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看板にプライバシーを侵害される日

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東京駅・八重洲地下街の一角でデジタルサイネージ(電子看板)の実証実験が始まったとのことで、ITmedia を始め各所で紹介記事が出ています:

八重洲に巨大電子看板が出現 動画と香りで道行く人を顧客に (ITmedia エンタープライズ)

「デジタルサイネージなんてご大層な名前がついていても、要は大型ディスプレイだろ?絵が動こうが香りが出ようが、それほど新しさは無いなぁ」と思いきや。実は今回、こんなイノベーションが追加されています:

ディスプレイの上には定点カメラが取り付けられており、端末利用者の年齢や性別、画面を見た時間などを測定する。クーポンの取得数や利用数などのデータと合わせて、デジタルサイネージの広告効果を検証する。

単にコンテンツを見せるだけでなく、見た人々のデータが取れるようになっているわけですね。この「視聴率(?)測定機能付きデジタルサイネージ」という発想については、今日の日経ビジネスの記事が詳しいです:

私の眼はゴマかされません、年齢はお見通し! (NBonline)

この新型デジサイにはカメラが付いています。目の前を歩いているお客さんをそっと眺めていて、2つの属性分析をすることができます。男か女か? の2カテゴリーと、20代か50代か? などの年齢層を10歳単位で7カテゴリーに推測できます。5メートルの射程距離内にいる限り、最大6人の対象者に対してずっとこの観察と推測作業をし続けているのです。昨年9月より販売を開始したこの商品、ショッピングセンターなどから多くの引き合いがあるとのことです。カメラだけのシステムは海外にいくつか事例があったものですが、デジサイとの連動型は世界初の試みという同社自慢の新技術です。

ということで、考え方によっては現在のテレビの視聴率測定方法より詳しい結果が出るかもしれません。しかも単に視聴率を計るだけでなく、視聴者の属性によってリアルタイムにコンテンツをカスタマイズする、なんてことも可能になるわけですね。さらに今後、服装を自動認識して「ビジネスシーン」「お嬢様風」などといった属性も確認できるかもしれないとか。

しかしそこまでいくと、当然懸念されるのがプライバシーの問題。実はこの広告+視聴者認識というアイデア、海外でも実用化が進んでおり、以前ニューヨーク・タイムズにプライバシー侵害を危惧する記事が掲載されています(参考記事)。日経ビジネスの記事は、「やっていることはウェブ広告と一緒。機械的に処理されるということが理解されれば、そのうち市民権を得るのではないか」というような論調ですが、果たしてそうすんなりと行くでしょうか?

視聴者の属性認識によって得られるデータは、企業が喉から手が出るほど欲しいものでしょう。どんな属性の人々が、いつ・どこにいたか。どんなモノやサービス、情報に興味を示したか。さらに「スマイルシャッター」のような表情・感情認識技術まで応用されれば、「どんな反応を示したか」ということまで確認できるようになるに違いありません。消費者がそういった情報を取られる(盗られる?)ことを許すかどうかという議論が深まる前に、技術の導入だけが先行してしまう、という状況が生まれてしまうような気がします。

以前、というより現在進行形の話ですが、「防犯のために街中に監視カメラを置くことは是か非か」ということが問題になりました。その議論も明確な決着を見ぬまま、監視カメラの普及が続いています。今回の「デジタルサイネージ+視聴者データ自動取得」という話は、企業にとって明確に利益になるという点で、監視カメラ並に急速に普及することも考えられるのではないでしょうか。その良し悪しは別の問題として、こういった技術が実用化の段階まで来ているということを、広く知らしめる必要があると思います。

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