オルタナティブ・ブログ > シロクマ日報 >

決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

エイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山噴火で、マドリッドに1週間足止めされていた件

»

「知らないのか?アイスランドで火山(volcano)が噴火したんだ!」――まさか"volcano"なんて単語を、日常会話で使う日が来るとは夢にも思いませんでした。それも最悪の状況で。

Twitter等でお知らせしていましたので、既にご存知の方も多いと思いますが、今月9日から家族で欧州を訪れていました。当初の帰国予定は18日の日曜日。しかし表題にある通り、アイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル氷河火山噴火があった影響により、欧州の空港が広い範囲にわたって閉鎖されるという事態に。おかげで僕らもマドリッドで足止めをくらい、1週間も帰国が延びることとなってしまいました。こんな状況、めったに起きるものではありませんが、何かの参考になることを信じて顛末をまとめておきたいと思います。

帰国便のキャンセル

最初に手配していた帰国便は、KLMオランダ航空でマドリッド>アムステルダム>成田と移動するもの。17日の午後1時にマドリッド・バラハス空港を出発し、日本に帰国するのは18日のお昼という日程でした。KLMはインターネットでのチェックインがフライト30時間前から可能なので、僕も持って行ったiPhoneでチェックインを実施。この時点(16日の朝)では何の問題もなく、チェックイン作業も正常終了したので、アイスランドで火山が噴火しているなどとは(そしてそれが帰国に影響を与えるなどとは)夢にも思いませんでした。

そしてフライト当日、17日の朝。少し早めでしたが、電車の関係で午前11時前に空港に到着し、荷物を預けるためにカウンターを探したところ……おかしい、どこにもそれらしきカウンターが開いていません。最初に考えたのはターミナルの間違い。バラハス空港はターミナルが4つあるので、違うターミナルに来てしまったのだろうと考えたのでした。そこで正しいターミナル(実際にはいま居るターミナルで正解だった)を探そうと、空港内の電光掲示板に目をやった時でした、初めて”CANCELLED”(欠航)のサインがずらりと並んでいるのに気づいたのは。

自分の乗る便が欠航になる、というのは初めての経験ではありませんでしたが、これほど欠航が多いというのは見たことがありません。嫌な予感がして係員の女性に話を聞こうとすると、「KLMの……」と言った瞬間に「またその話?」という表情を見せながら後ろを指さします。彼女が指した先にはKLMの予約カウンターと、そこに並ぶ長蛇の列が。そう、それはみな、振り替え便を求める人々なのでした。

バラハス空港で窓口に並ぶ人々

当然僕もそこに並びますが、列は一向に前に進む気配がありません。それもそのはず、空港が閉鎖されていつ再開するか分からないのですから、振り替え便の手配などできるはずがないわけですね。騒ぎを聞きつけたのか、スペインのテレビ局まで取材に来るありさま。そして、ここで聞かされたのが冒頭の言葉。旅行中はほとんどニュースを見ていなかったため、エイヤなんちゃらなどという氷河が爆発したなどということを初めて知ったのでした。これではらちが明かないと早々に判断し、「この電話窓口でも対応を受け付ける」という電話番号が書かれた紙をKLMスタッフからもらい、その場を立ち去ることに。

マドリッドのホテルへ

その場での振り替えを早々にあきらめた理由には、娘と妻の母親を連れているということもありました。自分一人ならずっと粘っていたかもしれませんが、家族に負担をかけるわけにはいきません。それに「待っていたら同じような旅行客で宿が埋まってしまうのでは」という恐れもあり、少なくとも家族だけでもホテルで休ませなければと考え、持っていたガイドブックで適当なホテルを確認。電話してみたところ、幸いなことに「OK」の返事があったため、さっそくタクシーで市内にとんぼ返りすることになりました。

宿泊したホテルは、マドリッド・アトーチャ駅近くにある四つ星ホテル。これも自分一人だったらもっと安宿にしていたと思いますが、何しろ家族連れで何日泊まることになるか分からないわけですし、とにかく休む場所だけはしっかりしておかないとという判断でした。結局そのホテルには、振り替え便が出発するまでの7日間ずっと過ごすことに(最初は1日ずつ延泊を依頼し、帰国便が決まってからはそれまでの期間を一括で申し込みました)。滞在費は1泊約300ユーロ(2部屋分)×7泊で、約30万円ほどの追加出費を強いられたことになります。

