【書評】Twitter革命を理解するための一冊"Here Comes Everybody"
イラン、ホンジュラス、そして新疆ウイグル自治区。残念ながら悪いニュースの中でばかりですが、人々の行動を束ねるのに Twitter が重要な役割を果たす、というケースが最近ますます目に付くようになってきました。そんな「Twitter 革命」でとも呼ぶべき現象がなぜ生まれつつあるのか――クレイ・シャーキー(Clay Shirky)氏の最新刊、"Here Comes Everybody: The Power of Organizing Without Organizations"は、そんな疑問にヒントを与えてくれる一冊です。
本書が取り扱っているのは、ブログやSNS、Wiki、そして Twitter などのソーシャルメディアの台頭について。しかし単に技術を解説することだけが目的ではありません。本書の表紙には、こんな一節が掲げられています:
Revolution doesn't happen when society adopts new technology, it happens when society adopts new behaviors.
革命が起きるのは、社会が新しいテクノロジーを手にしたときではない。社会が新しい行動をするようになったときだ。
この言葉が、本書の内容をよく表していると言えるでしょう。革命は技術によって引き起こされるのではなく、あくまでもそれを手にする人々がカギを握る。これが本書を通じて繰り返し行われる主張です。
それでは集団行動の中で、技術はどんな位置を占めるのか。シャーキー氏の議論をごく簡単にまとめてみます:
- 行動の動機となるもの(PROMISE)が中核となり、人々が集まる
- 集団行動をサポートする技術(TOOL)が採用される(技術は集団に所属する誰もが使えるものである必要がある)
- 人々の交流と、集団への貢献(BARGAIN)が生まれる
例えば「草野球のSNS」という現象があるとして、野球がしたいという動機がPROMISE、オンライン上でのコミュニケーションを可能にするSNSがTOOL、そこで生まれる(オンライン/オフライン双方の)コミュニティの運営がBARGAINといったところでしょうか。この"PROMISE, TOOL, BARGAIN"は第11章のタイトルにもなっていて、3つが適切に組み合わされることが集団行動の成功につながると説かれています。技術はあくまでも、動機と行動をつなぐ輪の1つに過ぎない――ある意味で当然の話でしょう。
一方で、シャーキー氏は決して技術を軽んじているわけではありません。インターネット技術によって、史上初めて「誰もがメディア」という状態が生まれたこと。無数の人々によってネットワークが形成されるようになったこと。そして情報発信や、集団形成のコストが極端に低下したこと。様々な技術革新によって初めて可能になった行動が、社会全体にとってどんな意味を持つのかを、1つ1つ丁寧に考察していきます。本書のオリジナルは2008年に出版されたということもあって、残念ながら登場する例は多少古いのですが、前述の通り技術そのものの解説がこの本の目的ではありません。技術と集団行動のメカニズムを明らかにするのがテーマであり、その意味でここで解説されている議論は、将来の社会を予測する上でも有効だと思います。
ちなみに Twitter ですが、「本書の執筆中に登場した新しいツール」ということで、(改訂版のエピローグで)2008年5月に起きた四川大地震の例などが扱われています。さらに興味深いことに、2007年4月の時点で、エジプトにおいて Twitter が政治的活動に使われる例が起きていたとのこと(具体的に、Alaa Abd El Fattah さんという方の Twitter が引用されています)。また本書を離れますが、TEDのブログでシャーキー氏が「Twitter とイラン」というテーマで語っています:
■ Q&A with Clay Shirky on Twitter and Iran (TED Blog)
Which services have caused the greatest impact? Blogs? Facebook? Twitter?
It's Twitter. One thing that Evan (Williams) and Biz (Stone) did absolutely right is that they made Twitter so simple and so open that it's easier to integrate and harder to control than any other tool. At the time, I'm sure it wasn't conceived as anything other than a smart engineering choice. But it's had global consequences. Twitter is shareable and open and participatory in a way that Facebook's model prevents. So far, despite a massive effort, the authorities have found no way to shut it down, and now there are literally thousands of people around the world who've made it their business to help keep it open.
(イランの抗議活動において)最も大きいインパクトを与えたのは、ブログ、Facebook、Twitter の中でどのサービスですか?
Twitter でしょう。Twitter をごくシンプルなサービスとし、さらにオープンにして外部とのインテグレーションを容易にし、コントロールを難しくするという点で、Evan Williams と Biz Stone は正しい選択を行いました。それは単なる技術的な選択だったはずです。しかしそれは世界的なインパクトをもたらしました。Twitter はオープンで共有しやすく、参加しやすいサービスです。これは Facebook のモデルでは見られません。これまでのところ、(イランの)体制側は様々な手段で Twitter をシャットアウトしようとしていますが、成功していません。そして文字通り世界中の何千何百の人々が、シャットダウンさせまいと力を尽くしているのです。
ご興味のある方は、こちらも目を通してみて下さい。
最後に余談。そのTEDでシャーキー氏が講演したビデオがアップされていますので、こちらも参考にどうぞ:
■ Clay Shirky: How social media can make history (TED)
【○年前の今日の記事】
■ ネットワークから閉め出される幸せ (2008年7月7日)
■ 「タダを有料化」の効能 (2006年7月7日)