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【書評】'Stealth of Nations: The Global Rise of the Informal Economy'

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WIRED誌の紹介記事がきっかけで、Robert Neuwirth氏の'Stealth of Nations: The Global Rise of the Informal Economy'を購入。なかなか面白い内容でしたので、ちょっとご紹介を。

お気づきになる方も多いと思いますが、本書のタイトルはアダム・スミスによる経済学の古典『諸国民の富(Wealth of Nations)』のもじり。しかし「ウェルス」ならぬ「ステルス」とはいったい何のことでしょうか?実は副題の「インフォーマル・エコノミー(非公式経済)」が指し示している通り、本書は違法な行商や海賊版販売、密輸といった地下経済を扱った一冊です。著者のRobert Neuwirth氏はナイジェリアの不法居住区などに実際に飛び込んでみることで、こうしたなかなか見ることのできない世界を丹念に追っています。

しかし地下経済とはいっても、本書が扱っているのはマフィアや暴力沙汰、麻薬取引といった事例ではありません。もちろん違法であることには変わりないのですが、主に発展途上国において、一般の人々が生活のために営んでいる非公式な経済活動がテーマとなります。従って「地下経済」というネガティブな響きを持つ言葉は使わず、「見えない(ステルス)経済」という表現がなされており、さらに文中では「システムD」という単語がこうした経済活動を示すものとして使われています。

わざわざシステムDという中立的な言葉を用意していることからも分かるかもしれませんが、本書は隠れた経済活動を否定するものではなく、むしろその重要性に眼を向けようというのが最大の主張となっています。

例えば本書で紹介されているシステムD事例の1つ"Pure Water"。これは0.5リットルの水が入った小さなバッグで、ナイジェリアの様々な都市で行商人によって運ばれ、販売されているものです。まだ公共の水道インフラが未発達な地域の多いアフリカでは、こうした非公式な活動がシステム化され、インフラの代わりを果たしているわけですね。このように「見えない経済」の方が、むしろ実社会のニーズに上手く適応している場合があることが様々な事例によって示されます。

システムDが様々な社会システムを補う役割を果たしているのであれば、それを利用しない手はありません。例えば先程のように、(たとえ非公式な経済活動であったとしても)行商人によってモノが運ばれる仕組みが存在しているのであれば、そこを通じて新たな市場にリーチすることができるわけですね。実際にP&Gでは、顧客の中で最も取引額が多いのはウォルマート(P&Gの売上の15パーセントを占める)であるものの、売上の中で20パーセントを占めているのはHFS(High Frequency Stores:地元民が週に何度も訪れて買い物をするような小規模店舗)であるとのこと。さらにそういった個人商店的な店舗では、人々は非常に小さな単位で買い物をするため、P&Gはそれを考慮に入れたパッケージング・商品開発を行っているそうです。

少し話は逸れますが、「非公式」な社会システムが上手く機能するという話を聞いて、以前読んだこの本を思い出しました:

【書評】『災害ユートピア―なぜそのとき特別な共同体が立ち上がるのか』

被災地と途上国という場所の違いはあれど、「公式」なシステムが求められる役割を果たすことができず、現場にいる人々が立ち上げたアドホックな仕組みが代役を果たしたという点では『災害ユートピア』で取り上げられている様々な事例も「システムD」的と言うことができるでしょう。その意味では地下経済、いやステルス経済的な存在は、決して途上国市場を狙うビジネスパーソンだけが気にしていれば良いというものではないのかもしれません。

実際に本書では、途上国の事例に比べて数は少ないものの、先進国に存在するシステムDの事例・歴史上の逸話なども取り上げられています。政府に認められ、数字となって現れる活動だけが社会の全てではないこと。それを正確に掴むためには、現場に飛び出して行く姿勢が必要であること。本書はこの2つを強く実感させてくれる一冊でした。

Stealth of Nations: The Global Rise of the Informal Economy Stealth of Nations: The Global Rise of the Informal Economy
Robert Neuwirth

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