ビッグデータ、スマートデバイス
データを征する者がビジネスを征す――様々な言い方はあれど、それはずっと昔から言われてきたことであり、改めて述べる必要もないかもしれません。このブログでも以前『分析力を武器とする企業』や『その数学が戦略を決める』などといった関連本をご紹介していますが、企業にとって「データ」の重要性がますます高まっていることを示すレポートがマッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)から発表されています:
非常に大規模なデータの集合体を、このレポートでは「ビッグデータ」と呼んでいるのですが、そのビッグデータの活用によってイノベーションや競争力が生まれることを、ヘルスケア・小売業・公共部門・製造業・位置情報の5分野を事例として解説しています。PDFファイルで150ページを超える内容ですが、興味のある方はぜひ目を通してみて下さい。
それではデータが重要なのは良いとして、どうやったらその有効活用が実現できるのか。本レポートでは次のように提言しています:
- 「ビッグデータ」にタイミングよくアクセスすることを容易にする
- 変動性を可視化し、パフォーマンスを改善するために、データと実験を活用する
- セグメンテーションを詳細化し、よりカスタマイズされたアクションを行う
- 自動化アルゴリズムを通じて、人間による意志決定を代替、あるいは支援する
- イノベーションを起こし、新たなビジネスモデル・製品・サービスを開発する
これらの提言を通じて言えるのは、いまや「データをどう集め、誰が分析するか」という話をしている段階ではなく、「どう使ってもらうか」を考える段階に来ているということではないでしょうか。ネット&モバイルの時代、今までは取れなかったデータが取れるようになるというのはもはや当たり前であり、デジタル化されたデータを扱うコストもごく小さいものになりつつあります(マッキンゼーのレポートでは、冒頭で「世界中にある楽曲全てを保存するために必要なハードディスクは600ドルで買うことができる」という例が紹介されています)。ではどこで他社と差別化が図れるのかと言えば、実際にデータを活用する部分であり、提言の最初に「タイミングよくアクセスすることを可能にする」という内容が掲げられているのは決して偶然ではないと思います。
その意味で、ビッグデータの時代は、同時にスマートデバイスの時代とも言えるのではないでしょうか。例えば最近、企業でiPadを導入し、営業でのプレゼンツールや製造現場での見える化ツールとして活用するといった事例が増えてきていますが、これらはまさしく企業内に蓄積された大容量のデータを有効活用するという話です。しかもPCと違い、データが使用される場所を問いません。最適なタイミングで、最適なデータを利用することが可能になるわけですね。
またスマートデバイスの多くは、逆にデータを現場から拾い上げるためのツールともなります。例えばiPhoneにはGPSやジャイロといったセンサー類、またカメラやマイクが内蔵されているわけですが、これらを通じて収集可能なデータも「ビッグデータ」の一部として貴重な存在となるでしょう。改めて、スマートデバイスはビッグデータと表裏一体の関係と言えるのではないでしょうか。
極端な話をすれば、使用場所と使用者のスキルを選ぶPCよりも、スマートフォンやタブレット端末の方がビッグデータの時代の企業内端末として優れているという面も出てくるかもしれません。ごく近い将来、PC/携帯電話の導入台数よりもタブレット端末/スマートフォンの導入台数の方が上回る、などという企業も珍しくなくなるのではないでしょうか。
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