ニュースの3.5%はブログが生む
大方の予想通り、ブログはマスメディアが話題にしたものを後追いで取り上げるけれども、時にはブログ発のニュースをマスメディアが後追いする場合もある――以前から狭い範囲では観測されてきたことですが、大規模な調査によって初めてこの事実が確認されたそうです:
■ Study Measures the Chatter of the News Cycle (New York Times)
この調査はコーネル大学の研究者らによって行われたもので、対象になったのはマスメディアのサイトとブログ合わせて160万サイト、記事数にして9,000万件だったとのこと(ちなみに期間は昨年8月から10月まで)。高性能のコンピュータとアルゴリズムを駆使し、同じフレーズが記事中に引用されているかどうか確認することで、あるニュースがどのようにネット上を伝わっていったのかを把握したそうです。その結果、
The researchers’ data points to an evolving model of news media. While most news flowed from the traditional media to the blogs, the study found that 3.5 percent of story lines originated in the blogs and later made their way to traditional media. For example, when Mr. Obama said that the question of when life begins after conception was “above my pay grade,” the remark was first reported extensively in blogs.
And though the blogosphere as a whole lags behind, a relative handful of blog sites are the quickest to pick up on things that later gain wide attention on the Web, led by Hot Air and Talking Points Memo.
研究者らが集めたデータは、ニュースメディアに関する新しいモデルを発展させるものである。大部分のニュースでは旧来型メディアが出発点となり、ブログへと流れていくが、調査の結果3.5%のニュースがブログに端を発しており、遅れて旧来型メディアに取り上げられるということが分かった。例えば(大統領選中に)オバマ氏は「受胎後のどの時点で生命が始まると思うか」と問われ「自分の給与レベルではお答えできない」と回答したが、この発言を最初に集中して取り上げたのはブログだった。
またブログ界全体としてはマスメディアに遅れをとるものの、Hot Air や Talking Points Memo など少数のブログサイトが素早くニュースをキャッチし、それが後にウェブ全体の注目を集めるということが起きている。
という事実が確認されたとのこと。3.5%という数字を見て、「ほとんど誤差のような割合だ」と捉えるか、「“ウェブ全体の注目を集めるような大きなニュース”ですら3.5%を占めているのだから、ブログがメインストリームになりつつあることを示す数字だ」と捉えるかは人それぞれでしょう。ただし、マスメディア「だけ」がジャーナリズムを担うという世界が終わりつつあることは確かだと思います。
また最近のネット界に詳しい方は、ここまで読んで「あれを忘れているんじゃない?」と感じたのではないでしょうか。ええ、あのサービスについてももちろん取り上げられています:
A challenge in this kind of research, Mr. Sreenivasan said, will be to account for and model how quickly online news sources and distribution networks are changing. Mr. Sreenivasan pointed to social media, especially the rapidly rising Twitter, as an informal but highly influential news recommendation and distribution network.
“Even from last fall to today, the dynamics of the news cycle are very different, because of Twitter,” he said.
「この種の調査で難しいのは、オンライン上のニュースソースと情報伝達ネットワークがいかに速いスピードで変化しているかを示すことである」と Sreenivasan 氏(※Columbia Journalism School の教授)は述べ、Twitter のような急速に発展しているソーシャルメディアが、非公式だが極めて影響力の強いニュース配信ネットワークになってきていると指摘した。
「昨年の秋と現在を比べても、ニュース伝達サイクルの力学は大きく変化している。Twitter の影響によって」と彼は述べた。
そう、Twitter の存在を忘れてはなりませんね。イランや中国の例のように、Twitter はニュースソースとしての存在感も高めています。その意味では、今回の調査は発表時点で既に古くなってしまっていると言えるでしょう。Twitter も合わせて「ソーシャルメディア」という枠で括れば、旧来型メディア以外の存在がニュースの出発点になるというケースは3.5%よりももう少し大きくなると思います。
いずれにせよ、ネット上を中心に新しいメディアの形が生まれてきていることは事実でしょう。新聞社やテレビ局などの組織にとっては頭痛のタネかもしれませんが、社会全体にとってはプラスに転換していける状況のはず。今回の結果を「マスメディアかソーシャルメディアか」という対立軸で捉えるのではなく、従来型のメディアと、ソーシャルメディアが協力してジャーナリズムを実現する「ネットワークド・ジャーナリズム」の方向へと進んでいくことを期待します。
【参考記事】
■ 【書評】ルポ 米国発ブログ革命 (Polar Bear Blog)
米国でブログがジャーナリズムの一角を担うようになっている現状をレポートした本です。前掲の New York Times の引用文に登場した"Talking Points Memo"も事例として取り上げられています:
【○年前の今日の記事】
■ ブルーオーシャン症候群 (2008年7月14日)
■ オープンソースで映画作り (2006年7月14日)