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「AR抗議活動」は是か非か?

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先日書いた記事「AR版ゲリラマーケティングの可能性」でも取り上げた、AR(拡張現実)を使ってBP社の原油流出事故に抗議するというアプリ。それがAR空間での商標管理の問題に拡大する可能性があると、ReadWriteWebが指摘しています:

Are We Entering the Age of Augmented Trademark Infringement? (ReadWriteWeb)

改めて解説しておくと、発端になったのは“the leak in your home town”というiPhoneアプリ。BP社がメキシコ湾で起こした原油流出事故に抗議するため、現実空間にあるBP社のロゴにカメラを向けると、その上に原油が流出しているイメージをオーバーラップさせる……というものです:

もちろんこのアプリを介さなければこのようなARは現れないわけで、さらに同アプリに興味を持つのは既に流実事故に興味を持っている人でしょうから、現実空間でペンキを投げつけるぐらいのインパクトも与えることはできないでしょう(恐らくARを使って抗議活動することで、クチコミで話題を広めるという狙いもあると思います)。しかし、例えばセカイカメラのような共通プラットフォーム上で、同じようなことが実現できるようになったらどうでしょうか?いや、現在でも例えば「犯罪者!」のようなエアタグを、気に入らない企業の関連施設に大量に貼り付けるという行為は可能。大勢の人々が参加するAR空間上で、第三者が抗議活動を行うというのは既に現実の話になろうとしています。恐らく商標管理だけでなく、様々な領域でARの濫用を規制すべきという議論が出てくるのではないでしょうか。

タイトルでは「是か非か?」と書いてしまいましたが、このような行為が許されるかどうかと言えば、もちろん禁止するのは難しいでしょう。表現の自由などと照らし合わして考えてみれば、このような「AR抗議活動」は現実空間での抗議活動の延長線上にあると考えられます。しかし、現実空間でもこうした活動には一定のルールが求められるように、AR上での抗議活動に対しても何らかの(AR空間ならではの)ルールが整備されていくのではないでしょうか。

RWWの記事では、例えばAppleが何らかの行動に出る可能性が指摘されています。現在でもiPhoneアプリは、ある意味でApple社の恣意的なルールによって認可が行われているわけですから、大手企業(それこそBP社など)から抗議を受けた場合に対象アプリの認可を取り消す、ということが起きるかもしれません。あるいは、セカイカメラを運用する頓智・社に対して「抗議エアタグは取り消すように」という圧力がかかるなどというケースも考えられるでしょう。拡張現実空間は、あくまでもその空間を「プロデュース」した人物/組織がいるわけですから、彼らに対して何らかの行動や自主規制を求める声がまず高まるのではないかと思います。

しかし、やはり一企業に対してこうした規制の整備を押しつけることには限界があるでしょう。最終的には行政や立法も巻き込んで、大げさに言えば「AR空間とはなんぞや?」という議論が起きるのが正しい姿だと思います(念のために言っておくと、公的な規制が絶対必要!という立場ではなくて、企業や消費者の間でなし崩し的に状況が進んでしまうのはマイナスではないかという考えです)。個人的には、日本はセカイカメラのような民間企業のサービス、さらに行政が行っている各種実証実験などの動きがあり、こうした議論を他国に先行して進めていくことができるのではと考えているのですが、いかがでしょうか?

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