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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

今年も残すところ3ヶ月となりました。まだ今年を振り返るには早いのですが、1月のジャスミン革命に始まり、3月の東日本大震災、そして最近の世界各国における「デモ+ソーシャルメディア」という現象など、改めてネットの存在感を印象づける出来事が続いたと思います。今回ご紹介する"The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You"は、そんな一年を締めくくるのにふさわしい、非常に考えさせられる一冊です。

The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You
Eli Pariser

Penguin Press HC, The 2011-05-12
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前回のエントリでも簡単にご紹介したように、本書は協調フィルタリング(+パーソナライゼーション)の功罪について考察した本です。ネット上の情報量が爆発的に増加した結果、その中から欲しい情報だけを拾い集めてくれる「フィルター」は単なる便利機能ではなく、私たちの生活を左右するほどの非常に重要な存在へと変貌を遂げました。しかしそのフィルターは正常に作動していると言えるのか、実はより重要な情報を見逃すような結果をもたらしていないのか、そもそも情報を選択的に消費することは是か非か――GoogleやFacebookのアルゴリズムを紹介するところから出発する本書は、次第に本質的な問いへと進んで行きます。その意味で、本書は協調フィルタリングをテーマにしつつ、実はネット時代の生き方を問う哲学的な一冊とも言えるでしょう。

実際、いかに人間が簡単な仕掛けで思考を左右されてしまうかを示してくれるという点で、以前ご紹介したダン・アリエリー氏の著作に通じる側面を持つと共に、自由で開かれたインターネットが異質なものに変化しつつあることに警鐘を鳴らしてくれるという点で『インターネットが死ぬ日』的な側面を持ち、さらにその中でどう情報に接して行けば良いかを考察しているという点で『あなたがメディア!ソーシャル新時代の情報術』的な側面を持つ本だと感じています。ついでに未邦訳の本で言うと、同じく以前ご紹介した"Nothing to Hide"や、"Where Good Ideas Come From"などとの類似性もあり、これらの本が面白かったという方は本書も楽しめるのではないでしょうか。

そこからも分かるように、本書は非常に多くの論点を提供してくれていて、皆さんとディスカッションしたい点が無数にあるのですが、ここでは1つだけ取り上げておきましょう。

フィルタリングによって私たちの思考はおろか、行動までが左右されかねない時代、私たちユーザーにはどのような心構えが求められるのか。提言の1つとして、著者のEli Pariser氏はこんなことを述べています:

In other words, it’s becoming more important to develop a basic level of algorithmic literacy. Increasingly, citizens will have to pass judgment on programmed systems that affect our public and national life. And even if you’re not fluent enough to read through thousands of lines of code, the building-block concepts – how to wrangle variables, loops, and memory – can illuminate how these systems work and where they might make errors.

言い換えれば、基本的な「アルゴリズム・リテラシー」を育てることがさらに重要になっているということだ。人々は今後ますます、国家や市民生活に影響する決断をプログラムに一任するようになるだろう。何千行ものソースコードを読むことができないとしても、基本的なコンセプト(変数やループ、メモリがどう処理されているかなど)を理解しておけば、プログラムがどのように動作し、どのような間違いを犯す可能性があるか予測できるようになるはずだ。

「アルゴリズム・リテラシー」とは面白い表現ですが、要は自分が道具を使っているのだということを忘れず、その仕組みについて基本的な部分を知るようにすること、と言えるでしょうか。

前述のように、フィルタリングは情報洪水の中から必要な情報を見つけるためのものであり、全てを悪として退けることはできません。ましてやこれからの時代、ネット無しで生きて行くというのも難しい相談でしょう。であれば、道具の動く仕組みを少しでも理解して、それがより良い結果を出すように使い手の側が注意するしかありません(もちろん道具の提供者は、その道具をより良いものにして行く責任を負っているわけですが)。ハサミがものを切る仕組みを知らずに使い続けていれば、いつか手をケガしてしまうかもしれないのですから。

もちろん本書が特効薬を与えてくれるわけではありません。しかし少なくとも本書は、「ハサミの危ない使い方をしていないか」という点に意識を向けてくれる一冊と言えるでしょう。読書の秋ということで、ご興味のある方は是非手を伸ばしてみて下さい。

【○年前の今日の記事】

失敗がズンバを生む (2007年10月4日)
差別化するレジ (2006年10月4日)

アキヒト

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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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