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ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

文科系のためのPOWER7プロセッサーの話

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僕が携わっているパワー・システムの心臓部にはPowerと呼ばれるプロセッサーが搭載されていて、2001年のPOWER4、2004年のPOWER5、2007年のPOWER6ときちんと3年毎に新テクノロジーが登場している。そのルール(?)を守るとすれば来年にはPOWER7プロセッサーが登場する順番になる。アメリカのHOT CHIPS 21と呼ばれるシンポジウムでは少しずつその概要が公開されているようだ。その内容をざっと目にする機会があったので、文系の僕が理解できた範囲で述べてみようと思う。せっかくの情報なのにあまり日本では取沙汰されていないのはもったいない。なお、会社としての公式なコメントではないし、正確であることを保証するものではないので、その点はご了承くださいませ。

まずは物理的な特性から見てみよう。45nmリソグラフィー・テクノロジーの採用によって、POWER6の65nmよりも一段と集積度を高め、567平方ミリメートルのスペース上に約12億のトランジスタを搭載している。POWER6登場当初の搭載トランジスタ数は約7億9千万と言われていたので1.5倍近い。そして、従来では外付けだったL3キャッシュを32MBほどチップ上に搭載している。ここではeDRAM(embedded DRAM)と呼ばれるテクノロジーが採用されている。

POWER6もそうだったように、通常のプロセッサー搭載のキャッシュではSRAMテクノロジーが採用される。トランジスタの組み合わせで作られるメモリである。プロセッサーは要するに膨大な数のトランジスタによるスイッチの固まりなのであるが、同一製造技術のままにキャッシュメモリも同時に搭載しようとすると、SRAMにならざるを得ないのだそうだ。これだと1ビットのデータを記憶するためにトランジスタを6個必要とするので、「多くの土地」(プロセッサー・チップ上のスペース、ちなみにプロセッサー・アーキテクチャーに関する文献などを見ると、「Real Estate:不動産」という用語を見かけることがある)を必要とするし消費電力も大きくなってしまう。当然トランジスタの数だけ漏れ電流が発生するはずなので、発熱量も半端ではないだろう。

メモリ・チップにおいては、SRAMが採用されているケースは滅多になく、そのほとんどはDRAMなのではないだろうか。これだとトランジスタ1個とキャパシターがあれば1ビットを保持できるので、スペース効率が良いし、省エネルギーにもなる。ただキャパシターだといずれは放電してしまう(データを忘れてしまう)ので、ある程度のサイクルで記憶をリフレッシュする(データを思い出させてやる)仕組みが必要だ。結構人間的な仕組みだな。で、それよりも問題なのは、メモリ・チップならばともかく、膨大な数のトランジスタの集まりであるプロセッサー・チップ上に、異質の製造技術を要するキャパシターを同時に搭載するのが非常に困難な事なのだそうだ。このように組み込まれたDRAMだからeDRAMと呼ばれるとか。もしPOWER7がL3のためにeDRAMではなくSRAMを採用していたら、27億ものトランジスタに匹敵するとのことである。

チップ上のL3キャッシュだから、外付けされているよりもアクセス・タイムは相当に改善されるはずだし、32MBとかなりの大容量だからコアあたりの性能もかなり高くなるだろう。他にも技術上の革新は行なわれているそうなのだが、一気に書き切れないので気が向いたらぼちぼちとしたためてみようと思う。

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