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情報開示がもたらすのはパニックなのか?

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昨日もご紹介した災害ユートピア』について、もう1点だけ。

「ディザスター映画」というジャンルがあります。『タワーリング・インフェルノ』(超高層ビルでの火災)や『ダンテズ・ピーク』(火山噴火)、『デイ・アフター・トゥモロー』(氷河期の到来)など、深刻な事件・事故や自然災害(文字通り「ディザスター(disaster)」)に直面した人々の行動を描くものですが、こうした映画にはある場面が挿入されることが多いと同書は指摘しています。それは「人々がパニックになることを恐れて、当局が情報を隠す」というもの。「今すぐこの情報を伝えて、人々を避難させなくては!」と迫るヒーローやヒロインに対して、「そんなことをしたら街が大混乱に!」的な抵抗を示す無能な役人……などといったシーン、どの映画とは言わなくても、頭に浮かぶのではないでしょうか。

ところが驚いたことに、こうしたイメージも単なる思い込みに過ぎないのだそうです:

チャールズ・フリッツの研究仲間のエンリコ・クアランテリは、「1954年に、パニックの事例を多く発見できると信じて、それをテーマに修士論文を書き始めたが、しばらくすると、『どうしよう。パニックについての論文を書きたいのに、一つも事例が見つからない』という羽目になった。と、これは少し大袈裟かもしれない。だが、『待てよ、実際に起きたことあ、みんなが想像していたよりずっとましだ』と、わかるまでにはかなり時間がかかったと語っている。

(中略)

切迫した恐ろしい状況に置かれた人々に関する研究結果を、クアランテリは災害学につきものの素っ気ない表現で、次のように記している。「残忍な争いが起きることはなく、社会秩序も崩壊しない。利己的な行動より、協力的なそれのほうが圧倒的に多い」。700例以上もの災害を研究した結果、パニックはほとんどないに等しい現象だということがわかったと、彼は言っている。

とのこと。そして現場よりもむしろ、その対応にあたる政府などの「エリート」の側で不合理な行動が取られることが多いとして、「エリートパニック」という言葉まであることが紹介されています。(実際にはパニックになりにくい人々が)パニックになることを恐れるあまり、非常に危険な状態になるまで何の情報開示もしないことなどは、その最たるものと言えるでしょう。

言うまでもなく、情報は非常に重要なものです。例えば先日も、こんな記事がワシントンポスト紙に掲載されていました:

In Ishinomaki, news comes old-fashioned way: Via paper (Washington Post)

被災した石巻市で発行されている「新聞」について。地元紙の石巻日日新聞の取り組みを伝えるものなのですが、同紙は震災で印刷設備を失ってしまったにも関わらず、毎日新聞を発行しているのだとか。その手段は「紙に手書きで記事を書き込み、張り出す」という、ある意味で情報発信の原点に帰るようなもの。しかしたとえ手段は原始的でも、情報を伝えるという行為が現地の人々に大きく貢献していることを記事は指摘しています。

最後に引用されている言葉が非常に印象的です:

“Living with no electricity or water and not much food is hard enough,” said Yutaka Iwasawa, 25, of Ishinomaki.“But the worst thing was that there was no information.”

石巻市の25歳男性、イワサワ・ユタカはこう語った。「電力も水も、十分な食料もない状態で生活するのは本当に大変です。しかし最も悪いのは、何の情報もないことです。」

物理的に被災された地域に住んでいない人々にとっても、情報がないこと・満足に得られないことは逆に不安を引き起こすものであり、最悪の状態と言えるのではないでしょうか。

一方で誤った情報を伝えたり、正しい情報でも誤解を招くような方法で情報開示することにより、ヒステリックな反応を招くリスクも残念ながら存在するでしょう。しかしだからといって、情報を閉ざしてしまうことが解決策になるわけではありません。正しい情報を、できるだけ多く、速やかに、そして広い範囲に届けるよう努力すること。当たり前の話ですが、いまこの姿勢を真摯に追求することが、改めて求められているのではないかと思います。

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