テクノロジーの大きな可能性を見せてくれた、IBM基礎研究所のコグニティブ・コンピューティング説明会
昨日2014/4/24、IBM東京基礎研究所で「学習するコンピューティング〜“ Cognitive Computing ”」の説明会があり、参加いたしました。
コグニティブ・コンピューティングを中心に、東京基礎研究所が持つ様々な技術が紹介されました。
IBMのコグニティブ・コンピューティングといえば、2011年に全米クイズ王に勝ったワトソンがその代表格です。→参照ブログ
ワトソンは開発当初からビジネス活用を検討しており、実際に医療診断や投資アドバイス等でも活用されているそうです。
今回のデモでは、実際に数万種類のレシピを覚えて、家族構成や冷蔵庫の在庫から、1週間のお勧めレシピを提案する様子を見せていただきました。
マイクで「この食材はイヤ」と言うと、別のメニューに調整してくれます。
FAQ形式になっているテキストデータを読む込ませることで、ルールを覚え込ませることができるそうです。
また、交通渋滞を緩和する技術のデモもありました。エージェント技術を活用したPredictive Traffic Management (予測トラフィック管理)です。
これは祇園祭で混雑する京都を例にとって、交通状況や気象をシミュレーションして、ソーシャルメディアの反応をリアルタイムにチェックしながら、渋滞待ちを最小化できるバスの運行を実現するものです。
ここでは、東京基礎研が10年以上前から研究している「エージェント技術」と呼ばれるテクノロジーを使い、一台一台の車の癖を一つ一つのエージェントに覚えさせて動かし、交通状況をシミュレーションします。
ソーシャルメディア分析については、オルタナブロガーでもある米持幸寿さんが、実際に2011年に、東日本大震災での風評分析を試行された技術を使っているようです。→米持さんの論文
ニューロコンピューティングのハードウェアも展示されていました。
これは、世界で最も優れた情報処理システムである脳細胞の動きをヒントに開発されたものです。
256個の神経細胞(ニューロン)に相当する非フォン・ノイマン型の300万素子を展示していました。(米国の国防高等研究計画局(DARPA)が出資するSyNAPSEプロジェクトの成果です)
各ニューロンが記憶を保持します。将来のニューロンチップが出来ることを紹介するために、町中を動く車や人、自転車を、それぞれ認識する動画デモもありました。(イメージでもであり、現時点ではまだ出来ていないそうです)
展示していたのは256個のニューロンに相当するチップですが、人間の脳は10の10乗から11乗の神経細胞があります。人間レベルになるにはまだまだ時間がかかりそうです。
将来予想されるムーアの法則の限界も考えると、大きな挑戦になりそうですが、まったく新しいコンピュータの予感もさせてくれます。
他にも、船舶のエンジンなどのセンサーをモニタリングし故障を予測する異常検知技術や、監督官庁が公開している自動車不具合情報を16カ国に対応して分析できる技術もありました。
このように、10年・20年のレンジで長年の研究を続けて、蓄積した技術を元に、リアルな顧客プロジェクトを通して、粘り強く進化させていくのが、IBM基礎研究所の強みであることを、改めて実感しました。
デモや説明を見ながら、私は、昨年10月の世界経営者会議で、GEイメルト会長が発言した内容を思い出しました。→イメルトの発言のまとめ
イメルト会長は、「GEの全ての事業会社でソフトウェアは重要だ。GEのサービスの中にソフトウェアを埋め込み、導入機器からのデータ分析をビジネスにする。GEはソフトウェア会社になる。領域によってはIBMがライバルになる」と言っています。
この点について質問をしたところ、「確かにIBMはGEと競合する分野もあるが、同時に協業もしている」との回答でした。
確かに、このような技術の積み重ねはIBMの独断場です。一方でIBMは、その技術を顧客企業の実業務で検証しています。
実業務に強いGEと技術に強いIBMは、お互いにある程度棲み分けていて、重複する部分が競合している、ということのようです。
IBMは、技術を活用して顧客のビジネス課題を解決するテクノロジーカンパニー。
実際、1911年の創業で主力事業だったパンチカードシステム(タビュレーティングマシン)も、国勢調査、在庫管理、会計管理などで顧客の情報処理の効率を飛躍的に高め、その後のコンピュータに繋がる情報処理システムでした。
このIBMが持つ幅広いテクノロジーの一端を垣間見て、未来の可能性を堪能した説明会でした。
お招きくださった日本IBMの皆様には、深く感謝申し上げます。