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非効率の価値

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1分1秒でも早く、ムダなく。そんな効率性を追うのは、現代社会では当然のことです。しかし中には、こんな風に、非効率であることを良しとする製品も存在しています:

±0 トースター

家電・雑貨を中心とした商品を展開しているブランド「±0(プラスマイナスゼロ)」が新たに発表した、1枚焼きのトースター。±0と言えば、ドーナツ型をした加湿器がヒットしたことでも有名ですよね。実は8月1日の日経MJで特集されていたのを読んだのですが、この一見非効率な「1枚焼き」というコンセプトについて、以下のように説明されています:

今回、発表されたシリーズは、朝食の食卓をイメージ。目を引くのは1枚焼きの「トースター」。(中略)「±0」では、必要機能を緻密(ちみつ)に組み合わせてすき間をなくし、小サイズのポップアップ型にしようと知恵を絞ったという。1枚焼きにしたのも「1人暮らしには便利だし、夫婦が会話しながら互いのパンを焼き合うシーンも考えた」(マーケティングマネージャーの田尾敏樹氏)。

確かに「1人暮らし用に1枚焼き」なら普通なのですが、「夫婦が会話しながらパンを焼き合う」というシーンもイメージされているのですね。公式サイトでも、「まず君のにジャムをぬってから、もう1枚を焼く。」なんてまるで映画のワンシーン!?のような解説がなされています。1回で何枚でも焼ける、などといった効率一辺倒のトースターでは、こんな価値は生まれてこないでしょう。

もちろん「家族が多いからそんな悠長なことは言ってられない」「朝は1分1秒でも惜しい」といったニーズがあるのも事実です。そんな家庭には、一度に4枚ぐらい並べてチン!できるオーブントースターがピッタリでしょう。しかしそんな効率を取り払ってみたときに、家族の会話という価値が見えてくるというのは面白い発想ではないでしょうか。もしかしたら、「常に1分1秒でも早く、ムダなく」というのは脅迫概念であって、思いがけない価値を見落としているのかしれない……という気持ちにさせられました。

アメリカに住んでいた時、部屋に備え付けのオーブンがあり、そこでよくパンを焼いていました。紙製の容器に密封されたパン生地が市販されていたので、それを買ってきて焼いていたのですが、考えてみれば非効率極まりない話です。生地を取り出して、(時には具を追加して)形を整え、焼き過ぎないように加減を見ながら出来上がりを待つ……そして失敗したパンを食べる。それでも何ともいえない楽しさを感じたことを覚えています。非効率というのは時に、ロジカルに考えていては思いつかない価値を生んでくれるのかもしれません。

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