このホテルについては、後述するように通信費の問題(デスクトップPCによるネット使用、Wi-Fi使用共に有料)などがあり、7泊全てを過ごすこともなかったのでは?というのが今の思いです。しかしこれも家族のことを思うと、何度も宿を替えるというのは負担になりますし、それに泊まっているうちに僅かでも「土地勘」や生活リズムといったものが生まれてきます。ただでさえいつ帰れるか分からない不安な状況ですから、あちらこちらえり好みをするというリスクよりも「ベストではないけれとベターな場所で留まる」という判断をしました。

"Stranded Travellers"

ホテルに到着してからは、とにかく情報収集をして日本に帰るまでの段取りを着けることが日課になりました。部屋にいる間はテレビをつけ、CNNの英語放送を流しっぱなしに。そこで頻繁に登場していたのが、この"Stranded Travellers"という単語。文字通り「足止めされた旅行者」という意味で、空港から出たくても出られない、まるで映画『ターミナル 』のような状況に陥った人々が無数に生まれていることが紹介されていました。

もちろん「空港にいるかホテルにいるか」というのには大きな差がありますが、僕らのように帰国便に乗れない人々も"Stranded Travellers"の一人だったでしょう。そして僕の泊まったホテルにも、同じような状況の旅行者が数多く宿泊していました。時折彼らと情報交換をすることもあったのですが、最初のうちは聞けば聞くほど気が滅入るような話ばかり。テレビに映る、疲れ切った人々の表情と合わせて、「これは帰国までにかなり時間がかかるかもしれない」という思いが次第に膨らんでいきました。

ただやはり、現地で同じ状況に直面している人々からの情報は頼りになりました。これも後述するように、ネットから情報を拾うということも当然行ったのですが、どうしてもノイズというか「いまの自分には当てはまらない情報」がかなり多くなってしまいます。しかし目の前にいる人物から「バラハス空港に行ってKLMのカウンターに並んでも対応してくれない」という話を聞くと、「ああ、空港に押しかけてしまった方がいいかと思っていたけど、やはりやめておこう」という判断を安心して下すことができます。もちろんそれが正確かどうかは、結局のところ確かめてみなければ分からないことには変わりないのですが。

情報のコスト

日本で普段通りに生活している状況であれば、ネットや電話をコストを意識せずに使うことができます。しかし僕らが足止めされたのはマドリッドのホテル。Wi-Fiもしくはホテル備え付けのPC(日本語は書き込みも閲覧も不可能)でネットを見ようとすると、1時間で4ユーロ支払わなければなりません(しかもオンラインでの受付は不可で、いちいちフロントでの申請+パスワード発行が必要)。日本からラップトップでも持ち込んでいれば話は別だったかもしれませんが、こんな事態に陥るとは考えもしなかったので、手元にあったのはiPhoneのみ。それでも無いよりはマシでしたが、やはりあの小さな画面で閲覧・書き込みをするというの余計な時間がかかり、ストレスが溜まる結果となってしまった次第です。ただし途中から、ホテルの近くにあるマクドナルドで無料Wi-Fiに接続できることが分かり、ある程度はネット接続料をセーブすることができました。

そして最もコストが大きかったのは電話。先ほど「KLMの電話窓口を手に入れておいた」と書きましたが、実際に電話してみると「フライト再開の目処が立っていないので応対できません」というような内容のメッセージが流れ、一方的に通話が切られてしまいます。同じくホームページでの対応も中止されてしまっていた(ただし現状報告だけは更新されていました)ため、いつ電話応対が再開されるのか、事ある毎に電話することに。さらに応対が再開されても、コールが殺到してオペレータが出られないという状況が続き、首尾良く電話がつながってもずーーーっと待たされる(そしてらちが明かないので諦めて電話を切る)という事態になってしまいました。いくら国内での電話とはいえ、かなり電話代がかかったはず。

さらに問題だったのは日本への国際電話。スペインでの電話応対がなかなか始まらない、始まってもオペレータにつながらないという事態が続いたので、日本のKLMコールセンターにつないでみるという荒技をやってしまいました。結論から言うと、こちらも全然つながらずにあきらめるという結果になったのですが、仮につながっていたとしても対応してもらえる可能性は低かったでしょう。しかしこれこそ「おぼれる者は藁をも掴む」という心境でしょうか、家族を抱えているのに日本に帰れる目処が立たないという状況から、「とにかく何でも試そう、採算は度外視して」という気持ちになってしまっていました。

また詳しく書くと長くなってしまうのですが、実は武蔵野美術大学と係争中の事案があり、その点で大学側と交渉するために日本へ国際電話する……という状況も生まれていました。さらに用意しておいた薬(持病の薬のため、現地調達しようとすると旅行保険がきかない)が切れそうになったため、その手配のために電話をかける、突然スケジュールが狂ったために仕事関係の電話をかける……など、予想以上に「電話する」という行為が多く発生しました。最終的に電話代(+データローミング代)がどのくらいになるのか、いまからビクビクしています。しかしどんなに高額になろうと、情報のやり取りを行わなければもっと大きな問題が生まれていたことでしょう。先ほどの宿泊費と共に、避けられなかった出費だと諦めています。

