ロイター・メディア社長曰く、「我々はコンテンツだけでなくサービスを創造している」
Reuters Media 社長の Chris Ahearn 氏(@CJAhearn)が、米FTC(連邦取引委員会)が開催したワークショップで講演した内容がウェブ上で公開されています。このワークショップは「インターネットがどのような影響をジャーナリズムに及したか」を考察するためのものだったとのこと:
■ How will journalism survive the Internet Age? (Reuters)
ロイターと言えば、こちらの話が思い出されますが:
■ ロイター通信が「AP通信がそんなにリンクや引用されるのが嫌なら、ブロガーはロイターの記事にリンクするといいよ」宣言 (秋元@サイボウズラボ・プログラマー・ブログ)
今回の講演でも、それを踏襲した形で議論が進められています:
I agree with Mr. Murdoch that the bold will survive and the timid will fail. However, the newfangled aggregators/curators and the dominant search engines are certainly not the enemy of journalism. Nor are they the salvation. They do not always refrain from doing evil in their pursuit of profit and audience. And they do fail to “do unto others” at times -– some do steal and use complete or near-complete copies of our and other work and use ad networks such as AdSense to unlawfully monetize without sharing.
That said, most are a constructive and competitive part of the news ecosystem, I welcome them and I continue to believe and support the link economy.
「大胆な者が生き延び、臆病な者は消え去る」というマードック氏の言葉に同意する。しかし、新たに登場したアグリゲーターやキュレーターといった存在、また大手検索エンジンはジャーナリズムの敵ではない。しかし救世主でもない。利益と読者を手にするためなら、彼らは何でもするだろう。「自分がして欲しいと思うことを他人にもせよ」という教えに背くこともあるはずだ。実際、我々がつくり出したコンテンツの全てを、あるいはほぼ全てをコピーし、それらを AdSense のような広告ネットワークを利用して違法にマネタイズするという者が存在している。
とは言うものの、彼らの多くは建設的であり、ニュース・エコシステムの競争力を高める一部となっている。私は彼らの存在を歓迎する。そして「リンクエコノミー」を信じ、それを支持することをやめるつもりはない。
ということで、マードックのようにネットを完全に敵視するのではなく、かといってネットに幻想を抱くわけでもなく、Jeff Jarvis の唱える「リンクエコノミー」(コンテンツそのものを売るのではなく、コンテンツによってリンク/トラフィックを集め、そこからビジネスを展開するビジネスモデル)を追求することを冒頭で(改めて)宣言しています。
講演の全編にわたって、なかなか考えさせられる議論が展開されているのですが、個人的に最も気になったのは以下の部分でした:
Like many we grapple with the coverage, cost and value issues of content scarcity vs. abundance as well as content uniqueness vs. utility. We choose to maximize the value of each of these four quadrants and have adaptive business models and markets which allow us to. For example, we focus principally on the importance of vertical and niche markets that have subscription-oriented models — this where our firm derives the vast majority of its revenues. We focus obsessively on the needs of professionals in those markets we serve. We don’t want to be all things to all people. We want to create journalism that has unique value to our clients, and partner with creators as warranted and needed. Most importantly, we focus on creating and providing valuable services — not just content.
競合他社と同様、我々は報道におけるコンテンツの希少性と潤沢性、独自性と有益性の費用対効果に関する問題に取り組んでいる。我々は価値を最大化することを追求しており、また可能な限り、順応性のあるビジネスモデルと市場を追求してきた。例えば我々は、購読モデルが可能な垂直市場とニッチ市場の重要性に、主にフォーカスしてきた。これらの市場は、当社が売上のほとんどを得ている市場でもある。我々はこれらの市場における専門家のニーズにフォーカスしている。あらゆるニュースを、あらゆる人々に提供しようなどというつもりはない。我々は必要に応じてクリエーターたちと協力しつつ、我々の顧客とパートナー企業にとって、独自の価値を持つジャーナリズムを実現したいと考えている。最も重要なことは、我々はコンテンツを創り出すことだけではなく、価値のあるサービスを創造して提供することにもフォーカスしているという点である。
コンテンツを創るだけでなく、「価値のあるサービス」を創ることにも注力する――言われてみれば当然のことですが、ジャーナリズムの側面からだけニュースメディアを考えていると、つい忘れてしまわれがちな視点ではないでしょうか。
ロイターが「コンテンツ+サービス」という視点を有しているのは、彼らが扱う「コンテンツ」が、一般的なコンテンツにも増して急速にコモディティ化する性質を持っているからかもしれません:
■ The half-life of news (BuzzMachine)
At a Yale conference a week ago, Thomson Reuters CEO Tom Glocer talked about the life cycle of the value of news in his business.
When a piece of financial news come out, it is at its most valuable for a very short time, he said. I asked him later how long that is. “Milliseconds,” he replied. Milliseconds. That’s as long as a computerized trader has to take advantage of news before the market knows it, before the news is knowledge and is thus commodified and loses its unique and timely value.
先週行われた Yale でのカンファレンスにおいて、トムソン・ロイターCEOの Tom Glocer が、彼のビジネスにおけるニュースのライフサイクルと価値について話をしていた。
彼によれば、財務・金融系のニュースは、発表されてからごく短い間しか最大の価値を有さない。どのくらいの長さなのかと尋ねたところ、「数ミリ秒」というのが彼の答えだった。数ミリ秒。それが、コンピューターを使うトレーダーたちがニュースを利用できる長さなのだ。数ミリ秒後には、そのニュースはマーケットに知られてしまい、コモディティ化し、独自性とタイムリー性という価値を失ってしまうのである。
しかし、そのたった数ミリ秒の速さを実現できるサービスを持っていることが、ロイターに大きな売上をもたらしているわけですね。他にも、例えば今まで何度も取り上げている、New York Times のマルチメディア・セクションですが、これも「コンテンツ+サービス」の好例でしょう。単に価値のある情報を掲載するのではなく、それを伝わりやすい・理解しやすい形で加工して掲載しています。伝わりやすさや速さといった要素以外でも、様々な形でサービスを実現することができるはずです。
また見方を変えれば、検索エンジンやニュースアグリゲーターといった存在は、読者が求めている「サービス」の部分を、コンテンツ・レイヤーの上に実装していると考えられるかもしれません。それぞれのプレーヤーだけを独立させて考えるのではなく、ライフサイクルやエコシステム全体から「価値」を生み出していく方法を考えること。そんな視点も求められているのではないでしょうか。
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