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予測できないITの行く先を、あちこち歩きながら考えてみます

ここ数日、クラウドウオッチャーのあいだで突如話題にのぼったのが「Open Cloud Manifesto」でした。これによっていきなりクラウドの標準化についての議論が波乱とともに幕を開けたのです。

まず報道されている内容を基に、簡単に経緯を追ってみましょう(以下の日付はすべて現地の日付です)。

Open Cloud Manifest

3月29日に、IBM、Sun Microsystems、Cisco、SAP、EMC、AT&T、Novell、OMG、Red Hat、VMWareなどが賛同する「Open Cloud Manifesto」という文書が公開されました。

この文書は、クラウドはオープンでなければならないという信念のもと、セキュリティをいかに高めるか、クラウド間でのデータやアプリケーションの移植性(Portability)や相互運用性(Interoperability)をどうやって確保するのか、といった課題について、クラウドのプロバイダーとユーザーを含めた関係者で話し合うためのたたき台と位置づけられています。

そして原則として、クラウドプロバイダーは協力してセキュリティや相互運用性、互換性の問題を、適切な標準に基づいて解決すること。クラウドプロバイダーは顧客をロックインしようとしてはならないこと、などを賛同者に求めています。

しかしマニフェストの公開に先立つこと3日。マニフェストへの賛同を求められたマイクロソフトがこれを拒否したことを、同社のSteven Martin氏が3月26日の自らのブログで明らかにしています(Moving Toward an Open Process on Cloud Computing Interoperability)。

その理由はこう書かれていました。

We were admittedly disappointed by the lack of openness in the development of the Cloud Manifesto.
(略)
Very recently we were privately shown a copy of the document, warned that it was a secret, and told that it must be signed "as is," without modifications or additional input.

残念なのはマニフェストの作成過程がオープンではなかったことです。

(略)

つい最近になって文書のコピーを渡されましたが、その内容はまだ秘密であると念を押され、しかも我々には内容に関する追加や変更の余地がないままサインを迫られました。


賛同しなかったのはマイクロソフトだけではありません。3月27日にはアマゾンがマニフェストには加わらないと表明したことをZDNetが報道しています(Amazon Web Services: No Open Cloud Manifesto for us ZDNet.com)。

さらに、3月30日のBBC Newsによると、グーグルはいったんサインしたものの取り消したとあります(BBC NEWS | Technology | 'Open cloud' plan sparks dissent)。

つまり、業界の多くの企業がクラウドの標準化に賛同するなか、もっとも肝心のアマゾン、グーグル、マイクロソフトが賛同しておらず(ついでにいえばSalesforce.comの名前も賛同リストにありません)、これは一体どうなるのだろう? という状況になっているのです。

ここまでがこれまでの経緯。では、ブログではこの状況にどう反応しているでしょうか?

マイクロソフトでエヴァンジェリストをしている砂金信一郎氏は「オープンクラウド陣営がこの時期にマニフェストを出した意義がわからない件」でこう書いています。

あくまで個人的な見解であるが、PaaS的クラウドの相互互換性を議論するには まだ時期尚早な気がしている。

いまは各ベンダーがテクノロジやビジネスモデルを進化させるときだと主張しています。一方で、こう付け加えています。

とはいえ、事を急いてこの取り組み自体が闇に葬られるのはもったいない気がしている。 長期的に考えれば健全な技術・業界発展のために継続的な対話は重要である。

また、日本IBM東京基礎研究所の浦本直彦氏は「Open Cloud Manifesto」というエントリでこう書いています。

個人的な意見ですが、標準化については策定にそれなりの時間がかかるなど、クラウド・コンピューティングならずとも色々な意見がでてくるでしょう。ただ、長期的に見れば、ユーザにとっては、サービス提供者を客観的に比較することができ、選択肢を広げるという意味で良いことだと思います。

と長期的には賛同の模様です。

国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授の佐藤 一郎は、4月1日のブログにこう書いています

それはさておき個人的にはクラウドコンピューティングのインターオペラビリティは無理だと思っております。 その理由ですが、クラウドコンピューティングのインフラはOSみたいなものです。過去にOSのインターオペラビリティの試みはいろいろありましたが、ことごとく失敗。まさに死屍累々という状態。 (新野注:上記のインターオペラビリティはポータビリティのことと想像します)

僕の考えも佐藤氏の意見に近いものです。例えばサーバOSはWindows、Linux、HP-UX、Solarisなどなど複数の種類があり、OS間では必ずしもアプリケーションのポータビリティは保証されていませんが健全な競争が起きていると思います。クラウドも無理にアプリケーションのポータビリティを実現するより、健全な競争が起きることのほうが大事ではないでしょうか。

一方でデータのポータビリティについてはぜひ実現してほしいところです。顧客にとってはアプリケーションのポータビリティよりもデータのポータビリティのほうが優先度が高いはず。技術的な面でも、顧客へのアピール効果を考えても、クラウドベンダ間で合意しやすそうです。

さて、@ITの記事「「Open Cloud Manifesto」の行く手に立ち込める暗雲」では、マイクロソフトのSteven Martin氏がOpen Cloud Manifestoによらない標準化についての前向きな行動を示すようです。

ニューヨークで行われるCloud Computing Expoにおいて、ほかのベンダおよび標準化組織のメンバーと3月30日午後4時に会うという招待を受け入れたのだ。われわれの視点から見れば、これは対話の新たなスタートだ――共同の"仕切り直し"といってもいい

Steven Martin氏の2つのエントリを合わせて読むと、マイクロソフトにとって標準化の動きに乗るとしても、そこでマイクロソフトがリーダーシップを取る形でなければならない、という気持ちが表れているように僕には思えます。

本エントリはBlog on Publickeyからの転載です。

jniino

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コメント
Katsushi Takeuchi 2009/04/02 14:30

竹内です。

確かに、すでにある程度の地位を確立していて、信用がある大手にとって、この Manifesto に乗ることが良いこととは限らないというのはわかります。クラウドプラットフォーム上でサービスを作るときには、大きな理由がなければ、有名どころを選ぶでしょう。


この Manifesto は、大手でないクラウドプラットフォーム提供者にとって特に重要だと考えています。もし何らかの標準が、ありロックインされる危険性が低いならば、そのクラウドを選択肢に入れる可能性がでてくるからです。


大手にとっての次の戦略は、クラウドプラットフォームのライセンス化が考えられます。同じ機能のクラウドサービスを提供するプロバイダーが増えれば、ロックインの危険性は下がり、実質的な標準となり得るからです。


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プロフィール

新野淳一

新野淳一

月刊誌の編集、フリーランスを経て、2000年に(株)アットマーク・アイティの設立に参加。2008年に@IT発行人を退任し、現在はPublickey編集長/Blogger in Chief。

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