のっぴきならない
「のっぴきならない」という言葉があります。なかなか使う場面が多い言葉ではありませんが、「今日はのっぴきならない事情があって、これで帰ります」などと飲み会を中座する時に使ったりしますね。(そういえば、オルタナティブ・ブロガーの川上暁生さんも使われていたような・・・。)
実はこの「のっぴきならない」という言葉、漢字で書くと「退っ引きならない」となり、もともとは軍事用語だったそうです。つまり「退く」ことも「引く」こともできないという意味で、進退きわまってしまった状態ということですね。そう言われてみると、確かに戦場の差し迫った感じがしてきます。
「のっぴきならない」に限らず、戦争に関する言葉が日常的に使われるようになった例は他にもあります。例えば最近、『世界最強CMOのマーケティング実学教室』という本を読んでいたりするのですが、その中でこんな解説があります:
それから、営業部隊は戦争とスポーツのメタファーの牙城だ。(中略)「外回り営業部隊」というフレーズさえ、じつに勇ましい。もちろん、マーケティングの機能はどれも何かしら戦争に関係がある。マーケティング作戦(キャンペーン)で新製品を投入(ローンチ)する。そして、市場にクーポンを投入するという具合だ。
他にも同書の中には、ブリストル・マイヤーズが同社の頭痛薬「ニュープリン」のPRに際して使った「痛みを『核攻撃する(ニューキング)』という物騒な意味の、『ニュープ・イット』というフレーズ」なども紹介されています。(考えてみれば「世界最強CMO」などというケバケバしいキャッチフレーズも、戦いに関係していますね。)
このように、特にビジネスの世界においては、軍事用語がメタファーとして使われる場合が多くあります。確かにビジネスを競争相手との戦争と捉えれば、それも不思議ではないのですが、果たしてビジネスは競争一辺倒なのでしょうか。例えば競合他社との価格競争にあけくれ、消費者を無視した行動を取った挙句、他社と一緒に共倒れになってしまう・・・などといったケースも考えられるでしょう。商売はあくまでも、「お客様第一」の競争なのです。
そう考えると、あまり勇ましい言葉ばかりを使うのも考えものかもしれませんね。「営業部隊」を「お客様サポートチーム」に、「投入」を「ご提供」に、「作戦」を「ご奉仕」に(これはちょっと無理がある?)・・・などとちょっと言い換えてみたら、消費者からそっぽを向かれるといった「のっぴきならない」事態を防ぐ手助けになってくれるかもしれません。