空港系の資料に目を通していて最近気になるのが「エアポートシティ」(Airport city)という言葉です。同じ意味で"Aerotropolis"を使う場合もあります。
「エアポートシティ」はインフラ事業としての空港運営の延長で捉えられるだけでなく、スマートシティの文脈で捉えることもできる、きわめて興味深い考え方です。

■事例1:韓国のスマートシティ新松島(New Songdo)においてGale Internationalが取り組んでいるもの=大型国際空港の近隣に新コンセプトの都市をつくるタイプ

こちらの投稿でも書きましたが、韓国の新松島は仁川国際空港の戦略的な地の利を生かしたスマートシティです。仁川空港から飛行機で3.5時間の圏内に北京、上海、東京、大阪、台北、香港を含む100万都市が61都市。中国、日本、韓国、その他北東アジア諸国を合わせたGDPは世界の24%、域内人口15億人。それらの真ん中にあるのが仁川国際空港です。

こうした広域経済圏の中心にある国際空港のそばに都市を開発することで、その経済圏でビジネスを行う人々が拠点を置くのにふさわしい地の利が得られます。オフィスが置かれ、そこに通勤する人が住みます。
新松島の場合は完璧に欧米系のビジネスパーソンのための街として作られており、彼らが心地よく暮らすには何が必要かという発想で都市空間をデザインしています。地元を大切にするアプローチとは真逆ですね。それがよいかどうかはまた別の話ですが。

関連投稿:
スマートシティ新松島の背景:仁川自由貿易地域と仁川国際空港
スマートシティ新松島のネットワーク発想
総投資額350億ドルのスマートシティ新松島

新松島は米国のデベロッパーGale Internationalが一手に引き受けて開発を行っており、民間企業による世界最大の不動産開発プロジェクトであると言われています。総事業費350億ドルですから、確かに巨大です。同社代表のStan Gale氏がよく好んで"Aerotropolis"という言葉を使っています(本投稿では「エアポートシティ」と同じ意味の言葉として扱います)。

McKinsey & Company "What Matters": At home in the aerotropolis(2011年2月)

上の記事によると、この"Aerotropolis"という言葉はStan Gale氏の発明によるものではなく、米国University of North CarolinaのJohn Kasarda教授の造語だそうです。
Kasarda教授によるロジックはこうです。歴史的に言えば、人々は社会的、経済的、知的な「コネクション」を求めて都市に住むようになった。グローバリゼーションが進んだ今日では「他の世界都市とのコネクション」が重要になっている。すなわち空港を核にしたコネクションが重要。従って、現在の人々は「空港を取り囲むようにして住むべきだ」となります。
これは大都市の鉄道網が発達した日本で言えば「駅の回りに住め」ということとほぼ同意であり、至極筋の通った考えだと言えなくもないです。
既存の航空便に加えて、LCCによるバス並みの運賃が可能になっている現在、新しいタイプの社会的、経済的、知的活動を行う人々は「ちょっと六本木まで」という感覚で、「ちょっとクアラルンプールまで」と考えるはずであり、「空港を取り囲むようにして住むべきだ」という発想にはリアリティがあります。

Airportcity

John Kasarda教授によるエアポートシティの概念図

Financial Times: Aerotropolis(2011年2月)

上は同一の著者によるより詳しい記事です。この中にKasarda教授の次のコメントがあります。

「中国では新松島と同じサイズの新都市をあと500つくる必要がある(注:新松島は人口30万)。人口100万人規模の都市もあと100必要だ」

彼はこれらの都市がすべてエアポートシティであるべきだという考えに立っているようです。なかなか過激です。

dimaizum

カリフォルニア高速鉄道の動きを把握するには、Google Newsで検索して記事を引っ張り出し、めぼしいのを片っ端から読むのもよいのですが、実は「地元の新聞」の記事をしかるべきキーワードで引き出して、時系列で並べ直して読むのが効率的です。この場合の地元の新聞とは、San Jose Mercury NewsSan Francisco Examiner、そしてカリフォルニアの州都サクラメントのSacrament Beeあたり。サンフランシスコには地元紙がまだありますが、範囲を広げるとフォローが大変になるので2-3紙で留めておきたいところ。Sacrament Beeは州政府庁舎のお膝元でやっているだけあって、州知事や州議会がらみの動きを丁寧に追っており、ある決定的なタイミングで誰が何と発言したかというような内容を確かめるのに最適です。あとの2つの新聞も自州の巨大プロジェクトですから、関連の動きを漏らさず伝えています。ウォッチするのをやめて1年ぐらい経った後で経緯を把握するのに、こうした地元の新聞を活用すると便利です。

ご存知のようにカリフォルニア高速鉄道の新しい事業案が4月2日に発表になりました。そこに行く前に、前回投稿の続きということで、今年1月以降の動きをざっと確認します。

■新たなレポートが従来の事業計画を批判

1月中旬の加州高速鉄道局CEO Roelof van Ark氏の辞任と前後して、Jerry Brown州知事が同局に送り込んだDan Richard氏のChairman就任が発表されました。Dan Richard氏がどのような活躍をするのかは3月中旬になるとわかってきます。

1月24日には、カリフォルニア州会計監査官のElaine Howle氏が同高速鉄道の資金調達計画と採算性に疑義をはさむレポートが発表になりました。同高速鉄道計画について否定的な見解を提示したレポートはLegislative Analyst's OfficeによるものCalifornia High-Speed Rail Peer Review Groupによるものに続いて3本目ということになります。

Sacrament Bee: Audit accuses high-speed rail of risky financing, contract splitting(2012/1/24)

Sacrament Beeの報道から以下が指摘されていることがわかります。
・2011年11月版の事業計画では、乗客数の予測が加州高速鉄道局CEOの「お手盛り」によるもので正確さが疑わしい。
・加州高速鉄道局は職員が少なく、外注先およびその孫請けのコントロールで手一杯(要求されている職務を果たせるのか?)。
・同局は発注にあたって競争入札を避けるために、例えば310万ドルのITサービスを13の契約に分割して1つの業者に発注しており、これは州法違反。
・カリフォルニア高速鉄道計画は不確かな資金源に依存しており、ファイナンス全般がはなはだ厳しくなっている。

不確かな資金源とは、主には、すでにオバマ政権が拠出を確約している連邦政府からの交付金35億ドル以外に、さらに多くの連邦政府からの交付金を当てにしていることを指しています。確かに連邦議会で決まってもいないものを建設予算として組み込んでいるのは、ややおかしな話です。

別な記事では、1年間に3,680万人の乗客が利用するなどということはありえない、ロサンジェルス・サンフランシスコ間を空路で移動するのは年間320万人、ロサンジェルス・オークランド/サンノゼ間は170万人、計490万人しかいないではないかと指摘しています。個人的には「新しい高速鉄道ができれば、新たに乗ろうという人もたくさん出現するはず」(事前にはわからなかった需要が新規に生まれる→スマートフォンが一例)と思うのですが、こういう論調で展開されると「なんて非現実的な試算か」ということになってしまいます。

このような形で、2011年11月に出された修正版の事業計画も手厳しく批判されてしまいました。

■3月中旬の公聴会で新チェアマンが総事業費縮小を確約

再三指摘されてきた資金面の不安を払拭すべく、Jerry Brown知事は同年1月末に、新しい資金源として新たに設定する炭素税の年間10億ドルの収入が使えること、そして総事業費はある程度縮小する可能性があることを発表します。

