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成長か発展か

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今日の午後、総務省で行われた「ICTビジョン懇談会」の第1回会合を傍聴してきました(先日「モバイルビジネス活性化プラン評価会議」を傍聴したばかりですが、別に官公庁ウォッチャーになったという訳ではありません)。会議の内容と背景については、以下の報道資料に解説されています:

「ICTビジョン懇談会」の開催 (総務省報道資料)

総務省では、2004年12月、「u‐Japan政策」を策定・発表し、2010年を目標として「いつでも、どこでも、何でも、誰とでも」ネットワークにつながる「ユビキタスネット社会」を目指して各種施策を推進している。

ICT基盤の整備に関しては、ブロードバンドネットワークの全国整備、地上デジタル放送へ完全移行が進められており、2011年には「完全デジタル時代」が到来する見込みである。一方、各分野におけるICTの利活用の加速化や、経済成長を牽引するICT産業の国際競争力向上など、ICTに関わる様々な課題も指摘されているところである。

本懇談会は、「完全デジタル時代」を迎える2011年以降の2015年頃までを展望し、「ユビキタスネット社会」をさらに発展させていくための総合的なICT政策のビジョンについて、幅広い見地から検討することを目的とする。

とのことで、政府全体の施策として進められてきた

そして総務省の施策である

  • u-Japan戦略(2004年12月)
  • xCITビジョン (2008年7月)

の跡を継ぐ形となるビジョン/政策の方向性を議論しようというもの。放送デジタル化(アナログ波の停波)が完了する2011年から5年間、2015年頃までの期間を視野に入れたビジョンになるそうです。また特に検討すべき主なテーマとして、以下の4つが挙げられていました(当日配布された総務省作成資料から抜粋):

**********

(1) ICTファンダメンタルズの強化(※「ファンダメンタルズ」とは、日本の強みを活かした中期的な製品・サービス開発力とのこと)

  • 中長期的に我が国の強みとなる技術の見極めの必要性
  • グローバル展開可能な製品・サービス開発力の強化の必要性

*今後5~10年程度先に実用化・普及が見込まれる技術の中で、特に我が国が優位性を持つ技術開発の加速化策の検討 等

(2) 国境を越えた知識情報社会への移行

  • インターネットを活用した米国発の新事業の急速な対等
  • ネットの特性を活かした世界規模でスケールメリットを活かした事業展開

*インターネット事業の新潮流を踏まえた新事業の創出を図るための環境整備の在り方に関する検討
*国内法規のみで対応し切れない政策課題に係わる国際連携の在り方の検討

(3) 需要(課題)先行型のICT利活用と付加価値の創造

  • 放送デジタル化やブロードバンド基盤整備の完了
  • 大量の取引がネットワークを介して行われる時代の到来
  • 供給側の理屈でなく、需要(利用)側からみたICT利活用促進の必要性 等

*我が国が抱える構造的課題について、特にICTの実利用シーンに即した利活用を図るためのソフトやノウハウの蓄積・共有化の促進策の検討
*コンテンツやアプリケーションの流通促進策の検討
*ICT利活用による地域活性化策の検討 等

(4) ネット社会における消費者主権の確立

  • 消費者(特に高齢者)にとって使い勝手のよい機器・サービスの必要性
  • ネット上の社会経済活動の比重の高まりに対応した新たな「消費者主権」確立のための社会ルールの必要性

*消費者保護のための情報提供システム、事後の救済システムなどの検討
*ネット利用面での「安心・安全」「信頼性」「堅牢性」などを実現するための環境整備の在り方の検討 等

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ということで、なかなか盛りだくさんの内容となっていますね。IT系メディアやブログなどで日々話題になっているテーマも、数多く含まれてくるようです。

今回は第1回ということで具体的な討議はなく、構成員の方々の自己紹介を兼ねて、彼らが自分の考えを披露するということがメインで行われました(なにしろ20名近くいらっしゃるので、1名5分程度の発表でも1時間以上かかりました)。皆さん興味深いご意見を仰っていたのですが、1つ1つを紹介していたのでは切りがないので、ここでは東大の妹尾堅一郎先生が述べておられた言葉だけ取り上げておきたいと思います。

「成長と発展」という言葉がよく使われるが、この2つの言葉は全く違う意味だ。「成長(Growth)」は現在の姿のまま大きくなることであり、「発展(Development)」はまったく新しいモデルを採用することを意味する。そして世界の潮流は、「発展」に傾いている。

総務省の資料に目を通した上で、上記のような発言をされていました(録音していた訳ではないので、一字一句この通りというわけではありません)。これと同じような発言が、以下の記事でも行われています:

「成長」か、「発展」か:成熟社会型モデルへ抜本的な転換を。(NTTコミュニケーションズ)

面白かったのは、似たような発言が他の構成員の方々からも出ていたことです。もちろん全く同じ台詞ではありませんが、「パラダイムシフトを頭に置いて」「これまでと違った発想で」「現状の範囲内で進めようという考え方をいったん止めて」などといった言葉で、既存の在り方にとらわれない議論を行うことが求められていました。

個人的にも、ゼロベースで新しいビジョンを策定しようという考え方に賛成です。確かに「e-Japan」「u-Japan」等の過去の戦略を振り返ったり、既存の社会構造を踏まえた上で、そこから大きく外れない行動を取ることが必要な場合もあるでしょう。しかしITやネットの世界は、言うまでもなく私たちの想像以上のスピードで、想像を超えた場所に向かって進むものです。ゼロベースで再び検討し直した結果、過去の戦略やビジョンが否定されたとしても、それはまったく恥ずべきことではありません(むしろ何年も前の方針や社会構造がそのまま維持されることの方が、惰性として恥ずべきことではないでしょうか)。

僕が言うのもおこがましいですが、構成員の方々の発言を聞いて、実に様々な考え方をする人々が集まったなと感じました。正直なところ、中には個人的にあまり賛成できないような発言をされた方もいらっしゃいます。しかしそれだけに、そこから生み出されるアイデアなり方針なりは、まったく新しいものとなるのではないかという期待を感じています。ただし「船頭多くして……」という諺もありますし、多様な意見をまとめていけなければ、結局「やっぱり既存の延長線で」という話になってしまうのではないでしょうか。成長ではなく「発展」を目指すビジョンが生まれるためにも、ぜひ適切な会議運営が行われていって欲しい、と感じた次第です。

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