は、両者は異なるニーズ・異なるユーザー層に対応する存在として並存していくのではないでしょうか。

この点について、CNET Japan の記事に面白いコメントが掲載されています。

グーグル、「Google Docs & Spreadsheets」ベータを発表 (CNET Japan)

GoogleでGoogle Docs & Spreadsheetsのプロダクトマネージャーを務めるJonathan Rochelle氏によると、世間の憶測とは異なり、GoogleにはMicrosoftのOfficeによって独占されているデスクトップ生産性スイート市場からシェアを奪取するつもりはないという。

 「これらのプロダクトを組み合わせることは理にかなっていると考えた。また、ユーザーもそれを求めていた。われわれの戦略に変化はない。これはデスクトップ製品を補完するためのものだ・・・そのため、(デスクトップ製品に搭載されるような)先進的な機能に欠けている面もある」(Rochelle 氏)

つまりGDSとしても従来の意味での Word/Excel としての完成を狙わず、住み分けを模索していくということですね。この発言を「敵を油断させて隠れて高度化を図るつもりだ」と裏読みすることもできますが、文字通りの意味で捉えてもよいのではないかと僕は思います。

もっともこれまでは Word/Excel がほぼ唯一の選択肢だったわけで、Microsoft にとってみればシェアを奪われることには違いありません。しかし考えてみれば、完全に奪われるシェア(つまりGDSしか使わなくなる人々)は Word/Excel の基本機能だけしか使わない初心者が中心でしょうから、Microsoft にとってもここは攻めにくい層だったのではないかと想像します。もしそうであれば、GDSに流れる人の後を追わず、高度な機能を必要とする人々(そしてそれにお金を払う人々)のための製品開発に特化するという道も考えられるのではないでしょうか。いっそのこと「GDSにエクスポート」ボタンを Word/Excel につけてしまって、「あちら側」を Google にあずけてしまうというのも1つの手だと思います。

もちろんその戦略が、次世代のプラットフォームとしての主導権をライバルに明け渡すことになる確率は高いですが。しかし Windows Live Writer などを使っていると(最近ブログを書くときはほとんどこれを使用してます)、やはりデスクトップの世界では Microsoft に一日の長があることは否めないと感じます。それぞれが得意な分野に特化し、正面からぶつかることを避けるようなシナリオが続く可能性もあるのではないでしょうか。

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