Sacrament Bee: Jerry Brown says cap-and-trade fees will fund high-speed rail(2012/1/29)

おそらく、新たにChairmanに収まったDan Richard氏の元で2011年11月版事業計画の見直しが進められていたようで、その中身を把握した上で総事業費縮小に言及したようです。

この間も連邦議会、州議会の議員による論争は続いており、逐一報道されています。また、「もう一度、この計画で州債を使うことについて州民投票をやるべきではないか」という主張も見られます。議論を続けていると時間ばかりが過ぎ、連邦政府が35億ドル交付の条件としている2012年中の着工ができなくなるので、この時期、推進派はかなり気を揉んでいたようです。

こうしたなかで潮目を変えるイベントが開催されました。3月13日にシリコンバレーの劇場で上院議員が主催した公聴会には、加州高速鉄道局の新ChairmanであるDan Richard氏が登壇し、初めて多くの人々の前で自らの考えを語りました。彼はそのなかで「総事業費はもっと安くなる」ことを確約しています。その他、彼の言葉から2011年11月版の事業計画が修正中であることが明らかになり、同計画に向けられた懸念はある程度和らぐ結果となりました。

San Jose Mercury News: High speed rail chief: Bullet train won't cost $100 billion(2012/3/14)

■新事業計画では着工区間をロサンジェルス近くまで延伸

そしてつい先頃(2012年4月2日)、カリフォルニア高速鉄道の新しい事業計画が公表されました。カリフォルニア高速鉄道事業計画のバージョン3ということになります(正確には2008年以前に1つ作られており、バージョン4となりますが、弊ブログで説明している文脈ではバージョン3として記しています)。
これまでの計画では最初の着工区間がMerced-Fresno間の130マイルであったところ、「そんな田園地帯に高速鉄道を通しても誰も乗らないではないか」という批判に配慮して、Mercedからロサンジェルス近くのSan Fernando Valleyまで延伸し、300マイルを最初の着工区間としました。また、既存の鉄路を流用することにして総事業費を約1,000億ドルから680億ドルまで圧縮しました。一部区間の営業開始は2022年、全区間の営業開始は2028年を予定し、前計画より5年前倒しで完成することをうたっています。

Californiahsr

出典:California High Speed Railway Authority

San Jose Mercury News: New California bullet train plan a grand finale to years-long drama (2012/4/3)
Sacrament Bee: Financing still murky for revamped $68B rail plan (2012/4/3)

上の記事を読んで初めてわかりましたが、このカリフォルニア高速鉄道はカリフォルニア州の歴史のなかで最大の公共事業なんですね。従って州民やメディアの関心も高く、州議員、連邦議員の議論も熱を帯びるわけです。

この新しい計画についても批判を向ける議員は複数存在し、2008年の州民投票にかけた事業案とまだ乖離がある、独立採算で運営できる内容にはなっていない、という懸念を表明しています。

Sacrament Bee: Questions remain despite revised Calif. rail plan(2012/3/30)

このバージョン3の発表をもって着工に至るというわけではなく、Jerry Brown知事はこの計画を議会に諮り承認を得て、2008年の州民投票で使えることになった州債のうち、23億ドルを着工資金として確保する必要があります。
なお、前投稿の末尾で焦点としていた加州高速鉄道局を州政府内の運輸局(Caltrans)に移すという話ですが、この新計画の発表を期に立ち消えになった観があります。ただ、計画がゴーということになれば指摘されている人員不足があることから、Caltransに吸収される可能性もなくはなないです。

■秋田新幹線(ミニ新幹線)と同じ方式を想定

この記事の以下を読むと、どうも在来線と専用軌道の双方を走る車両を使うようですね。

The so-called "blended" system would still move travelers from Los Angeles' Union Station to the Transbay Terminal in San Francisco in two hours and 40 minutes at speeds up to 220 mph, as voters were promised when they authorized the bullet train system four years ago, Richard said.

Eventually, riders will not have to change trains when riding between San Francisco and Los Angeles, he said.

加州高速鉄道局のサイトで公開されているバージョン3の事業計画のなかを確認すると、エグゼクティブサマリーのp4で明確に在来線と専用軌道を併用すると書いてありますね。つまり、JR東日本が秋田新幹線で運用しているミニ新幹線タイプの車両が想定されているということです。

新版事業計画の中身をじっくり読むと色々と興味深いことが判明しそうですが、今日は時間切れでここまで。

dimaizum

カリフォルニア高速鉄道をめぐる混沌とした状況は、米国では大きな税金の支出を伴うプロジェクトが納税者の視点から厳しくチェックされる土壌があることを示しています。大統領が、あるいは連邦運輸長官が「ゴー」を出したからと言ってスムーズに進む保証はなく、州知事が強力な推進派であったとしても一存で動かすことはできません。そのへんは開発独裁の国とは異なります。実にたくさんの人が「着工を!」「計画見直しを!」と言って騒然としている状況を見ると、これもこれで税の使い方のチェックという意味では正しいのではないかと思えてきます。

ただし、インフラ事業に取り組む企業の側からするならば、事業環境にいわゆる予測不可能性があるということになり、喜ばしいことではありません。投資は予測不可能性を嫌います。仮に政権が変わればインフラ事業の環境もがらりと変わってしまう可能性があるとすれば、一部の新興国のインフラ事業にも似たリスクを持っているということも言えそうです。

■善意から計画内容を精査してノーを言う人も

同計画に「ノー」を言い続けている当事者の1人に、Californians Advocating Responsible Rail Designという市民団体の代表Elizabeth Alexis氏がいます。

PaloAltoPatch: High Speed Rail Watchdogs Got Local Start(2010/10/4)
San Francisco Examiner: Authority's Ridership Review Panel finds fault with existing ridership model(2011/7/29)

この2本の記事を読むと、彼女は善意でもってカリフォルニア高速鉄道の計画内容をチェックし、言うべきところは言うという活動をしていることがわかります。ウォールストリートで企業の財務分析に関わった経歴があり、専門家の視点で事業計画の妥当性をチェックしています。
彼女が発見した計画内容(旧版の計画)の不備の1つに、乗客予測モデルの甘さがあります。多めの乗客予測値が出る中身になっているそうで、実際に営業が始まって予測を下回った場合には、地元自治体がその不足分を埋めなければならなくなるとして、計画内容の修正を提言しています。
彼女の活動は2012年1月に刊行されるCalifornia High-Speed Rail Peer Review Groupのレポートへと引き継がれて、より公的な性格を持った提言という形で計画推進を牽制します。

■修正版事業計画が大きな反響を呼ぶ

2011年5月にLegislative Analyst's Officeが出した報告書"High-Speed Rail Is at a Critical Juncture"の指摘に答える形で、加州高速鉄道局は同年11月初旬に修正版の事業計画を公開します。

California High Speed Rail Authority: Draft 2012 Business Plan

Elizabeth Alexis氏なども指摘していた需要予測の甘さについては軌道修正を行い、堅めの数字に基づく堅めの事業計画ということで公開されました。

内容は総事業費総額の見積を430億ドルから985億ドルに増加させ(報道では数字を丸めて1,000億ドルとするものが多い)、完成時期を13年遅らせて2033年としました。資金調達はなかなか苦しく、半分以上は連邦からの補助金を想定。不足分を2種類の州政府による債券発行でまかなうとしています。営業面では2035年時点で2,300万〜3,400万の乗客を想定し、少なめの需要でも年間3億5,000万ドルの利益が得られるので、営業自体において連邦・州政府からの補助金を必要とすることはないとの内容です。(東海道新幹線の乗客数は年間で1億人強ありますから、直感的には多すぎるようには思えませんが、さてどうなのでしょうか。)

