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災害とソーシャルメディアと医療機関

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このブログでも以前から触れてきたように、災害発生時、一般の人々がネット上へ関連情報を投稿することが増えてきたのを利用して、公的機関がソーシャルメディアを活用するというケースが生まれ始めています。例えば「~で火事が起きてる」というツイートをいち早く把握したり、そこに添付されている画像や位置情報を活用すれば、より適切な対応が可能になるわけですね(もちろん110番/119番通報が十分に行われることが望ましい状況ではあるのですが)。また当然ながら、公的機関から災害関連情報を伝えるという逆方向のコミュニケーションにもソーシャルメディアを利用することが可能です。

こうしたソーシャルメディア活用は、警察や消防だけでなく他の組織にも応用できるアイデアでしょう。実際に医療機関における被災者対応に使うことができるのでは、という提言が米国の医学雑誌"The New England Journal of Medicine"でなされています:

Integrating Social Media into Emergency-Preparedness Efforts (The New England Journal of Medicine)

医学博士のRaina M. Merchant氏ら3名によって書かれた論文で、例として以下のようなアイデアが紹介されています:

  • より緊急度の高い患者の元へ医療サービスが届けられるよう、情報収集のベースとする
  • 病院や診療所、救急センターの待ち時間を告知する
  • 救急要員の所在地や対応状況を告知するために、位置情報サービスのチェックイン機能を活用する
  • 医療機関から災害に関する情報を発信して、一般からの援助を募る

などなど。またここに書かれている以外にも、様々な活用法が考えられるでしょう。昨日の記事のように、スマートフォンアプリを通じて被災者のケガや症状を把握するという可能性もあるかもしれません。さらにTwitterの書き込みから株価の動向が予測できたり検索エンジンに入力されるキーワードの頻度からインフルエンザの流行が把握できたりするのであれば、病人やけが人の発生を事前に察知して体制を整えておく、なんて対応も可能になるかも。

一方で論文では、デマや情報の精度に関する問題や、情報収集することによるプライバシー侵害の可能性など、ソーシャルメディア活用に伴う危険性についても指摘されています。この点については、同じく先日の記事で紹介した例ですが、IT企業などの専門家による支援が期待できるのではないでしょうか。あるいはより直接的に、ソーシャルメディア運営企業と医療機関が提携するという可能性も考えられるでしょう。

それではいま、何がなされるべきなのでしょうか。論文は次のような言葉で締められています:

Of course, social media cannot and should not supersede our current approaches to disaster-management communication or replace our public health infrastructure, but if leveraged strategically, they can be used to bolster current systems. Now is the time to begin deploying these innovative technologies while developing meaningful metrics of their effectiveness and of the accuracy and usefulness of the information they provide. Social media might well enhance our systems of communication, thereby substantially increasing our ability to prepare for, respond to, and recover from events that threaten the public's health.

もちろんソーシャルメディアを活用することが、災害管理コミュニケーションに対する現行のアプローチに優先されたり、公共医療インフラに取って代わったりすることはあり得ないし、あってはならない。しかし戦略的に活用されれば、現行のシステムを強化することができるだろう。ソーシャルメディアの有効性や、それによってもたらされる情報の精度・実用性を評価する指標を確立しつつ、その革新的技術を展開することを始めなければならない。ソーシャルメディアは私たちのコミュニケーションシステムをより良いものにしてくれる可能性がある。それにより、人々の健康が損なわれるような状況への対策を講じ、その発生に対応し、そこから回復する能力は大いに向上するはずだ。

彼らの言う通り、ソーシャルメディアを通じた対応が現行のあらゆる対応を上回るようになると考えるのは非現実的ですし、無理にそのような方向を追求するのは誤りでしょう。しかし既存のシステムと組み合わせることで、よりよい状況がもたらされる可能性はあるはずです。まずはどのような分野でソーシャルメディアの力を活かすことができるのか、過去の事例を研究するといった対応から出発できるのではないでしょうか。

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