「社内の噂」への対処法
他愛のないものから深刻な内容のものまで、社内の噂にもいろいろある。こうした噂の対象者になってしまったら、どのように対処すべきか。適切な方法を考えてみたい。
噂には「出所」と「目的」が必ずある
ある程度以上の大きさの会社組織で仕事をしていると、社内の「噂」に悩まされることが、しばしばある。例えば、「○○は、隣の部の××さんと恋愛関係にあるらしい」といった他愛のないものもあれば、「○○は、上司の××さんを飛ばそうと画策しているらしい」、「○○は、社内の反対派閥と裏で手を握ろうとしているらしい」、「○○は、業務上の秘密を他社に横流ししているらしい」といった内容が深刻なものもある。
迷惑なことに、こうした噂の対象者になることは、どのような仕事の誰にでも起こり得る。エンジニア読者も社内の噂で悩む場合があるはずだ。エンジニアであって社内の派閥争いに巻き込まれることはあるだろうし、一般に専門家は同業の専門家に対して嫉妬深いので(学者同士の嫉妬などが典型的だ)、同僚に不満を持ったり、ライバル心を持ったりすることがあるはずなので、エンジニアはむしろ噂が発生しやすい職種かも知れない。
噂は、困ったことに、最初に対象とされる本人の下に届くのではなく、他人同士の間を駆け巡り、そのうちに本人が気付く場合が多い。しかも、通常は、本人が関係者全てに対して噂の内容を話題にしてこれを否定することは、そもそも不自然であり、しばしば逆効果でもある。社内の噂にどう対処したらいいかは、あらかじめ知っておく方がいい。
噂への対策を立てる上で、先ず知っておきたいのは、噂には、必ず噂の「出所」になっている人物がいて、その人物には噂を流す「目的」が存在することだ。そして、目的は、大きく「悪意」と「単なる愉快」とに大別できる。これらのどちらであるのか、また、誰が噂の出所なのかを、静かに観察し推測することが、噂への対策の第一歩だ。
通常、単なる愉快が目的である場合は、噂の当事者となった自分が、噂の発生源である人物の面白がるような反応を示さなければ、時間と共に噂は沈静化する。余程困る内容でない限りは、放置が正解になることが多い。
一方、悪意から発生した噂の場合は、周到に計算された、第二弾、第三弾の噂が流れてくることがあるので、厄介だ。
噂の力学三原則
噂とは、大凡は紙ヒコーキのようなもので、その振る舞いには、三つの原則がある。
第一の原則は、「噂は、裏付けになる事実が無いと活力が低下して行く」ということだ。誤解に基づく噂話の場合、当初は、これを面白いと思う人の間を巡るとしても、その噂の信憑性が一向に強化されない場合、噂としての面白みが無くなるので、やがて話されなくなる。無風の中の紙ヒコーキは、徐々に高度が下がり、やがては地面に落ちる。
事実を伴わない社内恋愛の噂のようなものの場合、現実に何も起きずに、噂に対しては、本人がつまらなそうに淡々と否定していれば、やがて噂は消える。
第二の原則は、「噂は、当人の反応があると活力を増す」ということだ。他愛の無い話でも、人事などが絡む深刻な話でも、噂の対処となっている人物が大きな反応を見せると、噂の発生源となっている人物だけでなく、聞いた話を別のメンバーに話しているだけの人々にとっても、俄然やる気が出てしまう。紙ヒコーキも、風によって舞い上がることがある。
また、過剰な反応それ自体が、噂の信憑性を強化する場合があるので、気をつけたい。反応に対する心構えを一言で言うなら「つまらなそうな顔をして、明確に否定する」ということだ。否定と肯定の区別が曖昧だと、「否定しなかったということは、肯定したのと同じだ」と解釈される場合がある。
一方、噂の内容が真実である場合、同様に「つまらなそうに、否定」で押し通せるかどうかが問われる場合もあるし、どこかで真実を認めるタイミングを探さなければならない場合もある。
テレビ・タレントや政治家の不祥事報道などを見るとよく分かるが、人の関心が最も高まるのは、「事実らしいのに、事実を認めない相手が、事実を認めざるを得なくなる瞬間」である。噂を否定しつつも、時間経過と共に噂の信憑性が増し、最後に噂の事実の肯定に転じるような展開が、悪い意味での注目を最大化する。はじめに後から露見する嘘をついたり、肯定・否定を曖昧にしたりすると、「真実をはっきりさせたい」という動機を刺激してしまう。どこまで認めるのか、どこを認めないのかを、はじめの段階から決めておき、途中で対応を変えないことが大事だ。
そして、第三の原則は、「噂は、拡がりはじめに活力を増し、十分拡がると活力が低下する」ということだ。紙ヒコーキも最初は勢いがあり、やがて高度が下がる。話の後半は、「人の噂も七十五日」という諺に対応する原理でもあるが、噂を語る人にとっては、より多くの他人が知らない話の方が張り合いがあることを思うと、ご理解頂ける原則だろう。
三原則を表面的に眺めると、噂は、放っておくと、いずれ沈静化するので、放っておくのがいいと考えそうになるが、「拡がりはじめに活力を増す」部分が思わぬ大きな効果をもたらす場合があるし、もともとが「悪意」に基づく噂の場合、その対象者に決定的な悪影響(例えば人事上の実害)を与える場合もあるので、噂の当人になってしまった場合、無関心を装いつつも、状況の観察を怠ってはいけない。
先ず、静観して様子を見て、次に「悪意」の出所と戦うかどうかを決める
たとえば、「○○は、上司の足を引っ張ろうとしている」、あるいは「○○は、不正を働いている」というような、自分にとって、身に覚えがない不都合な内容の噂が聞こえてきた時に、どうしたらいいだろうか。
はじめの対応は、「静観」でいい。但し、噂の「出所」と「目的」は、全力で探るべきだ。
また、「そういう事実はあるのか?」と他人から訊かれた場合に、どう答えるかは、予め準備しておくべきだ。つまらなそうな顔をして、「ありません。なぜ、そのようなことをお聞きになるのですか?」と答えるのでいいだろう。怒ったり、曖昧に答えたり、噂が出る原因を自分で推測して説明したり、といった「余計な反応」を返してはいけない。
多くの場合、これで収まるので、気にする必要は無いが、「出所」に「悪意」がある場合は、噂が執拗に続く場合がある。また、些か情けないことだが、仕事で関わる人が噂に影響されることは現実にある。個人的な好き嫌いの感情や、時には人事評価・処遇などに影響する場合があることが無いとは言えない。
「実害がありそうだ」と思った時には、自分の処遇に影響力を持つ人に「...という噂を社内で聞きましたが、私には全く身に覚えがありません。事実ではないことを申し上げて置きます。尚、私は噂自体を相手にするつもりはありませんので、この事について申し上げるのは、あなたと、××さん(例えば人事部長)の二人だけです」と言っておくといいだろう。
直接話をする相手は、できれば二人作る方がいい。これは、一人にだけ話すと、話を握り潰されたり、無視されたりすることが起こりやすいからだ。事実を知っている人がもう一人いることを意識させておく方がいい。
それでも、悪意のある噂の出所が、噂を止めない場合、その相手と直接戦う事にならざるを得ない場合がある。戦い方は様々であり、戦う以外に逃げるという選択肢もあるが、本稿で扱う範囲を越える。但し、いざという時の覚悟も持っておく方がいい。