【書評】アディダス - 進化するスリーストライプ
ITmedia さんから書評用に本をいただいたので、ここで感想などを述べておきたいと思います。ちなみに内容に関して、ITmedia さんからのチェックは一切入っていません。以下は完全に僕個人の意見であることを明記しておきます。
今回いただいたのは、『アディダス - 進化するスリーストライプ』という本。"THE BRANDING"シリーズの一冊で、タイトルの通り「アディダス」ブランドの歴史を追ったものです。ドイツのスポーツシューズメーカーとしてスタートしてから、世界ブランドとして成功し、一転して滅亡の危機に立たされながらも華麗な復活を遂げるまでの物語。ただし約230ページとコンパクトな内容なので、2・3日あればさらっと読めてしまうかと思います。
この本は読み手の関心がどこにあるかによって、見えてくるものが異なるかもしれません。「なぜ大企業は失敗するのか」という点に関心があれば、物語中盤のアディダスの慢心について興味を引かれるでしょうし、企業再生に関心があれば、後半の復活劇が参考になると思います。ただしこの本を読む限り、1980年代以降のアディダスの苦境は自らが招いたもの -- 再生は「過ち」を正すだけで良かった、という印象を受けますから、復活に至る場面はさほど楽しめないかもしれません(実際、「あとがき」において著者は「アディダスの近代史を映画にするなら、1990年代末のサクセス・ストーリーをテーマには撮りたくない。むしろそれ以前の危機に陥っていた時期を選ぶはずだ。」とコメントしています)。
僕自身も、グローバルブランドとして大成功を収めていたアディダスが、慢心と内部対立によって崩壊していく様の方に興味を引かれました。例えばランニングシューズ市場において、アディダスの対応が貧弱であった理由が以下のように解説されています:
昔かたぎのアディ(※注:アディ・ダスラー、アディダスの創業者)は、ランナーがしっかりと足を支えるための硬めのシューズを望んでいると確信していた。純粋に技術的な側面から検討すれば当然の結論である。ところが大事なことを見過ごしていたのだ。とりわけ、アメリカで顕著だったのだが、年齢層によっては履き心地のよいソフトなシューズが求められていた点である。
初期のアディダスの成功は、純粋に技術的に優れた靴を開発し、それをアスリートに提供することによってもたらされたものでした。その成功体験が罠となり、スポーツでありながら半ばファッションとしても楽しむ「素人」が形成する市場に対応できなかったわけです。そこをナイキなど新興のメーカーに攻撃されたことが、アディダス停滞の一因となったのでした。
いま大企業に勤めている方などは、本書を読んで「どこかで聞いた話だ」と感じる部分があるのではないでしょうか。アディダスという企業の姿を通しつつも、成功した企業が陥りがちな態度や考え方というものを、この本は示してくれると思います。その意味で、スポーツ用品やスポーツ・プロモーションに詳しくない人(僕もその一人)でも楽しめる内容ですよ。また「アディダスにはなぜ2つのロゴマーク(トレフォイルとスリーバー)があるんだろう?」という疑問にもちゃんと答えてくれているので、興味のある方は是非。