この修正版の事業計画が発表になると、過剰に反応するメディアが出始めました。総事業費が2倍以上になったことをもって、扇情的に書き始めました。

■雇用創出の表現にも不正確さ

事業当事者としては、従前のバージョン(前任者の手になるもの)に需要予測の甘さがあり、それを正しく修正した上で、妥当な総事業費と妥当な資金調達計画および建設期間を盛り込んだつもりが、メディアの手にかかると「2倍以上のコスト」「建設期間13年延長」がやんやはやしたてられる…。

これを看過できないのが議員さんたちです。高速鉄道には猛烈に異を唱える共和党の連邦議員、州議員だけでなく、味方であるべき民主党の連邦議員、州議員にも「やはり計画を見直した方がいいのではないか」と言い出す人も出てきて、11月初旬から文字通り騒然とした状況になります。登場してくる人が多すぎるので、関連の報道を読み込むには人物相関表を作る必要があるほど。議会では計画の妥当性に関する公聴会が開かれたり、連邦運輸長官が直々に支援の声明を出したりと、連邦政府をも巻き込んだ論争になっていきました。

12月初旬には、それまで加州高速鉄道局が計画の効用として枕詞に据えてきた「100万人の雇用達成」に間違いがあることが明らかになりました。請負仕事で言う「人月」という言葉がありますが、この「100万人」は正しくは「100万人年」であり、典型的な年でも2万の建設作業員と4万のサービス従業員しか雇用が発生しないことが判明。ここでまたメディアと議会が騒然となりました。

■加州高速鉄道局の後を受けるのは加州運輸局?

年が明けて2012年1月初めに、前述のElizabeth Alexis氏が支援する民間会計監査団体California High-Speed Rail Peer Review Group(CHSRPRG)が事業計画内容を精査した報告書が公表されました。CHSRPRGは、2008年に住民投票によって同高速鉄道建設資金のための債券発行が認められた際に、事業内容の精査を第三者的な民間団体が行うことが法的に保証されていたことに基づく団体であり、ある種の公的な性格を持つものです。ここが出した報告書が複数の懸念を記したことから、これをもまたメディアが取り上げ、騒ぎに油を注ぐ格好に。

このような経緯があって、加州高速鉄道局のCEOであるRoelof van Ark氏が1月中旬に辞任を発表。ChairmanであるTom Umberg氏もその職から下りることを発表しました。個人的にはお気の毒としか思えません。

こうした騒ぎのなかで「正しい意見」として析出されていったのが、Legislative Analyst's Officeの2011年5月の報告書にあった勧告、すなわち、加州高速鉄道局のプロジェクト推進と予算執行に関する意思決定権を加州運輸局(CalTrans)に移すのがよいのではないかという意見です。

なかなか難しいですね。まだもう1回書きます。

dimaizum

カリフォルニア高速鉄道をめぐる状況がなかなかダイナミックな展開となっています。少し前に関連の新聞記事や報告書を読み込んで動きをインプットする機会がありましたので、簡潔にまとめてみたいと思います。

過去の関連投稿:
カリフォルニア高速鉄道の獲得に意欲的な中国(2011/01/25)
カリフォルニア高速鉄道が入札希望者からの事前インプットを公募(011/02/18)
[メモ] カリフォルニア州高速鉄道の参画企業向けフォーラムは大盛況(2011/04/17)

■2011年1月に推進派のJerry Brown知事が当選

米国では州の高速鉄道が進むか否かは、ひとえに推進派の知事が選挙で勝つかどうかにかかっていると言えそうです。少し前まであれほど沸き立っていたフロリダ州の高速鉄道は、反対派の共和党Rick Scott知事が選出されてから計画中止となってしまい、同知事は連邦政府から交付された補助金を返納するに至りました。

関連投稿:
スコット知事のフロリダ高速鉄道計画撤回、覆る可能性も?
(ただしこの後、計画撤回が覆ることはありませんでした…)

カリフォルニア州では、1代前のアーノルド・シュワルツネッガー知事が高速鉄道推進派であり、日本に来て新幹線に試乗したとの報道もあります。

2011年1月に選出されたJerry Brown知事(民主党)も高速鉄道推進派です。昨年後半から猛烈な勢いで吹き出した反対論には毅然とした態度で臨み、少しもぐらつきません。(なお、同知事は1975〜1983年にも在任しており、この間に高速鉄道導入について検討した可能性があります。その頃からの筋金入りの推進派なのかも知れません。同州では1980年代から計画があったという記述をどこかで読みました。)

ただ、カリフォルニア高速鉄道の推進主体である加州高速鉄道局(California High-Speed Rail Authority)の物事の進め方には異議があるようで、おそらくは周到な準備をした上で、同局CEOのRoelof van Ark氏が辞任するように仕向けた可能性があります。今年1月中旬に同局CEOのRoelof van Ark氏の辞任が発表され、関連メディアは大騒ぎとなりました。

San Jose Mercury News: Head of High-Speed Rail Authority quits as agency undergoes shake-up(2012/1/12)

補足しておくと、加州高速鉄道局は州政府の中にある組織ではなく、日本で言えば政府系の独立行政法人のような組織で(正しくは、California High-Speed Rail Actを根拠法とするカリフォルニア州の"state agency")、州知事が直接的に命令ができる領域にはいないようです。予算の使い方についても自己裁量が利くようで(役員会で決められる)、州知事の直接的なコントロールは効きません。

以下ではRoelof van Ark CEOが辞任するに至る経緯を見てみましょう。

■州議会付属の監査組織が加州高速鉄道局のやり方にノー

2011年5月中旬、カリフォルニア州議会に属する組織で会計監査などを行うLegislative Analyst's Officeはいささか唐突に加州高速鉄道に関する調査報告書を刊行し、記者発表会まで行ってメディアに知らしめました。

報告書本体:High-Speed Rail Is at a Critical Juncture
(タイトルが刺激的です。意訳「高速鉄道はいままさに危機的な分岐点に接近中」)
San Francisco Examiner:California Legislative Analyst’s Office: high-speed rail already 57% over budget(2011/5/12)

報告書の内容は、加州高速鉄道局の当事者能力のなさをきわめて率直に指摘するものとなっています。(州議会所属の監査機関がそうした大胆な記述を行うのは米国の民主主義が健全に機能している証拠ということなのでしょうか?)

