【書評】"Likeonomics: The Unexpected Truth Behind Earning Trust, Influencing Behavior, and Inspiring Action"
米国のオキュパイ・ウォールストリート運動や日本の反原発デモに象徴されるように、いまや大企業や政府に対して、かつてないほどの不信の目が注がれる時代となっている。そのような環境下では、どのようなマーケティング手法も本来の効果を発揮することができず、どんなに良い製品・サービスでも正しい評価を受けることはできない。従って、いま企業がまっさきに取り組まなければならないのは、消費者との間に信頼関係を再構築すること――本書"Likeonomics: The Unexpected Truth Behind Earning Trust, Influencing Behavior, and Inspiring Action"は、現代における「信頼感」の重要性と、それを手に入れるための行動指針を解説した一冊である。
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著者のRohit Bhargava(ロヒット・バーガバ)氏は、本書執筆中にPR会社Ogilvy Public Relationsでシニア・バイスプレジデント(グローバル戦略企画部門)を務めていた人物。マーケティングとソーシャルメディアの専門家であり、「ソーシャルメディア最適化(Social Media Optimization, SMO)」のコンセプトを最初に提唱した人物なのだそうだ。
本書を読むと、間近に迫った日本の選挙でもイシューのひとつとなっている「エネルギー問題」に関する議論を思い出さずにはいられない。3.11がもたらした電力不足を解決しようとする試み、すなわち原子力発電所の再稼働、燃料費高騰に対応するための電気料金値上げ、輪番停電の導入といった対策に対しては、いずれも世論から大きな疑問の声を投げかけられてきた。また「そもそも電力が不足しているかどうかも疑わしい」という主張も行われている。原発に回帰するのか、再生可能エネルギーを追求するのか、はたまた社会における電力使用を抑制するのか――いかなる道を選択するにせよ、社会の中で合意が形成されなければ、第一歩を踏み出すことすらできない。本書は企業に対する信頼感の欠如が「社会の根底を揺るがしかねない」との警鐘を鳴らしているが、まさに日本の現状を言い当てていると言えるだろう。
その意味で本書が扱うテーマは、多くの日本人読者にとって、身近な問題として受け取られるのではないかと感じた。さらに「信頼感」という捉えがたい感情について、曖昧な解説をして終わるのではなく、それを構成する要素を丁寧に分解して考察を行っており(Truth「真実を語ること」、Relevance「相手の関心に合わせること」、Unselfishness「利他的になること」、Simplicity「シンプルにすること」、Timing「タイミングを図ること」の5つの頭文字を取って"TRUST"という概念を提唱している)、具体的なアクションにつなげやすい内容になっている。企業内でマーケティングやPRに携わる人々には、日常業務で参考になるアドバイスを提示する一冊と言えるだろう。
ところで、本書のタイトルは「Likeonomics」(Like + Economics)なのだが、バーガバ氏自身がこのタイトルについて「フェイスブックの『いいね!』を連想して、ソーシャルメディア本だと誤解してしまうかもしれない」という懸念を述べている。彼の言う通り、パッと見た限りではフェイスブックを始めとしたソーシャルメディアの活用術か、あるいは単にネット上で「ウケる」技術を論じた本と誤解されてしまうだろう。
特に日本では、岡田斗司夫氏が「評価経済」という単語を提唱しており、その二番煎じとして捉えられてしまう恐れがあるのではないだろうか。もちろん評価経済とLikeonomicsは別物であり、前者は「評価されることそのものが貨幣的価値を持つ」という話だが、後者は「信頼感を得ることが他人を動かすのに不可欠な時代になっている」という話である。「消費者から気に入られれば後はどうでも良い」という主張ではない。この点を誤解してしまうと、本書を手に取りづらいかもしれない。
ただし実務的な内容にすることを宣言しているだけあって、文章は非常に分かりやすく、読者を選ぶことはない。いちど手に取ってもらえれば、多くの人々が価値を実感してくれるのではないかと感じている。
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