「銀むつクライシス」を読んで、海洋資源に関して考えさせられる
昨年あたりから食品偽装の問題が頻発しています。以前から食の安全、消費者への明確な説明を求める声は大きく、原材料や商品名称を正確に表示することが必要とされています。
そんな中で皆さんの記憶にもあるものとして、白身の魚の問題は記憶に新しいと思います。ギンダラ(ここまでくると嘘の領域になりますが)やギンムツという名前で販売されている魚の切り身、照り焼き、塩焼きなどが、実はメロという魚であり、正式にはマゼランアイナメという深海魚であり、スーパー等での表示は今では「銀むつ(メロ)」という正確な表示に替わっています。
「銀むつクライシス」という本では、銀むつ(マゼランアイナメ)という深海に眠っていた資源がどのよううな経緯で開発されたものであるかというお話と、現在密漁によって乱獲されているマゼランアイナメの資源保護のための密漁戦を拿捕するオーストラリアと密猟者の壮絶な追跡劇を交互にドキュメンタリーとして紹介しています。
昔は価値の無いものとして捨てられていたマゼランアイナメを偶然見つけて、販路を開き、市場に認知させるまでの苦労は大変であったことは、書かれている内容からも解ります。その一方で、広く食材として認知され、価格が高騰するにつれてマゼランアイナメは乱獲され、絶滅の危機に瀕しています。
もともと、50年以上かけて成魚になり、固体数自体もさほど多くなく、かつ繁殖力も旺盛でない魚のようです。それがグローバルな食材として認知された結果、正規の漁業だけでなく密猟の対象になり、絶滅の危機にさらされていることはあまり認識していませんでした。
一方で資源保護のため、というよりも国益のために、密漁を取り締まるほうの苦労も大変なようです。ただでさえ極地に近い海域を中心に漁が営まれており、かつ追跡劇も本の中であるように長期間、広範囲にわたるものだからです。また、これまで知らなかった、取締りのための国際ルールにしばられ、なかなか拿捕まではできないようです。
また、拿捕しても、本文で紹介されているように、有罪にすることも難しく、かつ有罪になったとしても、新しい参入者や、新たな手口、さらには国家レベルで密漁を陰で支える仕組みなど、いろいろな障壁は大きいようです。
資源保護、特に海洋資源保護は、正確な事実認識と国際的な厳密なルールが必要で、単なる協力ではなく、厳密なルールと罰則適用が必要だと、改めて認識させてくれた一冊でした。