同報告書が述べているのは以下のような内容です。

・最初の区間として建設が始まろうとしているFresno-Bakersfield間(約200km)は、人口密度の低い農村部にあり、需要が大きいとは言えない。

Route

出典:Legislative Analyst's Office "High-Speed Rail Is at a Critical Juncture"

・仮に、高速鉄道建設の資金調達が順調に進まず、完成したのがFresno-Bakersfieldだけということになれば、農村部にぽつんと高速鉄道が走っているということになってしまう。誰が利用するのか?建設計画準備が進んでいるのが同区間だけであり、連邦政府の交付金33億ドルを交付してもらうためには2012年中の着工が必要という条件を考慮する必要はあるとしても、最初の着工区間としては問題があるのではないか。大都市を含む区間から着工すべき。
・加州高速鉄道建設資金として2008年に住民投票の賛成を得て発行可能となった州債券により、約100億ドルの調達が可能になっているが、現在の状況では、当時発表された計画(総事業費430億ドルを想定)よりも総事業費が大きく膨れあがる恐れがある。住民投票の前提となっていた総事業費が大きく変化しそうななかで、州債を発行してよいものか?(新たに住民投票を行うべきではないか。)
・総事業費数百億ドルという巨額の予算を取り扱う組織としては、加州高速鉄道局の体制はあまりに小さすぎる(役員が9名、スタッフが20名。あとは契約ベースの外部スタッフ)。議会に対してもしっかりとした説明責任が果たされていない。予算執行についても不明確なところがある。
・最終的な結論として、Legislative Analyst's Officeは州議会に対し、加州高速鉄道局のプロジェクト推進と予算執行に関する意思決定権を取り上げ、高速鉄道プロジェクト推進の権限を加州運輸局(CalTrans)に移すことを勧告する。

とまぁこのように、正規の手続きを経て設立された一個の組織の意思決定権剥奪を議会に勧めるという大胆な中身となっています。

これが昨年5月中旬の話で、ここからが大騒ぎです。賛成派反対派入り乱れてメディアを介して激しい論争が始まりました。

■加州高速鉄道局へ送り込まれたJerry Brown知事派のDan Richard氏

2011年8月下旬にJerry Brown知事は子飼いと思われるDan Richard氏を加州高速鉄道局の役員として送り込みました。同局の役員会は9名から成りますが、うち2名は州知事が直接的に任命することができるようになっていたと思います。

San Francisco Examiner: Gov. Jerry Brown appoints Dan Richard, former BART board member, to High-Speed Rail Authority(2011/8/23)

ちなみにCEOであるRoelof van Ark氏は独シーメンスでエンジニアを務めていた経歴があり、高速鉄道ICEのプロジェクトに携わりました。同局CEOに就任する前は仏アルストムの鉄道事業子会社Alstom TransportationのPresidentであり、経歴としては申し分のない方です。

一方のDan Richard氏はサンフランシスコ地区の公共鉄道であるBARTの役員を務めた経歴があり、やはり鉄道のプロ。民主党に所属しています。

このDan Richard氏が後々、加州高速鉄道局のChairmanに就任します(役員会での序列はChairmanが上、CEOが下)。背後ではどんなやりとりがあったのでしょうか?

■推進派の考え、反対派の考え

ここでカリフォルニア州の高速鉄道における推進派と反対派がどんな顔ぶれで、何を理由に推進あるいは反対の旗を掲げるのかを簡単に整理しておきます。

○推進派の顔ぶれ
オバマ大統領
LaHood運輸長官
Jerry Brown州知事
民主党の連邦・州議員の大多数(一部議員は条件付で賛成。場合によっては反対)
沿線の地方自治体
沿線の都市の商工会議所

○推進の理由
・人口増による高速道路渋滞の緩和(カリフォルニア州ではまだまだ人口増加が続きます)
・人口増による空港混雑の緩和
・自動車による環境負荷の軽減
・雇用増大
・地方経済の活性化
・米国も「高速鉄道先進国」に近づく必要

○反対派の顔ぶれ
共和党の連邦・州議員
茶会党
税金の使途を精査する市民団体

○反対の理由
・高速鉄道は採算に合うかどうかわからない。採算に合わない場合は維持運営に市民の税金が投入されることになる。
・採算に合わない場合には、建設に投入された巨額の税金も無駄になる。
・専用軌道を走る高速鉄道ではなく、普通の都市間鉄道を整備する方が経済合理性がある。
・空港に投資する方が経済合理性がある。
・自動車に慣れた市民が高速鉄道に乗るとは思えない。

どちらの言い分にもそれなりの正しさがあります。ここは政治力で「やる」と押し切るしかない状況でしょう。Jerry Brown知事はその役割をよく認識しているようです。

長くなってきましたので、あと2回ぐらいに分けて掲出します。

dimaizum

インドネシアのジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道の計画が始動するようです。Jakarta Postが3月19日付けで報じていました。

RI-Japan to develop high speed railway
(RIはRepublic of Indonesiaの略)

総延長は144km。日本の国交省が計画に協力します。インドネシア運輸省の鉄道担当Director Tundjung Inderawan氏のコメントによると、総事業費は61億1,000米ドル。PPPのスキームを使います。
国交省がプレFSの事業者を海外鉄道技術協力協会と八千代エンジニアリングに指定したとの記述もあります。以上は記事から。

昨年バンドンを訪問したときは、ジャカルタから車で移動しましたが、行きは3時間程度、帰りは渋滞に引っかかって6時間ぐらいかかってしまいました。バンドンはインドネシア第三の都市で人口約200万。商業と学園の都市です。オランダ植民地時代にオランダ人が避暑地として利用したようで、古都の趣があります。ジャカルタ・バンドン間はかなり人の行き来があり、この高速鉄道は相応の利用者が見込めそうです。

バンドンには小さな空港があり、その拡張計画もあります。ジャカルタ・バンドン間は航空機で40分程度でしょうか。わざわざ飛行機に乗るような距離でもありません。高速鉄道の需要は大きいでしょう。

拡張する空港は東南アジア全域からの買い物客の受入に使うようです。バンドンは衣類が安いそうで近隣国から買い物客…というより仕入れの人がたくさん訪れるそうです。

dimaizum

日本企業が海外のインフラ事業の受注を図る場合、なにはともあれ、案件情報がなくては話が始まりません。
・その国にアプローチする価値があるのかどうか
・担当者を現地に送って情報収集に当たらせる価値があるのかどうか
・駐在員事務所を設けるなどして受注活動を本格化させる価値があるのかどうか
こうしたことを判断するには、その国にどのような案件があるのかを事前に知る必要があります。すなわち、現在進行形の案件に関する情報がある程度は手元に揃っていることが必要です。

また、外国政府内にフィージビリティスタディが終わった具体的な案件が存在している場合でも、その案件を受注しに動くのかどうかを意思決定するには、ある程度の詳細さを持った案件情報が手元になければなりません。

つまり、海外インフラ事業のビジネスを行うためには、そもそもの大前提として「案件情報がある」ことが不可欠です。案件情報がなければ、何の準備もできず、いつまで経っても取り組みが前に進みません。消費者向けビジネスで言えば、商品製造に先立つ商品企画において、なくてはならないマーケティングデータが案件情報だと言えます。至極当たり前のことですが、これは非常に重要なことです。

別な視点で見れば、海外インフラ案件を連続的に受注している企業は、外国政府から案件情報を収集する仕組みをすでに確立した企業であると言うことが言えるでしょう。

■案件リストを公開しているインドネシア

インターネットで色々な情報が入手できる大変便利な時代になりましたが、外国の中央政府や地方政府が実施するインフラの案件情報は、インターネットではなかなか得難いです。
入札準備が整った案件から、形成中の案件まで、100件弱を冊子にして公開しているインドネシアはきわめて例外的な存在だと言えるでしょう。

