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ちょっと待って、新人教育

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4月も後半に入り、各企業では新人教育まっさかりだと思います。しかし、ちょっと待って。新人を企業の色で染め上げてしまう前に、試して欲しいことがあります。

先日から『強い会社は「周辺視野」が広い』という本を読んでいるのですが、その中でこんなエピソードが紹介されています:

20世紀の初め、イギリスの探検家たちはマレー半島の奥深い山間部に暮らす未開部族の長をシンガポールに連れてきた。この華やかな港町の高い建物や船の数々、市場のにぎわい、交通量の多さを丸一日「観光」したあと、石器時代からやって来たこの部族民が何をどの程度認識するかを調べるのが目的だった。さてその日の終わり、彼が覚えていたのはたったひとつ、荷車でたくさんのバナナを運ぶ男だった。この驚くべき光景は彼自身が経験する世界に近かったので認識、記憶されたわけだ。新築の建物、船、馬車、妙な格好をして歩く人はもちろん見えたはずだが、こうした新しいイメージに対する視点が彼には欠けていた。

「会社に入ってきた新人はまさにこの『未開部族の長』と同じであり、前提となる知識を習得しなければ、何を詰め込まれても残らない」……という教訓を読み取れるかもしれません。確かにそうとも読めるのですが、僕は別の受け取り方をしました。この部族長が、既に会社の中で何年も働いている人々、いうなれば「部族長」ではなく「部長」たちであるとしたらどうでしょうか?

1つの環境の中に長くいると、どうしても決まった考え方しかできなくなります。簡単な例で言うと、コンビニで「雨が降ったら傘を並べろ」というような具合ですね。しかし店の周囲に高い建物ができたことで、急な雨でも傘を必要とする人は減っているかもしれません(傘のスペースに別なものを並べた方が得かも)。ビジネス環境が変わり、目の前には摩天楼や自動車で溢れているのに、まだ荷車でバナナを運ぶ男しか見えていない……同じ会社に長くいる人々は、そんな状況に陥っていないでしょうか。

よく紹介される心理学の実験で、イグ・ノーベル賞も受賞した"Gorillas in our midst"というものがあります。これはバスケットボールをパスし合うプレーヤーのビデオを見せて、パスが何回が行われたかを数えてもらうという内容ですが、実はビデオの中には(バスケのプレーヤー達には関係無く)ゴリラが登場します。ゴリラは胸を叩くなど、かなり目立つ行動を取るのですが、被験者のおよそ50%はゴリラが現れたことに気づきません。パスの回数を数えるのに気を取られるあまり、バスケと関係の無いものを無意識に除外してしまうためです。

僕はこのビデオ、あるテレビ番組で見たことがありますが、ゴリラの登場にすぐに気づきました -- 理由は簡単、「パスを数えてください」という指示の部分を聞き逃していたから。「これを見なければいけない」という意識で視野を狭めなければ、異物が出てきたのに気づくのは当然です。それと同じことが、今年新しく入ってきた新入社員にも期待できるのではないでしょうか。

もちろん、業界で生き残るためのスキル・知識を身に付けるのは重要です。しかし「パスを数えなければならない」という意識を根付かせる前に、会社の置かれた環境を見てもらうことも大切ではないかと思います。もしかしたら、目の前に巨大なゴリラが立っていたり、未開のジャングルにいると思っていたら、大都市の交差点に立っていたということに気づくかもしれません。ステレオタイプになってもらうのは、それからでも遅くないはずです。

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