かつて書籍や雑誌の出版は、編集者とデザイナーと印刷所がそれぞれの専門性を活かした分業制でした。編集者が仕上げた原稿に対してデザイナーがレイアウト指定を行い、印刷所がそれに従って版を作成して印刷していました。
ところが1990年代後半から急速に普及したDTPの出現は、この分業制を変えていきます。DTPを使えばレイアウト作業もゲラの印刷も手元のPCで簡単にできるようになったため、コストや納期の圧縮といった事情もあって、デザイナーは最初にテンプレートを作る程度で、DTPを使って編集者が一人でほとんどすべての作業を行う現場が多くなりました。
カメラマンの世界でも、デジタルカメラの登場によって似たようなことが起きています。フィルムカメラの時代には、カメラマンが撮影したフィルムはプロ用の現像所で現像され、印刷所で見栄えの加工や調整が行われていました。
しかしデジタルカメラと高度なグラフィックソフトの登場により、すべての処理がカメラマンの一人の仕事になりました。カメラマンは撮影後に自分でデジタルデータを展開、見栄えの加工を行って、データ納品することがいまや普通になっています(実はそれどころではなく、デジタルカメラの登場によって撮影まで編集者の仕事になりつつあります)。
ITの世界でも変わっていく分業制
僕はITでも似たようなことが起きるのではないか、と思っています。これまでアプリケーションの多くはパッケージソフトとして販売されていました。パッケージソフトでは、開発を担当するプログラマと、それをサーバやPCにインストールして運営するエンドユーザーはそれぞれ別の組織に属しており、分業が成立していました。
しかしクラウドの登場が、この分業制を終わらせることになりそうです。業務システムはパッケージとして販売される時代から、開発した人(もしくは組織)がそれをクラウドに乗せて運用しユーザーに使ってもらう時代になろうとしています。
クラウドは、編集者にとってのDTP、カメラマンにとってのデジタルカメラのような存在になるのではないでしょうか。
DTPやデジタルカメラの登場は、「優秀さ」の定義も変えました。DTP登場後の優秀な編集者とは、原稿編集能力だけでなくDTPを扱える能力も含めた総合力での評価に変わりました。デジタルカメラ後のカメラマンは、よい撮影ができるかどうかだけでなく、データ加工したあとの画像がきれいかどうかで判断されるようになりました。
その一方で、やるべき仕事の種類が増えたからといって、編集者の給料も、カメラマンのギャラも増えていません。また、これらの変化に対応せず従来の専門能力だけで勝負する人たちももちろんいます。しかし、そのマーケットは明らかに縮小しています。
開発と運用の総合力で評価される
これをクラウド時代のITエンジニアやその組織に置き換えてみてると、これからは「優れた開発能力」だけでは優秀とはいえず、それを優れた運用によってサービスとして提供できてはじめて顧客に評価される、ということになるのでしょう。しかし一方で、それを理由とした高い料金を設定することはできない、ともいえそうです。
パッケージソフトの時代のチャンピオンであるマイクロソフトは、製品の開発力が強さの源泉でした。しかし現在、時代のチャンピオンとみなされるのは開発だけでなく運用においても圧倒的な存在となっているグーグルです。すでにITの世界でも、先端部分は総合力の勝負にさしかかっていると見るべきです。
これからやってくる「IT総合力の時代」。もちろん編集やカメラマンとは違い、企業などの組織の総合力が問われるとすれば、開発と運用が積極的に協力し情報を共有できるような組織作りと、両方を理解したうえで専門性を発揮できるエンジニアが必要になってくるのではないでしょうか。
本エントリはBlog on Publickeyからの転載です。
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新野淳一
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