インドネシアの国家開発計画局(BAPPENAS)が公開しているPPP Book 2011

このインドネシアでも、PPP Bookは英語の検索だけではたどり着けない場所に置かれており、日本企業にとってはやや悩ましいところです。

■インターネットで公開されている案件情報は役不足

インフラPPP案件に関する情報発信をしている中央政府や地方政府は、探してみるとそれなりに見つかります。私が現在までに見つけたところでは、以下があります。しかし、得られる情報は、
・すでに終了している案件がほとんど。現在進行形の案件は日本企業の受注対象にならないものばかり(オーストラリアの場合)
・案件データベースに膨大な情報があるが、内容をよく見ると古くて実際の検討には使えない(インドの場合)
・日本企業が受注するにはサイズが小さすぎるものがほとんど(インドの場合)
といった形です。

オーストラリア中央政府:Infrastructure Australia
オーストラリア・ニューサウスウェールズ州
オーストラリア・ヴィクトリア州
オーストラリア・クイーンズランド州
オーストラリア・タスマニア州

インド中央政府:Public Private Partnership in India
インド・カルナータカ州
インド・アンドラプラデシュ州
インド・マドヤプラデシュ州
インド・マハラーシュトラ州
インド・グジャラート州

最近、PPPに力を入れていると聞くフィリピンの場合は、Public-Private Partnership Centerというサイトで現在進行形の情報をこまめに更新しているようです。これは例外的存在です。

このようにインターネットで得られるインフラ案件情報は、ほとんど業務の準備に使えないものばかりです。

■未公開情報はどこにあるか?

一方で、案件情報は「あるところにはある」という性格があります。昨年3回ほど訪問させていただいたインドネシアでは、国家開発計画局に全国のインフラPPP案件が集まる仕組みがあり、リストに載っていない案件が無数にあるようでした。人口2億4,000万の大国ですから、要整備のインフラ案件は数多いのです。また、同国で3番目に人口が多いバンドン市役所を訪問した際には、やはり現在進行形でありながら公開に至っていない案件が複数あることを確認しました。同国運輸省を訪問した際にも、各セクターの担当官の元には未公開の案件が複数あり、「どうやって動かそうか」と思案している風がありました。
これらのことから、どの国の中央政府・地方政府にも、インフラの計画を行う省庁や部局には、常時多数の案件が滞留しているのはほぼ確実だと考えます。
日本の場合でも、先日の投稿で触れた国管理空港運営の民間委託に関して、担当部局には27空港すべての詳細な情報があるようでした。ことほどさように「あるところにはある」わけです。

■ふるいにかけた後で粗々「行けそうかどうか」を判断する

さて、「あるところにはある」ソースからたくさんの案件情報を得たとしましょう。
水関連のメーカーであれば、まず水セクターの案件情報をふるいにかけます。鉄道車両のメーカーであれば、鉄道関連の案件情報をふるいにかけます。という具合にセクターでふるいにかけます。
残った案件はどういうものかと言うと、水の場合は、新興国のPPP案件ではサイズが小さすぎるものがほとんどだと思います。インド、インドネシアでその傾向があることがわかりました。アジアの他国でも同様でしょう。数億円、十数億円といった規模で、わざわざ海外まで出ていってやるほどもないサイズです。規模が大きなものは、海水淡水化プラントか、大都市の上水道ないし下水道施設となります。

鉄道案件は総じて規模が数百億円〜数千億円となり、都市のライトレールにしても、都市間鉄道、高速鉄道、石炭鉄道のいずれの場合であっても、規模という面では、日本企業が本格的に進出して受注するのにふさわしい大きさを持っています。

案件の規模が適正であったならば、続いて、バンカブルな案件になりそうかどうか、適正な水準のリターンが得られそうかどうかを確認することになります。
この時、手元に、案件のバンカビリティをチェックするための「フィナンシャルモデル」があると、そこそこの情報があればすぐに「行けそうかそうでないか」がわかります。旅客鉄道であれば想定される乗客数と平均的な運賃収入の2つの数字が外国政府から入手した案件情報に記載されていれば、それをモデルに入れることでIRRなどの数字が得られます。
そうしたモデルがなければ、ざっくりと作成してみて、外国政府から与えられた数字を入れてみると、「行けそうかそうでないか」が判断できます。

PPP案件として作り込まれているものは、その国のPPP法によって競争入札が前提となっている場合がほとんどで、入札に勝つには価格等で好条件を提示する必要があります。そうした条件面もこのようなモデルがあれば、ある程度のざっくりとした数字という形で得られるでしょう。
まったくお話にならない水準であれば、この段階で、その案件の検討は中止ということになります。行けそうだとわかれば、より詳細な検討に向けて、情報収集、日本側が改めて行うフィージビリティスタディ(外国政府が用意したものの精度を上げるFS)となるでしょう。

そうした検討ができる案件情報を外国政府の官僚から入手する必要があります。

■かっちりとすべてが揃っている案件は少ない

多くの新興国では、そうした採算性を評価できるまでに熟した案件をそうたくさんは持っていないようです。多くの場合は、ラフな計画があるばかりで、採算性の評価もできなければ、外国人投資家に検討してもらうための数字も揃っていないという案件がほとんどのようです。しっかりとしたフィージビリティスタディを行えば、そうした数字が得られるのですが、1件当たり数千万円はかかるFSの予算がないために、官僚の机の引き出しのなかで眠ったままになっているというケースが多いようです。

また、日本の官僚は法案にしても施策にしても、すべての事柄を事前に精査して少しの遺漏もないように用意するのが普通です。外国の官僚もそうであろうと考えて臨むと、そうではないケースが多々あり、最初はがっかりしたり驚いたりします。得られるインフラ案件の情報についても「あるべき内容がない」というケースはざらにあります。

従って、現実的な検討に足る案件情報を入手するには、まず、インフラ案件の計画を行う部局等にアクセスして、あまり熟していない案件のあらあらの情報をいただき、そのうちで詳細検討に足るものを選別した上で、詳細検討に必要な情報・数字を揃えられるように、こちらの側が動くことが必要になります。関連部局へヒアリングに回る、FSが済んでいないのであれば、日本政府系の案件形成支援策を活用するなどしてFSを行うといった、こちら側のアクションが必要になってきます。

■こちらから提案するアプローチ

以上は、外国政府側が「用意してくれる案件」についてでした。一方で、外国政府側がまだ気づいていない領域をいち早く発見し、「ここに、こういうものを作った方がよいのではないか?」と提案するアプローチがあります。PPPの世界で言うUnsolicited Proposal(要請されないのに持ってくる提案というニュアンスがある)です。インフラは人口動態や経済成長度合を観察すると、あるべきものが容易にわかるという性格があります。そうしたものを計画に落とし込んで提案します。

これは「ない案件」を「あるようにする」というアプローチです。

現実問題として、新興国政府が用意する案件は、ある程度の規模があったとしても、詳細に検討するとバンカブルではない=プロジェクトファイナンスの融資がつかない=その案件自体が成立しない、というケースが少なくないと考えた方がよさそうです。これは現地の物価水準が低いために水道料収入や旅客収入に天井が存在する形となり、総じて投資回収が難しくなるという背景から来ています。高速道路もおそらくそうです。

そうした制約を免れるのは、利用者が支払う料金が国際的な相場に収斂する傾向がある空港、港湾ということになるでしょう。モバイルブロードバンドもそれに近いかも知れません。あとは発電事業(IPP)です。