Twitter Power

このような状況で役に立ってくれたのが、やはりTwitter。もちろんメールでのやり取りも行っていたのですが、次第に未読メールが膨れあがる(ネットできる時間が限られているため)状況では、簡潔にやり取りできるTwitterが非常に重宝でした。また僕のアカウントをフォローしていただいている方々からは、暖かいコメントや貴重な情報を数多くいただくことができました。この場を借りて心より感謝申し上げます。

またこれは恐らく日本国内でも報道されていたと思いますが(僕自身CNNを見て知ったので)、"Stranded Travellers"達が情報交換するためのハッシュタグとして、"#ashtag"(「ハッシュ」ならぬ「アッシュ->灰」タグという洒落で、火山灰によるフライト中止情報を交換するためのもの)や"#getmehome"(陸路で帰れる旅行者達が、自動車等の相乗り相手を探すためのもの)などがいち早く登場し、旅行者自身が助け合うという行為が行われていました。実際ここで得られた情報が非常に役に立った、という方も多かったようです。

しかし残念ながら、僕自身は前述のように自由にネットできない状況でしたので、より短時間でノイズからシグナルを拾い上げる必要がありました。そこでネットできる時間にはとにかく情報を拾い集め、それをふるいにかけるのは現地の方々との会話や、ネット上での一部の方々との情報交換を通じて行うという方法を取りました。この辺りはまだうまく整理できていませんが、ネットできない環境でネットをどう使うかというテーマで考えられるかもしれません。

CNNの火山灰飛散状況報道

旅行保険の延長

当然ながら日本を出国する際は、予定通りの日数で日本に帰ってくるつもりですから、旅行保険も帰国日きっかりに切れるものしか契約していません。そこで契約期間の延長を行おうとしたところ、僕が契約していた旅行保険(損保ジャパンのもの)は

  • 自然災害により帰国が遅れた場合は、契約期間が72時間自動延長される

という内容になっていました。さらにこれは日本国内でも報道されていたようですが、72時間でも間に合いそうにないためさらに連絡してみると

  • 今回の火山噴火による被害者に対しては、帰国できるまで契約期間を自動延長する(ただし契約当初に申請した訪問国以外の地域を訪問した場合を除く)

という対応を行って頂けるとのことでした。出国前に「火山噴火で帰国できないかも」などと考える人はそう多くないと思いますが、過去にこういった自然災害でどのような対応をしていたのか、その辺りも確認して旅行保険を選ぶと良いかもしれません。

待つか動くか

帰国便が決まったのは、マドリッドの時間で19日朝のことでした。しかし最速の便ということで提示されたのは「24日にマドリッドを出発->25日に成田到着」というもの。19日から5日も待たなければなりません。KLMからは「チケットの払い戻しと振り替え、好きな方を選べる」と言われていたので、とりあえず24日の便を押さえつつ他社便を予約する(その代金にKLMからの払い戻しを当てる)という選択肢もあったのですが、けっきょく24日まで待つことになりました。

なぜか。最大の理由は料金です。KLMの便は早めに予約していたため、かなり割安の料金で購入することができました。そのためこのような状況、しかも直前の便のチケットを買おうとなると、どの航空会社でもかなり割高となります。しかも僕らの場合、家族も含めて4人分の席を確保しなければなりません。自腹を切る金額で考えれば、24日まで延泊する分の滞在費の方が遙かに安い――こんな葛藤がありました。

またお金の問題よりやっかいだったのが、「フライトがいつ再開されるか」という点です。仮に早い便を確保した場合、帰国が早くなるというメリットがありますが、その分「空港が閉鎖されたままで結局再キャンセルになる」というリスクがあります。そうなれば当然、逆に帰国は遅れてしまうことに。しかし遅らせれば遅らせるほど良いかというと、今度は火山が再噴火するというリスクがあるわけで、こうなるともう何がベストな選択肢なのかまったく分からないというのが本音でした。

実は同じホテルに宿泊していた日本人ツアー客の一行は、「動く」という決断を下し、タジキスタン航空まで使って僕らより2日早く帰って行きました。ローマやタシュケントを乗り継いでいくとのことで、かなり辛い移動になったことと思いますが、それも一つの判断。今回のトラブルに巻き込まれた全ての人々が、無数の判断を迫られていたのだと思います。

