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「親に代わってネット上の子どもを監視する」サービス、米国で増加中

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子どもがネットを使うことに対して、親はどう接するべきか?という問題はずっと以前から議論されているわけですが、米国ではついに「親に代わって子どもを監視する」というサービスが登場しているそうです:

Now Parents Can Hire a Hall Monitor for the Web (New York Times)

これまでネット上の犯罪から子どもを守るというと、「危険なサイトには子どもを近づけない」というフィルタリングの発想が一般的でした。しかし無菌培養のアプローチでは、子どもがネットを使う上でのリテラシーを学ぶ機会を奪ってしまいますし、何より「危険なサイト」を判断してブラック/ホワイトリストに加えるという根気の要る作業が必要になってしまいます。そこで登場しているのが、依頼主の子どもがネット上で何をしているのか?をレポートにまとめてくれるサービスとのこと:

The new companies include SafetyWeb, based in Denver; SocialShield, of San Mateo, Calif.; and MyChild, a service of ReputationDefender, in Redwood City, Calif. These services scour the Web to create easily digestible reports for parents of everything a child is doing online.

The companies charge for subscriptions; the lowest costs $10 a month or $100 a year. For harried parents, the question is: Are they worth it?

Certainly not for people who are Web-savvy. The services gather data that can be freely collected with a bit of ardent Web searching.

But many parents are overworked and generally overwhelmed by the rapid pace of technological change and the continuing introduction of social Web sites. For these people, a simple Internet cheat sheet on their child — even at $100 a year — could be a useful tool.

デンバーに拠点を置くSafetyWeb社や、カリフォルニア州サンマテオのSocialShield社、そしてMyChildサービスを展開するReputationDefender社(カリフォルニア州レッドウッドシティー)などが、こうした新しい企業の顔ぶれである。これらのサービスはネット空間を探索し、子ども達がオンライン上で何をしているかについて、親にとっても分かりやすい形でレポートをまとめてくれる。

料金はサブスクリプション型で、安いもので1ヶ月10ドルや1年で100ドルといったところである。しかし悩んでいる親たちにとっては、「本当にそれだけの価値があるのか?」というのが聞きたいところだろう。

ネットに詳しい人々にとっては、こうしたサービスはそれほど価値はない。集められるデータは、ちょっと力を入れてウェブを検索すればタダで手に入るものだからだ。

しかし多くの親たちは、働いていて時間がない上に、技術の進歩の速さや次々と現れるソーシャルウェブサイトについていくことができないでいる。そうした人々にとっては、1年に100ドルであろうと、子ども達を監視できるサービスは使えるツールとなるだろう。

実際にこれらのサービスを使ってみたレポートが後に続くのですが、例えばSNS上で年齢がずっと上の人物と友だち登録しているとか、「殺す」や「自殺」といったキーワードを投稿しているといった点がアラートとして上がってくるようです。また調査手法についても会社間で若干の違いがあるようですが、データの源は公開情報であるという点は共通しているとのこと。従って、例えばメールやテキストメッセージなどといったウェブを介さないやり取りを捕捉できない、という点が弱点として指摘されています。

しかしNYTの記事が指摘しているように、これだけでもありがたいと思う親は多いでしょう。ミクシィだのツイッターだの、次々現れる「人気サイト」を自分で追わなくても良いわけですし、何より自分の子どもをピンポイントで監視してくれるわけですから。1ヶ月1,000円程度で子どもがネットいじめや性犯罪に巻き込まれるのを防げるのなら安いもの……と感じるかもしれません。

ただし、こうした「監視サービス」が全ての解決策になることはないという指摘もあります:

PARRY AFTAB, executive director of WiredSafety, a group that educates about online safety, says the services are no substitute for good parenting techniques, like frequent conversations about Internet activities.

“I don’t think they work terribly well, and I think they are far too expensive for what they do,” she said.

She also worries that these new companies may have a commercial interest in stoking exaggerated fear about child safety, in an effort to sell more subscriptions.

オンライン上での安全について啓蒙活動を行っている団体"WiredSafety"のエグゼクティブ・ディレクターを務めるParry Aftab氏は、こうしたサービスが良い子育て、例えば「インターネット上での行動について頻繁に会話すること」などといった行為を代替してくれるものではないと指摘している。

「それが非常に有効だとは思いません。提供されるものに比べたら、高くつくサービスでしょう」と、彼女は述べている。

また彼女は、こうした企業が利益を追求するという観点から、子どもの安全について恐怖を煽ってサービスを売り込むのではないかという懸念を示した。

『ウィキノミクス』の著者の一人であるドン・タプスコット氏は、著書『デジタルネイティブが世界を変える』の中で、自分の子どもに対してフィルタリングソフトを使わなかった理由として「そうしたソフトを使うことは『私はお前のことを信用していない』というメッセージを送ることになるから」と述べています。今回のような監視サービスは、フィルタリングソフトのように明示的ではないものの、それだけに子どもにバレた時の反動は大きいでしょう。自分の親が、「ネット探偵」を雇って自分のことをストーキングしていた――仮に自分が子どもの立場だったら、などと考えなくても、信頼を失うに十分な行為であることは想像できるはずです。

僕も親ですので、自分の知らない世界で子どもが遊ぶことに対する恐怖というものは十分に理解できます。だからと言って代理人を雇って監視させるというのは、NYTの記事でも指摘されているように、日頃からネット上での行動についてコミュニケーションするという行為を 置き換えるものではないでしょう。結局は、時間をかけて、子ども達が直面している世界を理解するよう努力していかなければならないのではと思います。

とはいえ、年頃の子どもが親と「自分の世界」について話をしてくれるか、というと……自分の過去を振り返っても、なかなか難しいことだよなーというのが正直なところですね。せめていらぬ不安を煽られてしまうことのないよう、出来る限り新しい世界についていく努力をしたいとは考えているのですが。

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