それから、日本政府のインフラ輸出政策の対象にはなっていないものとして、新興国から輸出する「穀物」に関わる大規模肥料工場、エネルギー分野のLNGプラントなども、発生する売上が国際相場に収斂しそうなセクターだと思います。

こうしたセクターにおいては、「ない案件」を「あるようにする」というアプローチが有効だと思います。

日本の総合商社が中東や新興国で受注している案件を見ると、おそらくはこの「『ない案件』を『あるようにする』というアプローチ」が大変に多いのではないかと推察します。

どのような国でも言える普遍的な事実だと思いますが、民間が受注した際に、20年といった長期にわたって民間企業が応分のリターンを上げられる案件というものを、「官」の側にいる人たちがしっかりと用意できるかと言えば、そうではないと思います。官の側の人たちは一般的に言って、民間が上げる利益には無頓着です。PPP先進国の英国、オーストラリア、カナダは例外だとしても、その他の国ではそのようであると考えて間違いないでしょう。ファイナンスの組み方についても、むしろ民間側が主導して、その場を取り仕切っていく分別が有効な場合がほとんどだと思います。EPCかPPPかという問題についても、白紙状態からこちらが主導的に動いて、よりよい形に落とし込むのがよいのではないでしょうか。

案件情報のありかについて真剣に考えていくと、どこによい案件があるかということよりも、「よい案件」をこちら側が作り込んでいく分別をするのが最良の道であるということがわかってきます。

dimaizum

過去1年半ほど、海外インフラ案件の受注に関して様々な企業の方の意見を直接的間接的に伺う機会がありました。おおむね、傾向のようなものが把握できましたので、それを元に記してみたいと思います。

■多くの日本企業はEPC案件を望んでいる

海外で水や発電などのPPP案件をすでに手がけている商社を例外とすると(発電の場合はIPP事業)、海外インフラ案件に興味を抱くほぼすべての日本企業はEPC案件の受注を望んでいます。そのことがだんだんと明らかになってきました。

日本政府のパッケージ型インフラ輸出推進政策は、海外インフラのPPP案件を日本企業が受注することを支援する設計になっていました。水分野の例で言えば、水処理膜・機材の1兆円市場や上下水道・淡水化プラント建設の10兆円市場ではなく、上下水道事業運営の100兆円市場に日本企業が打って出ることを支援する政策になっています。
具体的には、外国政府からPPP案件として競争入札に出たものを日本企業が落札し、完工を経て15〜25年程度インフラ設備を運用するなかで初期投資を回収し、応分のリターンを出すという事業活動に対して、日本政府系のファイナンスと保険とが付くという施策でした。

従って、私も海外インフラ案件ではまずPPPありきという前提に立って、案件のリサーチに動いたりしていました。しかし、日本企業の多くがPPP案件をむしろ敬遠しており、EPC案件に限って受注したいという意向がわかってきましたので、やや軌道修正する必要があるのかどうか、思案をしているところです。

先頃から、アジアとアフリカの計3カ国について、政府のインフラ案件の出所に近い方々と話をさせていただく機会があり、日本企業が受注しやすい案件を引き出すにはどうすればいいかと考えることが増えています。

ただ、考えれば考えるほど、日本企業の多くが望むEPC案件を用意するのには、大きな課題があるということがわかってきます。

■大前提:EPC案件が用意できるのは財政余力がある国

まず大前提として、EPC案件を独力で用意できる国には、財政面の余裕がなければならないということがあります。EPCは、その国の政府が自らインフラ建設資金を用意し、内外の企業を呼んで設計や見積を競わせ、発注対象を決めるという発注形式です。その国の予算で建設資金がまかなえるか、国債などによって資金が手当てできて初めて、こうしたことが可能になります。実際にEPC案件、それも大型のEPC案件を数多く出している国は中東産油国などの財政面で余裕のある国です。

翻って、財政に余裕がない国、例えば税収不足でインフラ整備資金がないとか、クレジットレーティングが低くて国債の起債ができないという国では、インフラを整備していくのに内外の民間企業のファイナンス力に頼らざるを得ません。すなわち、その国から出てくるインフラ案件は自然とPPPということになります。

ここまでが大前提です。

■財政余力のない国でEPC案件を形成する際の課題

続いて、仮にこうした国々においてPPP案件を敬遠し、EPC案件を希望する場合にどのようなことが起こりえるかを考えてみます。

まず、対象となる案件の数がぐっと減ります。その国における総案件数の数%程度にまで減ります。また、総事業費も小さいものにならざるを得ません。例えば数億円、十数億円という規模。日本の国内案件ならまだしも、海外に出ていって長期にわたって人を張り付けて、完工リスクを取って、そうした規模でよいのか、というきわめて根本的な問題がそこに出てきます。

ここで考え方を変えて、いまは「ない」案件を「形成」する方向で動くとします。海外に出て意味のある規模、例えば、数百億円の規模の案件を白紙状態からその国の政府と交渉しつつ、作り上げていくのです。(周知のように経産省、JICAには案件形成の支援の仕組みがあります。)
普通であればPPPとして出てくるはずのものだった案件を、意図的にEPC案件として形成しようとすると、いくつかの面倒事が付随してきます。

○1. 競争入札を経ないことに伴う有形無形の見返りが期待される

日本の企業が特定の案件を形成したいとして特定の省庁と話を始める時、そこでは競争入札は想定されていません。日本企業はアジア企業との価格競争を望みませんから、ない案件を作りにかかる時には当然のことながら、相対で受注できる関係づくりに動きます。これはこれで自然のことだと思います。
しかし、この相対という関係では交渉がクローズドな環境で行われることもあり、カウンターパートの側から有形無形の見返りを期待される可能性があります。こうした要求をどうハンドリングするのか、思案のしどころです。周知のように米英の規制もあり、非常に難しい問題をはらんでいます。

○2. 日本政府によるファイナンスが期待される

当該EPC案件においては、日本企業が受注した際の代金の支払者は当該国政府です。当該国政府においては財政に余裕がないわけですから、ごく当然のこととして日本政府系のファイナンスを期待します。
その案件が良好なインフラ案件であり、ファイナンスが成立する限りにおいては、それでよいと言えます。
しかし、ODA系の無償援助の場合は別ですが、比較的規模が大きな案件であり、長期にわたる確実な債務履行が前提となるファイナンスの場合は、いくら日本政府系の融資とは言えなかなか簡単ではありません。
案件を形成しようとする日本企業は、このファイナンスのアレンジメントにまで踏み込んで関係当事者間の利害調整やリスクアロケーションを行う必要が出てくると思います。
これはPPP案件におけるファイナンスのストラクチャリングに似た作業であり(PPPでは米英のフィナンシャルアドバイザーが受け持つところの作業)、「はなからPPPでやっていてよかったのではないか?」と思えるような作業になる可能性がかなりあります。

○3. 結局のところ”バンカブル”な案件でなければ成立しない=PPPの仕立てでもやれることが判明する

3つめのポイントは、同じくファイナンスに関係したものです。
仮にその案件が総事業費500億円の都市交通案件だとします。借り手はA国政府。貸し手は日本政府系金融機関です。
日本政府系金融機関は貸出に先立ってA国の信用力を勘案しながら当該案件のデューデリジェンスを行います。端的にはその案件が長期にわたって生むフリーキャッシュフローを吟味し、A国政府が債務を履行できる水準かどうかを審査します。

