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決して最先端ではない、けれど日常生活で人びとの役に立っているIT技術を探していきます。

昨日(7月8日)の朝日新聞朝刊「メディアタイムズ」のコーナーで、秋葉原無差別殺傷事件において Ustream を使った生中継が行われたことについて考察されていました(残念ながら、現時点でネットには公開されていない様子)。僭越ながら僕のコメントも掲載していただいたので、記事を読んだ感想を記しておきたいと思います。

記事では中継を行った人物の一人に取材し、その経緯と証言をまとめています。この方は既にネット上でブログを書かれているので、意見や経緯をご存知の方も多いと思いますが、少し引用します:

男性はふだん、友人の集まりを中継するのに使う。画面に視聴者数が表示され、多くて50人。事件を中継した日は情報が瞬く間に広がり、視聴者は2500人を超えた。「気分が高まった」という。「マスコミより速く中継することを日本で初めてやってしまったかもしれない」

死者が出ていたと知ったのはしばらく後だ。「自分は不謹慎だったのか」。自分のブログに後日、弔意を示して経緯をつづった。

ネット上ですぐ反響があった。「自分でもやったと思う」「意義はある」と賛同もあったが、映像を見ていない人からも「目立ちたいだけ」「不謹慎なやじ馬」と批判が相次いだ。ブログを数年前に開き「ネットの怖い部分を知っていると思っていた」が、批判と、後から強くなった事件目撃のショックで一時自宅を出られなくなった。

ネット上で様々な反応が出たことは知っていましたが、この男性が自宅を出られなくなるほどのストレスを受けていたことを初めて知りました。「仮に自分だったら」と思うと、とても他人事とは思えません。仮に Ustream のことを知らなかったとしても、ケータイで動画を撮影して後で YouTube にアップする、写真を撮って Mixi に日記として書く、といったことなら多くの人が可能でしょう。その意味で、この男性の身に起きた「不運」は誰が経験してもおかしくないことだと思います。

意識しているかどうかを問わず、誰でも「記者」になり得る時代に突入しているという点は、以前のエントリでも書きました。だから「市民記者」のような明示的な活動をしている人だけでなく、全ての人々が「事件を報じるとはどういうことか」を考えないと、単なる野次馬に成り下がってしまう――そう感じていたのですが、事態はそれほど生やさしいものではないのかもしれません。情報発信することによって、発信者自身も間接的に事件の当事者となってしまう。その結果、何らかの精神的苦痛を味わうということも希なケースではないと思います。

「いや、情報発信する時に覚悟を決めていれば問題ないだろ」と言われるかもしれません。仮にいまの僕のように、事件が起きた後で「もし自分が現場に立っていたら」と考えるのであれば、そういった対応も可能でしょう。しかし普通に街を歩いているとき、思いも寄らない大事件が突然目の前で起きたら。その事件の意味やインパクト、規模などを把握して、とっさに「こう動くべきだ」などという判断を下せるでしょうか?普段からトレーニングを受けている本物の記者でもない限り、正しい判断を行うのは難しいと思います。

2001年9月11日、留学中だった僕は、ボストン郊外にある学校で授業を受けていました。朝の授業が終わったころでしょうか、休み時間中だった教室が突然ガヤガヤすると、学校スタッフの方が教室に入ってきて「今日の授業は全て中止」と告げられました。「どうやらガス爆発が起きたらしい」「いや飛行機が墜落したらしいよ」などと様々な情報が飛び交い、学校のホールに臨時でテレビが設置され、CNNがつけっぱなしにされていたのですが……僕はその画面を少し見ただけで、「なんか事故でも起きたんだな」という程度にしか思わず、家に帰ることに。家についてから改めてテレビのニュースを見直し、事故ではなくハイジャックされた飛行機が体当たりしたこと、それによって世界貿易センタービルという巨大な建物が、2つとも崩壊してしまったこと、そしてそれがテロ攻撃であったことを知りました。後からジワジワと恐怖に襲われたことを覚えています。

仮に現在のように、Ustream や YouTube、Flickr 等が普及していたとしたら。そしてボストンではなくニューヨークにいたら。無邪気に火災が起きているビルを撮影して、日本にいる知り合いに「なんか事故みたいよ」と画像/動画で知らせていたかもしれません。そして後で事件の意味を知って、自分の行為を思い悩んでいたことでしょう。秋葉原の事件があった今でも、大事件を目の前にして自分が「後で後悔しないような決断」を下せるという自信はありません。

誰でも、いつでも、どこでも情報発信できるという現代の状況は、私たちにとって幸運であると同時に、一方で非常に不幸なことなのではないでしょうか。巨大なメディアと同じぐらいの力を手にしているのに、記者の方々が受けるようなトレーニングを受けられるわけではない。立場は弱く、いままでは新聞社やテレビ局などが考えればよかった「報道とは何か」という問題を突きつけられ、悩んでも誰も助けてくれない。CGMだ市民メディアだとネット時代を賞賛するのであれば、その影の影響にも目を向けなければならない、と強く感じました。

アキヒト

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コメント
ぴんくさーもん 2008/07/09 09:44

激しく同感です。
自分もその場にいたら、やはり自分のブログや友人宛に写真でも動画でも送っていただろうと思う。

ミクシィの友人が日記で、その事件現場で写真の交換をしていた若者のことを、「こんな奴ら○ねばいい。自分なら真っ先に救護にまわる」と、激しくなじっていたが、これはとても怖いことだ。その場にいた人達の状況への想像力が全く働いていないと思えたからだ。

客観的な情報も無い。緊迫、混乱、騒乱。何かしなければ、と思ったとき、まずは誰かに伝えたい、と思う考えが出てきても不思議ではない。手元にその手段があればなおさら。ただ現代ではその影響力が個人の手に余る程、大きくなってしまった。


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小林啓倫

小林啓倫

株式会社日立コンサルティングの経営コンサルタント。WEBサービスの企画・運営、新規事業の立案などに携わる。個人でPOLAR BEAR BLOGも執筆中。

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