スケープゴート化するソーシャルメディア
英国の暴動に端を発した「暴徒を抑えるために携帯電話やソーシャルメディアを使えないようにする」という発想は、海を渡って米サンフランシスコにも飛び火していますが、果たして一般市民のコミュニケーション手段を規制してしまえば済む問題なのか――CNNで「ソーシャルメディアがスケープゴートにされているのではないか」という指摘が行われています:
■ Little evidence links mob violence to social media (CNN)
冒頭で紹介されている事例が興味深いので、ちょっとご紹介しておきましょう。最近クリーブランド市議会で「ソーシャルメディアを通じて暴徒を集めたり、犯罪をそそのかしたりすることを違法化する法案」が可決されたそうなのですが、それに対して市長のFrank Jackson氏が反対を表明。拒否権を発動して法律化を阻止したのだとか。市長のこんなコメントも紹介されています:
"It's very difficult to enforce something that's unconstitutional," Jackson said in an interview with CNN. "To make a criminal activity of just having a conversation, whether some acts of criminal activity are associated with it or not, it goes beyond reason."
「憲法に反するような規制を行うのは非常に難しい」とJacksonはCNNのインタビューに対して答えた。「犯罪行為に関係していようがいまいが、単に会話しただけで犯罪になってしまうような法律は理不尽だ。」
実はクリーブランド市では、若者の集団が突然小売店に押し寄せ、あっという間に売り物を奪って去って行くという「フラッシュ・ロブ」(先日の記事でも取り上げています)の被害に悩まされているそうで、市議会の行動はそれを念頭に置いてのものだそうです。ところが警察の調べによれば、少なくとも当地で発生しているフラッシュ・ロブについては、インターネットを通じて組織化が行われたという明白な証拠は見つからなかったとのこと。むしろイベントなどで大勢の若者が一箇所に集まることの方が、暴徒的行為の発生に影響しているという可能性が指摘されています。
もちろんクリーブランド市の事例だけでソーシャルメディアが暴動に対して与える影響を否定することはできませんし、英国の暴動を始めとして、ネットやモバイルなど新たなコミュニケーションツールが犯罪行為への参加を後押しするというケースが実際に発生しています。ただ、そうした出来事の全ての責任をソーシャルメディアに押しつけるのは、「チュニジア・エジプト革命はソーシャルメディアが起こした!」と言うのと同様、全体の中の一部分しか見ない結果になってしまうでしょう。そしてネットやモバイル規制を行ったチュニジア・エジプトの独裁者が最終的には打倒されてしまったように、暴動や混乱が起きているからといって安易なネット規制に走るのは、根本的な問題解決には何ら寄与しないのではないでしょうか。
「最新機器やサービスを利用して集団行動が起きる」という発想は、ポジティブ/ネガティブの両面から心を捉えやすく、それだけに過剰な礼賛や過剰な攻撃が生まれがちです。それだけに何でもソーシャルメディアで解決できるような気分になってしまったり、今回のような「いっそ規制してしまえ」という態度になってしまったりするわけですが、どちらも問題から目をそらす結果にしかつながりません。僕自身もそういった態度に陥りやすいことは認めざるを得ませんし、それだけにこうしたケースが発生した時には、「技術+社会/人間」という視点で問題を捉えるように努めなければならない、と感じています。
余談ですが、上記のCNNの記事では「規制するより自由に使わせて、監視体制を敷いて悪用を防ぐ」という選択肢もあることが指摘されています。確かにこれは解決策となり得る発想ですが、ソーシャルメディアと監視という問題については、このブログでも何度か取り上げたように、それはそれで大きな問題をはらんでいるわけで……。社会はソーシャルメディアとどう付き合うべきか、難しいバランスが要求される時代になっているようです。
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