仮にその案件で毎期赤字が想定され、A国政府からの補填がなければ運営できないものであるとわかれば、日本政府系金融機関は500億円を貸すでしょうか?非常に難しいでしょう。将来において債務不履行になる可能性が高い案件には、普通に考えるならば、貸さないと思います。

従って、そのEPC案件において、日本政府系金融機関のファイナンスが成立するには、案件自体がバンカブルな構造を持っている、言い換えれば、その事業が独立的に好採算性を維持できる構造を持っていることが必要となります。

これはすなわち、PPP案件が成立するための条件でもあります。PPP案件は、ファイナンスが成立しなければ絵に描いた餅ですから、その事業自体においてキャッシュフローを生む力がしっかりとあり、債務を返済しながら出資者にも応分の配当を出せる事業構造を持っていることがマストです。それとほぼ同じことが、1国の政府によるEPC案件に日本政府系の金融機関が貸す際にも言えます。(厳密に言えば、当該国政府に対しては配当のリターンを出す必要がないので、事業が生むべきキャッシュフローの水準はやや低くても構わないわけですが。)

従って、当該国政府にあっては、日本政府系金融機関のファイナンスが成立するとわかった時点で「なぁんだ、これはPPP案件でも行けたんじゃないか」と思うことでしょう。
「PPP案件でも行けた」=「国際競争入札が成立した」=「価格性能比の高い設備を提供する他国の事業者が受託する可能性もあった」ということで、当該国政府にあってはやや釈然としない思いが残るかも知れません。

■すっきりとした解答はあるのか?

このように財政余裕のない国においてEPC案件を意図的に形成しようとすると、非常に不自然なことが連鎖的に起こってきます。また、海外インフラ案件の受注形態としてみると非常にイレギュラーな形であり、後が続かない可能性があります。(そのほか、この種の相対の案件形成が制度的にできない国もあります。)
1つの企業として海外インフラ市場を取りに行くと決断し、打って出たところが、EPCにこだわったがために後が続かないということは、あってよいのでしょうか?

これはすっきりとした解答がない、なかなか難しい問題です。

財政余力のある国のEPC案件を攻めればよいのでしょうか?中東産油国の場合は、すでに日本の商社および一部のプラント会社が地場を固めており、後発組がそこに割って入って行くことができるのかどうかというところでしょう。

EPC案件が現実的でないとするなら、PPP案件を狙って行けばいいのでしょうか?

これについても、いいとも、そうでないとも言えません。

以前にかじったリアルオプションの考え方で言えば「学習オプション」が有効な局面ですが、何がその「学習」にあたるのでしょう?
なるべく小規模なPPP案件を見つけて、それに主たるスポンサー(SPCの出資者)として名乗りを挙げ、コンソーシアムを組むのがよいのか。中規模のPPP案件のコンソーシアムに、とりあえずは参加料的な出資を行い、一部始終のプロセスを観察する機会を得るのがいいのか。日本政府系のFSの予算を使わせてもらって、とりあえずはFSに参加するということでいいのか。

多くの場合、日本政府系の予算を使わせてもらってFSを行うという形態が好まれますが、個人的な見立てでは、これは「PPPへの参加の決断」を先送りするだけであって、何度FSをやっても「PPP案件に自ら関わる」ことの代わりにはならないと思います。どこかでPPP案件に飛び込むことが必要ではないかと考えています。

ある方から伺いましたが、建設会社ないしはプラント会社の場合、あるPPP案件のコンソーシアムに参加しても(出資しても)、出資分は建設費用ないしプラント費用として早期に回収できる可能性があるそうです。いわばエグジットができるわけですね。

製造業の視点で見る場合、あるインフラPPP案件の長期の営業から上がるキャッシュフローには、一般的に言って、興味がないわけなので、ある特定の時点で出資分を誰かに譲り渡してエグジットするという、エグジット戦術が明確にあることが「答え」になるのかも知れません。

しかし、そのエグジット戦術は当該出資分を譲り受ける一種のインフラファンドのような存在を前提としているので、そのような存在が出現するのかどうかということがまた課題となってきます。

すっきりした解答はそこにもありません。考え抜くしかない課題だと言えます。

dimaizum

毎月行っているスマートコミュニティ勉強会(旧称スマートグリッド勉強会)で昨日発表させていただいた素材がなかなかおもしろいので(手前味噌ですみません)、こちらでもシェアさせていただきます。

内容は、

・米国においてデマンドレスポンスが必要とされる本当の理由(卸売市場ではピークに価格が数倍~十数倍に跳ね上がることがあり、PJM全体で小売会社は年間1,000億円程度をピーク分として余計に支払っている可能性がある。この「余計に支払っている分」を回避するために小売会社はDRに取り組む理由がある)
・卸売市場で価格が高止まりする=発電事業者が売り惜しみをするメカニズム
・オバマ政権から2億ドルを得たProgress Energyが取り組んでいる家庭用DLCプログラム、EnergyWiseの概要(ビデオを観ることをお勧めします
・米国のデマンドレスポンスでは、どの対象に対するどうのような方策が効果があるか。(インターテックリサーチ・新谷さんのブログから)

となっています。

PDFファイルはこちら↓

米国ではデマンドレスポンスがなぜ必要とされ、何に効果があるか?

発表素材づくりのために調べていて興味深いと思ったポイントをかいつまんで説明します。

日本で「デマンドレスポンス」が語られる際には、わりと漠然と、米国の電力供給が不足ぎみだから、ピーク需要を削るためにデマンドレスポンスが有効なんだよね…といった風に認識されていると思います。「なんとなくデマンドレスポンスが有効そうである」という、比較的漠とした認識です。
今回たまたま、PJMの電力卸売市場の日ベースの価格データを見る機会があり、猛暑だったと言われた昨年夏はどうだったのだろうと確かめてみると、ひたすら「ものすごい!」の一言につきる価格の急騰が見られました。
ちなみに以下のように深夜とピーク時とでは価格に16倍もの開きがあります。

Peakwholesale

すべてはここから始まりました。なぜこのような価格の急騰が見られるのか?誰がいくらぐらい、この高いピークの電力調達費を払っているのか?市場全体でかなりの金額がピーク電力購入用に支払われているとすれば、それを削減するためにデマンドレスポンスに取り組まざるを得ないだろう。デマンドレスポンスを実施するとすれば、いくらぐらいのコストなら見合うのか?といった形で、色々と疑問が湧いてきて、それらを簡単に確かめてみたという次第です。詳細はPDFをご覧ください。

実は昨日の勉強会では、以上の米国のデマンドレスポンスに関する知見をベースに、「では、日本ではどのようなデマンドレスポンスが合っており、いくらぐらいまでコストをかけられるのか?」ということについても簡単にメモ&試算を作って発表しました。中身がかなりラフであり、ここで公開するレベルには達していないので、それについてはシェアを見合わせます。

dimaizum

セミナーのお知らせをさせていただきます。
来週3月16日(金)午前10時〜0時まで、東京港区西新橋のSSKセミナールームにて、「スマートグリッドとビジネスチャンス」と題したセミナーを開催します。

以下のようなトピックについてお話します。
スマートグリッド関連のアイテムをどのようにすればビジネスに生かせるのか、「事業者」「新規参入者」の視点からお話したいと思います。

また、参加者の方々には、特典として、7月から始まる固定価格買取制度の「固定価格」が判明した際に、太陽光発電の採算が取れるのかどうかがすぐにわかる「エクセルのシミュレーションシート」を配布します(セミナー実施後のファイル送付となります)。
昨年のこのセミナーで配布したのと同じものです。詳細はこちらをご覧ください。

