安全を人任せにしない、ということ
雑誌『東洋経済』の2009年5月23日号の特集は「大失業時代の賢い副業・資格」。会社の中で読むのには勇気が要るのですが(笑)、なかなか面白い内容でした。実用的で……とは言わない方が良いですね。
この特集の中に、タレントの田中義剛さんのインタビューが掲載されています。ご存知の通り、最近「花畑牧場の生キャラメル」が大ヒットとなっていて、タレントと「花畑牧場社長」の二足のわらじを履いている田中さん。牧場は副業かと思いきや、こんなことを仰っています:
「突然キャラメルで儲けやがって」と思っている人が多いでしょうが、そうじゃない。15年間、農協と戦い、地元でもバッシングを受けながらやってきたんです。
失礼ですが、僕もこのインタビューを読むまでは「なんか副業で儲けてるなぁ」「タレントだからキャラメルが売れたんじゃないの?」という印象を受けていました。しかし記事を読む限り、非常にしっかりとビジネスを考えられている様子で、成功されたのも必然だったように感じます。
さらに田中さんのコメントの中には、こんな箇所が:
――農場から小売りまで一気通貫のビジネスモデルです。
かつてスーパーにうちのチーズを卸そうとしたときに、「こちらが決めた値段に合わせないとダメ」と言われたことがある。しかも1ミリでもカビが付いていたら全品回収。カビさせないのは簡単で、ソルビン酸を入れればいい。でもオレはそんなもの入れたくない。手作りの安全な食品をちゃんとした値段をつけて売りたいんです。そうすると、スーパー、コンビニというルートを捨てて自分で売るしかないんですよ。
確かにスーパーにしてみれば、カビの生えている商品など売るわけにはいかないですし、生産者側に厳格な管理を求めるのは当然の話でしょう。しかし「カビが生えていないようにする」という行為の本当の目的を考えれば、それを極端に追求するあまり添加物を入れられるような結果を招くことは、本末転倒と言えるでしょう。
ちょうどこれと同じような話が、先日ご紹介した本『それでも、世界一うまい米を作る』の中にありました:
硝酸態窒素そのものは無害だが、人間の体内に取り込まれると有害な亜硝酸に変化する。
(中略)
ジェイラップが肥料の投与を厳しく制限するのは、食味のこともあるが、この硝酸蓄積を減らすためだ。
(中略)
「一般的に濃い緑の野菜ほど硝酸蓄積が高くなります。キュウリでも黒光りしたものは苦いですが、これは硝酸の味です。ほうれん草も同じで、葉っぱの緑が濃いほど硝酸蓄積が高い。あとは未熟取りをしたものは高くなる。成長期に多く含まれるからです。たとえば、消費者が食べるほうれん草は約30センチですが、本来、あのサイズで食べるものじゃないんです。40センチ、50センチに育てたら硝酸蓄積も下がるし栄養価も高くなるのに、スーパーの都合で収穫サイズを30センチにしたのです。」
スーパーの都合。もしかしたらそれは、「緑が濃い方が喜ばれる」や「管理がしやすい方が手間がかからず、値段を安くできる」のように、本来は消費者のことを考えたものだったのかもしれません。しかしいずれにせよ、それは硝酸蓄積という副産物を招いてしまいました。これもまた、本末転倒と言えるのではないでしょうか。
しかし個人的には、小売業者ばかりを責めていて良い話ではないと思います。本来食の安全というのは、消費者個人が責任を持って考えるべき問題でしょう(「中国産を国産だと偽装していました」などのような論外のケースは除きますが)。見知らぬ人に「これ、食べても大丈夫かなぁ?」などと聞いてから食べる人などはいないはずです。それを「自分で調べるのはかったるいから」「大手なら任せておいて大丈夫だろう」などと確認を怠った結果、小売業者の本末転倒を招いてしまったのではないでしょうか。
などと言いつつ、自分で1つ1つ調べていくというのはなかなか難しいのですが……。しかし「かったるい」「時間がない」で済ませて良い話ではありません。少しずつでも、消費者としての私たちの考え方を改めていく必要があるのではないかと思います。
【○年前の今日の記事】
■ 「若者が辞めていくのは、自己実現できないから」はどこまで本当なの? (2008年5月20日)
■ たまには、ゆっくり歩こう (2007年5月20日)