なぜ、日本人のプレゼン資料が海外に伝わらないのか?
加藤さんのきょこコーリングのエントリー「アメリカ人に通じるプレゼンを作るために」で書かれていた
「アメリカにいる上司を説得しなければならないときに、「英語力を上げよう」として英会話に通ったり、ビジネス英文の書き方の本を読むのではなく、MBA関連の本を読むとのこと。」
という箇所を読み、非常に納得できましたので、ちょっと考えてみました。
日本人が作るプレゼン資料が、なかなか海外の人に伝わらないということは、海外とコミュニケーションをなさっている方であれば、経験なさっていることと思います。
欧米社会だけでなく、アジア社会でも結構起こっているように思います。
欧米型のプレゼン資料(又は製品資料やお客様事例等)というと、こんな感じではないでしょうか?
- 文章をズラズラ書く。絵はない
- 我々からすると、当たり障りのない文章。当たり前の結論
- でも、何故かこれでちゃんと意思が伝わるし、相手も動く
一方で、日本人が海外で使うプレゼン資料の典型的な例は、こんな感じではないでしょうか?
- 図を使い、分かりやすさに心を砕く
- 非常に時間をかけて凝った内容にする
- でも、何故か伝わらない。伝わらないから相手も動かない。動かないので目的を達成できない
何故でしょうか?
私は以前、海外のIBM社員や大学教授が審査員になっている社内のマーケティング試験になかなかパスできず、理由を考えたことがあります。(この試験は、ケース・スタディに対してマーケティング戦略を構築しドキュメントにまとめる形式でした)
ある時、合格答案と不合格答案を見る機会がありました。
合格答案はほとんど海外IBM社員によるものでしたが、上記の2タイプのうち前者のタイプばかりでした。一方で、日本人の不合格答案は、後者のタイプが多いことが分かりました。
両者をさらに精査しているうちに、分かったことがありました。
前者の海外IBM社員による合格答案は、非常に論旨が明確でした。日本人からすると「何をいまさら当たり前のことを」という内容まで、丁寧に、しかしエッセンスを簡潔に書いています。一通り読むと、ロジックが明確で、戦略が論理的に導き出されたことがよく理解できます。
これに対して後者は、絵は非常に凝っているのですが、説明がないのでドキュメントだけでは何故そのような結論になるのかが分かりませんでした。
恐らくオリジナリティのあるアイディアが至る所にあるのですが、何故それが全体の戦略の中で意味があるのかが明確に説明されていません。
全体のロジックが読み取れないため、恐らく何らかのロジックはあるのでしょうけれども、思いつきで書いているように見えます。
恐らく下記のようなことが起こっているのではないでしょうか?
文化的背景が異なる人々から構成されている欧米社会は、ローコンテキストコミュニケーションの社会です。つまり、暗黙知の共有度が低く、形式知によるコミュニケーションが主体に社会です。このため、ロジックが明確であることが重要であり、文章でロジックを記述する方が伝わることになります。
グローバル化が急速に進む現代、このコミュニケーション・スタイルは世界全体で共通であると思います。
一方で、日本はハイコンテキストコミュニケーションの社会です。つまり、我々はお互いに暗黙知を共有しているため、ドキュメントで凝った絵が何枚も続いても、その絵の間のロジックを読む側が補完できます。そのため日本人同士であれば伝わります。
一方、欧米人とはそもそも暗黙知が共有できていないため、凝った絵が何枚も続くと、欧米人はその間の意味が日本人同士の時のように補完できません。従って理解できないので意図が伝わらず、相手も動かない、ということになります。
(ローコンテキストコミュニケーションとハイコンテキストコミュニケーションについては、以前こちらで書きましたので、ご参照下さい)
では、我々はどうすればよいのでしょうか?
プレゼン資料の作り方に限って言うと、上記で書かれていることを理解できれば、実は解決は比較的容易ではないかと思います。
ポイントは下記の3点ではないでしょうか?
- 全ての絵に、上に2-3行でそのチャートで言いたいポイントを書く
- かつ、各チャートのポイントを順番に読めば、ロジックが通るように書く
- その際、相手が何も知らない状態でも分かるように、背景等も簡潔に書く
(追記: 2007/8/16 13:00) 上記は、ロジックがしっかり通っていることが大前提です。ロジックがない話は、そもそも海外には通じないと考えた方がよいでしょう。
欧米社会では、大きなイベントや戦略的製品のローンチでもない限り、日本のように凝った絵はあまり見ることがありません。
欧米社会の人達も、必ずしも長々とした文章を好きで読んでいるのではない筈です。恐らく、実は凝った絵を作れる人材が少ない、というあたりが現実なのではないでしょうか?
ちょうど日本のマンガが世界を圧倒しているように、ビジネスの現場でも、日本人が作るプレゼンの絵に明確なロジックが分かり易く付けられれば、ビジネスの世界でも圧倒できる可能性があると思います。
このために必要なことは、我々のちょっとしたブレークスルー、つまり欧米社会のコミュニケーション・スタイルの理解とその対応なのではないかと思います。
(追記: 2007/8/16 13:00) ちなみに、先のマーケティング試験ですが、会社としてスキル向上策を講じた結果、現在の日本人の合格率は海外IBM社員と全く遜色ないレベルまで向上しています。要は慣れの問題ということですね。