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ブルーオーシャン症候群

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昨日に続いてで恐縮ですが、ハーバード・ビジネス・レビューからの話。一時『ブルー・オーシャン戦略』という本が流行りましたが、もし上司の机に置かれているのを見たら注意した方が良いかもしれません。逆に既存事業の見切りが早すぎたために、せっかくの成功を台無しにしてしまう例も多いとのこと。

そうそう、この青い表紙。以前はどこの書店でも平積みにされ、ビジネス誌等で特集が組まれていました。なので説明は不要かと思いますが、念のため Amazon.co.jp での解説を抜粋しておくと:

これまで数々の「戦略」がもてはやされてきたが、ライバルと同じ市場で戦うかぎり、どれほど巧妙に戦略を練ったところでいずれ消耗戦を強いられることになる。血みどろの戦いが繰り広げられるこの既存の市場を「レッド・オーシャン(赤い海)」と呼ぶのなら、いま企業がめざすべきは、競争自体を無意味なものにする未開拓の市場、「ブルー・オーシャン(青い海)」の創造だろう。

という話。他社との血みどろの争いを繰り広げる必要のない、青い海を目指そう――という主張でした。確かにそんな理想郷があるのなら、そこに向かわない手はないでしょう。しかし道を誤れば悲惨な結末が待っていることが、ハーバード・ビジネス・レビューの2008年7月号に掲載されている論文「売上げが止まる時」で指摘されています。

この論文は「フォーチュン100」と「フォーチュン・グローバル100」にランキングされた企業およそ500社を分析したもので、成長していた企業が減収へと転じた理由を調査したところ、その87%が対処可能な要因だったとのこと。その「対処可能な要因」の中でも特に目立っていた4つの要因を詳説しているのですが、その中の1つが「成長余力が余っているコア事業の見切り」だったそうです。

コア事業に早々と見切りをつけすぎるのも、売上げ低迷の大きな原因である。つまり、コア事業の成長機会を十分掘り起こそうとしないのだ。

(中略)

コア事業にあっさり見切りをつける事例に共通しているのは、二つの失敗である。コア市場が飽和したり、既存のビジネスモデルに障害が発生したりすると、より競争の少ない領域へ進出する潮時であると見なしてしまうのだ。このような場合、既存企業は市場リーダーの地位からすべり落ち、悲惨な状況に陥る。

困難な時期にさしかかると、「より競争の少ない領域」が魅力的に感じてしまい、競争を避けてそちらに逃げ込んでしまうと。仮にブルー・オーシャンの創造に成功すれば良いのですが、手こずっている間にライバル企業がコア事業に専念していたとすると、既存の事業で失速・さらに新規事業でも十分な利益を得られないという結果になってしまう――そんな状況が、実際にKマート vs. ウォルマートの競争において発生したことが解説されています(当然ながらブルー・オーシャンに逃げ込もうとしたのがKマートで、コア事業を伸ばしていったのがウォルマートなわけですね)。

確かに「青い海」と「赤い海」であれば、青い海を目指したくなるのが人間というもの。しかしこの比喩はちょっと語弊があって、「赤い海」と「まだ酸素濃度が薄い古代の陸上」のどっちを目指す?というぐらいにしておいた方が良いのかもしれません。陸に上がるには当然エラ呼吸から肺呼吸に進化して、さらにヒレを手足に変える必要があります。だから陸を目指すなとは言いませんが、その変化と進出にはそれなりの時間と体力がかかり、一方で「赤い海」での競争を免れるわけではないことを理解しておかなければならないと思います。

先日"IBM Global CEO Study 2008"という報告書が発表されたことについてエントリを書きましたが(CEOが顧客に教えを請う時代)、調査対象となった日本のCEOの96%が「抜本的なイノベーションが必要」と考えていたそうです。いや、実に96%というと逆に「必要ない」と答えた4%の方々の方が気になりますが、CEO達が何をもって抜本的なイノベーションと考えているかには注意が必要かもしれません。なんだかコア事業の調子が悪い、競争も激しくなった、何か劇的な変化が特効薬になるかも――程度の話だったとすると、「ブルーオーシャン症候群」に冒されて、せっかくの成長の余地をフイにしてしまう結果になるかもしれません。

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