 電力ビジネスを取り巻く環境が急速に変化しています。これまで電力ビジネスに関わることができたのは、電力業界をはじめとするごく限られた業種の企業でした。しかし、震災以降の電力供給の逼迫を機に、政府による電力改革の気運が高まり、再生可能エネルギーやスマートグリッドの分野で新規参入の余地が広がりつつあります。
 このセミナーでは、新規参入を考える企業の担当者様を対象として、電力ビジネスの基本、発電事業の収益モデルの基本、スマートグリッドの基本などをわかりやすく解説します。

セミナー「スマートグリッドとビジネスチャンス」
1.スマートグリッドの基本
 (1)発送電分離と再生可能エネルギー固定価格買取制度
 (2)発電ビジネス成功のポイント
 (3)スマートメーターの基本
 (4)日米欧のスマートグリッド、何が違うのか?
 (5)スマートグリッドで得をするのは誰か?
 (6)東京電力はなぜスマートメーターを1700万台設置するのか?
 (7)アメリカではスマートグリッドが失速している?

2.スマートグリッドの活用
 (1)デマンドレスポンス、日米欧の取り組みの違い
 (2)日本のスマートハウスとHEMS
 (3)日本企業の節電行動とBEMS
 (4)世界の先端をゆく日本の実証実験
 (5)電力の地産地消はどう実現するか?

3.スマートグリッドの未来
 (1)ビークル・ツー・グリッドは使えそうか?
 (2)風力発電とスマートグリッド
 (3)太陽光発電とスマートグリッド
 (4)デジタルグリッドのインパクト

4.質疑応答/名刺交換

お申込はこちらからどうぞ。このブログ経由で申し込む方には5,000円(税別)の優待があります。

dimaizum

先日、米国のスマートメーター普及の進展ぶりを確認する機会がありました。オバマ政権の助成金が付いたスマートグリッド関連プロジェクトのうち、もっとも大きな助成金2億ドルが交付されたのは以下の6プロジェクト。

- Baltimore Gas and Electric Company: Smart Grid Project
- CenterPoint Energy: Smart Grid Project
- Cleco Power LLC: Advanced Metering Infrastructure Project
- Florida Power and Light Company: Energy Smart Florida
- PECO: Smart Future Greater Philadelphia
- Progress Energy: Optimized Energy Value Chain

これらは米国のスマートメーターのフラッグシッププロジェクトと言ってよいわけですが、ネットで得られる情報を見る限りでは、目に見えるような成果を挙げているという様子はないようです。おそらくは、昨年以下の投稿で書いたような課題があるのだと思われます。

やっぱり難しい?米国電力業界のスマートメーター活用

しかし、所変われば品変わるで、スマートグリッドも米国におけるそれと日本におけるものとでは、背景もニーズもまったく異なりますから、日本は日本のやり方を開発すればよろしいということが言えます。
日本では現在、原発停止に伴う燃料費高騰=電力料金高騰の図式が定着するかどうかというところにあり、スマートメーターを設置することで何らかの経済的なメリットが得られる「かもしれない」という背景を持っています。スマートメーターの活用についても「新しい頭」で臨むべきでしょう。

■「高圧一括受電」のバージョンアップ版という位置づけ

スマートメーター活用の新しい方向性を感じさせる記事が先日の日経に出ました。

野村不動産、電気代分散利用で安く
マンション各戸にスマートメーター
(2012/2/21日経朝刊)

中身は、野村不動産が分譲マンションの各戸にスマートメーターを設置し、各戸がオフピークに電力使用をシフトさせるなどすれば、相応の電気料金削減メリットが得られるようにする。その原資は、野村不動産がマンション全戸の電力契約をまとめて行うことで得られるkWh単価の安い電気料金から来るというものです。
これは以前から「高圧一括受電」と呼ばれてきた、集合住宅における電気料金削減手法のバージョンアップ版という位置づけになっています。

高圧一括受電については検索でたくさん関連ページが出てきますので、それをご覧下さい。簡単に言えば、電力会社が提供しているkWh単価の安い高圧電力で契約して、各戸への配電を集合住宅管理者側が行うことで相応のコストメリットを出すというものです。

従来型の高圧一括受電では、電力量計がリアルタイムで電力使用量を計測するタイプではないため、各世帯が電力料金の上がるピーク時間帯に電力使用を抑制しようがしまいが、全世帯が得られる電気料金削減幅は同じというパターンが見られたはずです(←要確認です)。

細かく補足すると、「電力量計がリアルタイムで電力使用量を計測する」とは言っても、現実的に現在のスマートメーターによる電力使用量計測で意味があるのは15分単位の計測です。
「世帯が電力料金の上がるピーク時間帯」については、一例が東京電力の業務用季節別時間帯別電力の説明ページにあります。電気需給約款の料金単価イメージ図をご参照下さい。

東京電力が提供しているような高圧契約の時間帯別電力料金制度を前提として分譲マンション各戸にスマートメーターを設置すると、「ピーク時間帯に電力使用量を減らした世帯」に対しては応分の料金削減メリットを還元することが可能になります。
従って、各世帯に還元できるメリットは「従来の高圧一括受電で還元できていたメリット」+「新たにスマートメーターで可能になるピークシフトによるメリット」の2系統となり、うまく組むとスマートメーターの設置費用を早めに回収できる可能性が出てきます。

これは非常に新しいスマートメーターの使い方であると言えます。僭越ながら、私が知っている限りにおいては諸外国には類例がありません。

■より「上流」へ近づくと料金削減幅が広がる

この利用形態の何がすごいか?と言うと、適用領域を1つの集合住宅から1つの地域へ、さらに1つの都市へと発展させることもできそうなポテンシャルを持っているということです。

「電力料金の削減」を目的とした場合、一般的に言って、電力ビジネスの上流へ行けば行くほど、削減余地は広がり、削減のための手法も多様化します。非常にわかりやすい例で言えば、需要家レベルでは電力料金削減が最大1割といった水準(あくまでも例です)に留まるのに比べて、上流の発電ビジネスでは燃料の調達から発電効率の高い最新設備への入れ替えまで「実施できるオプション」が多様に存在しており、期待できるコスト削減幅も2〜5割といった水準(あくまでも例です)になる…というようなことがあります。

従来のスマートグリッドの取り組みは日本に限らず、この「上流のコスト削減余地を取り込む」発想に乏しく、結果として得られる投資効果があまり芳しくないという状況がありました。

野村不動産の今回の取り組みは、「各戸レベルの電灯契約」から「集合住宅レベルの高圧契約」へと、一段「上流」へ近づいた動きであると言えます。これをさらにもう一段、ないし二段「上流」へ近づく工夫をすれば、実施可能なオプションはさらに増え、得られる削減幅も大きくなるのではないかと思います。すなわち、スマートメーターの投資回収もしやすくなります。

dimaizum


プロフィール

今泉 大輔

今泉 大輔

インフラ投資ジャーナリスト。インフラビジネスリサーチャー。
銀行系シンクタンク、外資系コンサルティングファームからのリサーチ受託を経て、米最大手ネットワーク機器会社に7年間あまりリサーチャーとして勤務。金融、製造業、電力業などを担当。現在はインフラ関連のリサーチサービスを運営。

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