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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

意思決定は勘や直感に頼るのではなく、データに基づいて行う。ある意味で当然の話であり、ICT技術の進歩によりデータ収集・加工が容易になるのに伴って、次第に一般的になりつつある考え方です。しかしその実現のためには、「正しいデータを集めている」ということが大前提となりますよね。そんなの当然だよ、と言われてしまうかもしれませんが、「正しい」には「誤謬が無い」という意味と同時に、「ある意思決定を行う上で本当に役立つ」という意味も含まれています。前者は当然の話として、後者は果たしてどこまで意識されているのでしょうか。

雑誌『クーリエ ジャポン』2009年6月号に、ちょっと面白い記事が載っていました。もともと New York Times Magazine に掲載されたものであり、英文版は以下のリンクから読むことができますので、興味のある方は確認してみて下さい:

The No-Stats All-Star (New York Times Magazine)

クーリエ・ジャポンに掲載された邦訳のタイトルは「もうひとつの『マネー・ボール』」。そう、野球に統計学の力を持ち込もうとした男たちを追った本『マネー・ボール』の著者である、マイケル・ルイスによる記事です。今回のテーマはバスケットボール。米NBAでもMLB同様、統計的手法で勝利を目指す人物が現れており、それを具現化する一人のプレーヤー、ヒューストン・ロケッツの「シェーン・バティエー」に焦点を当てるというのが内容です。

記事の中で、これまでバスケットボールにおいて収集されてきたデータが、実は「チームの勝利」という最大の目標を達成するのにはあまり役立たないのではないかという指摘がされています。例えば:

シュートブロックはどうだろう。目を引く行為だが、ブロックしたボールを確保できなければ、さほどチームを助けたことにはならない。選手たちは勢いよくボールをはたいて観客席の5列目あたりに叩き込む派手なアクションが大好きだが、それでも対戦相手にボールが渡ることに変わらないことには無関心だ。

結局、バスケットボールの選手の場合、こつこつと自分の点を稼いでデータに残すことは、身勝手な行為の積み重ねによってしか成り立たないのだ。

このアンチテーゼとして登場するのがロケッツです。ロケッツのゼネラルマネージャーはダリル・モーリーという方で、彼はチームに「データに基づく意思決定」を導入した人物として描かれているのですが、いったい何を行ったのか。記事中にこんな一節が登場します:

モーリーが気づいたことは他にもいくつかあるが、語りたくないと言う。しかし、彼が進んで話してくれることもある。ロケッツは、チームに起こる微妙な相互作用の解明に多くのエネルギーを注ぎ込んでいる。これを達成するには、これまでバスケットボールの歴史が提供したことのないもの、すなわち、意味のある統計が必要になる。バスケットボールの誕生以来ごく最近までこのスポーツでは、「重要だから」という根拠ではなく、「測りやすい」という理由から、ポイント、リバウンド、アシスト、スティール、シュートブロックなどが記録されてきた。そしてその記録はバスケットボールの考え方を歪めてしまった(モーリーいわく、「成績データを考え出したやつは、撃たれて当然の人間だ)。たとえば、あるプレーヤーが何ポイントの得点を挙げたかは、本当の意味で彼のチームへの貢献度を表すものではない。

そんな「意味のある統計」を重視するモーリーが引っ張ってきたのが、他のチームでその真価が評価されず、正しい起用もされていなかった選手であるシェーン・バティエーでした。僕はNBAに詳しくないので本書の言葉をそのまま引用しますが、このバティエーという選手は「ドリブルはできないし、動きは鈍いし、体のコントロールができていない」ほどで、「よく言って、ぎりぎりNBAの選手として通用するというところ」なのだとか。しかしバティエーは極めて頭脳的にプレーする力を持っており、それが通常収集されるデータには現れないというだけで、着実にチームの勝利に貢献しているわけですね。実際、記事ではNBA屈指のスーパースター、コービー・ブライアントとバティエーが対峙し、バティエーがコービーを押さえ込むシーンが描かれます。いったいどんな「通常のデータには残らない力」を持っているのかについては、ぜひ記事を読んでみて下さい。

かつてデータを記録したり、記録されたデータを蓄積・分析する方法が未熟だった時代には、近似値として「測りやすいデータ」が使用されるのは仕方のないことだったでしょう。しかし時代は進み、スポーツの世界に限らずビジネスや日常生活のレベルにおいても、数値解析に様々なテクノロジーを活用することが可能になりました。もしかしたら、より「正しい」データに基づいて考えてみることで、自分の会社や学校などの組織の中でも「シェーン・バティエー」=隠れた貢献を行っている人々を発見することができるかもしれません。

【○年前の今日の記事】

プレミアムおむつ、という発想 (2008年5月12日)
オフィスにも「掃除の時間」を (2007年5月12日)
情報リフォーム (2006年5月12日)

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コメント
hsakawa 2009/05/12 17:16

小林さん、おせわさまです。
私もたまたま日曜日に「もうひとつの『マネーボール』」を読みまして、その後ウェブにアクセスしてロケッツ対レイカーズのカンファレンス準決勝の成り行きをチェックしたら、なんと「ロケッツのエース、姚明が足の怪我で今シーズン絶望!」。で、対戦成績もロケッツの1勝2敗となって、もう戦いようもないだろうなぁ・・・なんて思っていたら、なんと現地の日曜日午後に行われた第4戦、「飛車角落ち」のロケッツが勝ってしまいました。バティエもとうぜん大活躍(コービー・ブライアントの"非武装化"に成功&自らも23得点)。詳しいことは以下のページに:
http://d.hatena.ne.jp/hsakawa/20090512/1242073290

・・・現実は小説より面白いって、こういうことかもしれませんね。

アキヒト 2009/05/20 20:31

hsakawa さん、コメントありがとうございます。
記事も拝見しました。僕の記事なんかよりずっと詳しく解説されていて、参考になりました。

記事では最後の最後で勝利を取り逃がしたバティエでしたが、今回は"非武装化"に成功したのですね。マイケル・ルイスの記事を読んでから、すっかりロケッツとバティエのにわかファンになってしまい、勝利したのが非常に嬉しいです(笑)

「現実は小説より面白い」という言葉が、これほどピッタリの例もないと思います。バティエのように、隠れた名プレーヤーにもスポットライトが当たるようになっていくと面白いのですが。


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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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