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アルジャジーラ、ソマリア国民の声をSMSで集めるプロジェクトをスタート

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外国メディアが閉め出された状況で、市民がモバイル機器とインターネットを活用して貴重な情報を発信する。2009年のイランにおける抗議活動を始めとして、2011年に相次いで起きたチュニジア革命・エジプト革命などで見られたように、この状況は一般的なものになりつつあります。しかし世界には、インターネットが普及していない国がまだまだ存在します。こうした国で市民の声を外部に発信するにはどうすれば良いのか――お馴染み中東の衛星テレビ局アルジャジーラが、興味深いプロジェクトをスタートさせています:

Somalia Conflict - Al Jazeera English

ソマリアで市民の声をSMS経由で集め、集約して世界に向けて発信しようという試み。ご存知のようにソマリアは内戦状態が続いており、政府はほとんど機能しておらず、市民がどのような生活を送っているのか正確には把握できていない状況です。そこでSMSを通じて生の声を集めることで、少しでも「ソマリアで何が起きているのか」を知らしめることが目標として掲げられています。解説文に掲げられているメッセージは以下の通り:

Al Jazeera wants to know -- how has the conflict of the last few months affected your life? Please include the name of your hometown in your response. Thank you!

教えて下さい。ここ数ヶ月の紛争で、あなたの生活にはどのような影響が出ましたか?回答にはあなたの出身地の地名も入れて下さい。ありがとう!

ちなみに同じ質問がソマリ語でも掲載されているのですが、これ対する回答が現時点で約100件登録されており、地図上にプロットされると共に、政治や社会などといったカテゴリーに分けられています。サイトのベースとなっているのは、日本でもsinsai.infoなどに使われて知られるようになったアプリケーション「ウシャヒディ」。

somaliaspeaks_1 

寄せられた情報は様々なメタ情報(どこに関する情報なのか、裏付けが取れている情報かといった項目に加え、閲覧者による信頼性に対する投票、コメントなど)と共に、個々のメッセージの単位で確認することが可能です:

somaliaspeaks_2

My hometown is Mogadisho but now i'm hidding myself in kenya coz i can't go back to my country . I have lost many important persons during that conflict including my lovely Mother!

私はモガディシュ出身ですが、ソマリアに帰ることができないため、今はケニアに隠れています。内戦で多くの大切な人々を失ってしまいました。愛する母も含めて!

コメントや投票が可能なことからも分かるように、このプロジェクトは人々の協力を呼びかけており、ソマリ語で寄せられたメッセージをオンラインで翻訳する作業の協力者も募集されています

Fast Companyの記事によれば、このプロジェクトはNGO団体のSouktelと協力して実施されており、彼らのデータベースに登録されているソマリア市民5,000名に対して呼びかけが行われたのだとか。前述のようにサイトに掲載されているのは現時点で100件超ですが、受信した回答は既に2,000件を超えているそうです。SMSで実態調査するという試みは、過去にパレスチナのガザ地区でも実施されており("War on Gaza"というサイト)、アルジャジーラにとっては2回目の取り組みとなるとのこと。

今回のプロジェクトでは、

  • アルジャジーラが情報発信のきっかけを作り(協力の呼びかけ)
  • その受け皿を用意すると共に(ウシャヒディをベースにしたサイトの構築)
  • 寄せられた情報の加工(翻訳および信頼性の確認)を行う

という3役をこなしています。あるいは、恐らくここで得られた情報が最終的な「記事」という形に反映されるのでしょうから、情報の編集も加えて4役をこなしていると言えるかもしれません。ただし情報の加工については第3者も参加する形(翻訳者として立候補する、個々のコメントの信頼性に対する投票を行う)で行われており、また呼びかけについてもNGO団体との協力の下で行われています。さらにそもそもの情報発信を行うソマリア市民を加えれば、従来に比べて複雑な組み合わせで「ジャーナリズム」という行為が実現されていると言えるでしょう。

よく考えてみるまでもないことですが、いくらネットやモバイル機器が発展したとはいえ、それがどこまで普及しているか・どう使われているかは国や地域毎に異なります。事態を正確に把握する場合、個々にカスタマイズされたプロジェクトを立ち上げ、その地域に即した情報収集・加工の仕組みを創り上げることが必要なのでしょう。その意味で今回のアルジャジーラの取り組みは、ソマリアという国にどのような影響を与えるのか、またそこから何が生まれてくるのか、注目に値するのではないでしょうか。

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