グーグルやヤフーとは別次元の価格破壊を引き起こしたSkype
先日公開された@ITのニュース記事「@IT/ITmedia両編集長が予測「2006年 IT業界はこうなる」」はお読みいただいたでしょうか。私とITmediaエンタープライズの浅井さんが2005年を振り返りつつ、2006年を展望する、という面白い企画ですので、もしまだお読みいただいていない方はぜひご覧ください。
この対談の中で私はSkypeについて触れていますが、対談の中で言い切れなかったことがいくつかあるので、このエントリで少し補足したいと思います。
Skypeは、下記の2について非常に特徴的で、それゆえに注目しています。
・IP電話の標準プロトコルを採用していない
・運用コストが事実上ゼロ
IP電話の業界標準プロトコルとして“SIP”というのがあります。IP電話の通話を制御するプロトコルなのですが、Skypeはこの標準であるSIPを採用していません。SkypeのPtoPアーキテクチャではそもそもSIPを実装することが困難なのですが、業界標準のプロトコルを採用していないSkypeが、事実上最も利用されているIP電話アプリケーションであるというのは、とても興味深い現象だと思います。
しかしそれ以上にインパクトが大きいのが、2点めの“運用コストが事実上ゼロ”という点です。例えば、グーグルやヤフーは誰でも無料で利用することが出来ますが、両社はそのサービスを提供するために巨大なサーバ群に投資し、莫大な運用コストをかけています。それを私たちが無料で利用できるのは、両社が広告収入などで運用コストをまかなっているからです。
一方でSkypeは、世界中の人との高品質な通話を瞬時に実現するという、それまで国際電話会社が莫大な投資をして実現してきたサービスを提供しているのにもかかわらず、Skypeは誰も明示的に運用コストもサーバ投資も負担していません(あるいは、利用者がちょっとずつ負担しているとも言えます)。
これはSkypeが採用した“PtoP”というアーキテクチャにそういう性質が備わっているためで、Skypeはこれを非常にうまくスケーラブルに実装することに成功しました。
つまり、同じ“サービスを提供する”ものでも、グーグルやヤフーが無料で利用できるということと、Skypeが無料で利用できる、というのは、本質的に異なる仕組みで実現されているのです。
グーグルやヤフーは“広告によって無料でサービスを提供する”というビジネスモデルを作り上げて成功し、そのビジネスモデルがいまやソフトウェア業界に対して価格破壊を起こしつつあります。先日取り上げたOperaなどもその例でしょう。
しかしそのすぐ隣で、サービスの運用コストがそもそも不要という、別次元の価格破壊がPtoPによって引き起こされています。
PtoPはまだまだこれからの技術で、いろんな可能性を持ったアプリケーションが登場してくることは間違いありません。例えばもし、検索エンジンがPtoPで実装されたら? オークションがPtoPで実装されたら? ERPがPtoPでされたら? など、いろんな想像ができます。そしてその想像のいくつかは、もしかしたら2006年に実現されるかもしれません。PtoPというテクノロジは、再び大きくスポットライトが当たるような気がします。
個人的にはSkypeにAPIがついてプラットフォームとなり、そのPtoPネットワークをプログラマが柔軟に利用できるようになったらとても面白いと思っているのですが。
対談の中で触れたことですが、いまマイクロソフトのCTOとなったレイ・オジー氏は、少し前までPtoPのグループウェアGrooveの開発をしていた人物です。いま、彼はマイクロソフトの中でサービス化を推進する人物として知られていますが、いずれPtoPでも大きな仕掛けを考えていておかしくありません。
大型サーバがサービスを提供する世界よりも、小型のPCが多数存在して成り立つ世界のほうが、マイクロソフトには心地よいはず。そのためにはサーバ不要のPtoPでいろんなサービスができるほうが都合がよいのですから。