日本大使館の対応

最後に一つがっかりしたことを。「藁をも掴む」思いの一環で行ったのが、「マドリッドの日本大使館に電話してみる」という行為でした。以前ボストンに留学していた際、日本領事館から日本人滞在者向けの情報提供が行われていたことを思い出し、電話してみれば何か情報が得られるかもしれないと考えたのが背景の一つ。もう一つは、前述の通り「日本から持ち込んだ薬が少なくなる」という状況に陥っていたため、マドリッド市内にある日本人医師の居場所を教えてくれるのではないかという期待がありました。

ガイドブックで電話番号を調べ、営業時間内に電話してみると、日本語とスペイン語のどちらでの対応を希望するか選べという自動メッセージが流れます。僕は残念ながらスペイン語は話せないので、当然ながら日本語を選択。しかし最初に電話口に出たのはスペイン人の方でした。

相手:「~~~(スペイン語で何か言っている)~~~?~~~?」

僕:「……あのー、日本語で対応して頂きたいのですが……」

相手:「~~~」ガチャリ!(保留音が流れる)

というやり取りが2回行われた後、ようやく日本人の方に出て頂くことができました。

しかし残念ながら、得られた情報はゼロ。「空港閉鎖や、航空各社の運行状況について情報提供は行っていないのですか?」->「そういったことは、直接航空会社さんとやり取りされている皆さまの方が詳しいかと思います」。「それじゃ、マドリッド市内に日本人医師がいるかいないか、いるのならどこに行けば会えるか教えていただくことは可能ですか?」->「いますよー、ちょっとお待ち下さいねー(保留音)えーっと、どのような症状ですか?」->「これこれこういった症状のための薬が欲しくて……で、そのお医者さんはどこに」->「うーん、そのような方がいるって話を聞いたことがあるだけでして」。こんな調子のやり取りができただけでした。

もちろん日本大使館に対して、「無料コールセンターになれ!」などと要求するつもりはありませんし、それほど詳細な情報を期待していたわけではありません。大使館側にしてみれば、海外でトラブルに遭遇し、トチ狂った日本人旅行客が電話してきたぐらいの迷惑な状況だったでしょう。しかし今回の混乱で生じた、日本人の"Stranded Travellers"に対して、政府として何らかの対応しようという姿勢は感じられませんでした。少なくとも「ここには電話しないで!今回の件については~を頼りなさい」ぐらいの情報は得られると思っていたのですが。(念のために書いておくと、このやり取りを行ったのは現地時間で4月20日ですので、その後何らかの改善があった可能性はあります。)

*****

ということで、思いつくままつらつらと書き殴ってしまいましたが、最大の敵は「ストレス」だったと思います。つい昨日まで美しいと感じられていた街並みも、「いつ帰れるか分からない」「いくら出費を強いられるか分からない」という状況の下では、まったく楽しめませんでした。恐らくこんなことを書くと、贅沢な悩みだと一喝されてしまうかもしれません(恐らく逆の立場なら、自分自身がそうしていたことでしょう)。しかし帰国するすべが無いというのは想像以上のストレスになるのだ、という点だけは心に留めて置いていただければと思います。そしてそのストレスにどう打ち勝つのか、それさえ考えておけば、あとは普段通りの判断力でなんとか乗り切れるのではないでしょうか。

果たしてこんなアドバイスが必要な方がいるのかどうか分かりませんが(いないことを祈ります)、何かの折りに思い出していただければ幸いです。

アイスランド 地球の鼓動が聞こえる…ヒーリングアイランドへ (地球の歩き方GEM STONE) アイスランド 地球の鼓動が聞こえる…ヒーリングアイランドへ (地球の歩き方GEM STONE)

ダイヤモンド社 2009-10-31
売り上げランキング : 92501
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

おまけ――エイヤフィヤトラヨークトル

今回爆発した「エイヤフィヤトラヨークトル氷河」。当然ですが欧米の方々にも発音しづらいらしく、何人もの人が"Eyja... Eyjafja... Whatever"と途中で言うのを止めてしまうのを耳にしました。そこで噴火の影響も落ち着いてきてから、あるテレビ局が「発音に苦労するキャスターの映像」を切り貼りしてネタコーナーにする、というのをやっていました。もちろん混乱のさなかにこんなことをされれば激怒していたでしょうが、帰国間際だったせいか、笑ってしまいました。

< 追記 >

誓ってこの記事の更新後に気づいたのですが、ループス・コミュニケーションズの斉藤さんがまさに「我が意を得たり」の記事を書かれています。ぜひご確認下さい:

アイスランド火山噴火。旅行者が頼ったのはコールセンターよりツイッターだった (in the loop)

Comment(12)