「思いつき」の力
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ここ1週間ほど、ネット(ブログ)と「思いつき」に関して、いろいろな考えが飛び交っています。
震源地は、デイリーポータルZの林雄司さんの講演にあると勝手に思っていますが、これも思いつきです。小林さんのシロクマ日報でもいち早く取り上げられました。
ネットは「思いつき」というレベルで動けて、しかもそれが大きな影響力を持つ可能性がある。だからあれこれ悩まずに、とりあえず動いてみたら――というアドバイスであるように僕には感じました。
ネット以前は、内輪ネタとして消えていた「思いつき」が、ブログなどで世間に知られるようになることは、とてもいい事だと思いますし、実際に動く(ブログに書く)ことの重要性が従来より高く認識されてくると思います。企業も確かな成長シナリオが描きにくくなっているので、組織運営による効率性を追求するのではなく、個人の創意工夫による「思いつき}を引き出す仕掛けが重要になると思います。
林さんの講演の中でも、
人に「そうなのか?」って言われたら、まあ、わりとノーっていわれると引っ込んじゃうタイプなんですね。企画書を書いたり、人に説明する面倒臭さに負けてしまうんですよ、僕が。で、そうすると人からあんまり突っ込まれないところを見つけて、小さいところでちょっとづつなんかやっているっていう、気の弱い10年間を過ごしてきたんです。
という部分があって、企業側は「思いつき」を潰さない工夫が必要だと思いました。
林さんの講演が行われたアルファーブロガー・アワードの中心人物である徳力さんのコラムでも、「思いつき」に関して書いてあります。
インターネットは個人の思い付きが、ついうっかり影響力を持つということ。
林さんのプレゼンでとても衝撃を受けたのが、冒頭のBroadBandWatchの記事でもピックアップされている「インターネットは個人の思い付きが、ついうっかり影響力を持つ奇跡のツール」というフレーズです。長くブログを書かれている方であれば、大なり小なりこの言葉に共感される人は多いと思いますが。当日の個人的には、これはまさに自分にたいして言われたような感覚を受けた言葉でした。
やらせでなく、「ついうっかり」という表現も絶妙だと思います。生産者から消費者へのパワーシフトが起こり、プロダクトアウトからマーケットインになった流れが、ナレッジや情報でも起こっている、ということだとも言えると思います。情報の受け手だった側が主導権を持つようになると、情報発信手段の独占に基づいて影響力を保持していたマスメディアは凋落し、情報受信側の支持さえあれば、「ついうっかり」影響力を持ったりします。そういう意味でも、無駄と思わずに「思いつき」を情報発信する行動力が重要になってきます。
従来のマスメディアは、発信手段を独占する代わりに、重い責任を担っていました。報道の真実性・中立性・公平性は社会的には大変重い責任です。その固定観念をブログなどに求める意見もありますが、当然のごとく「思いつき」に過度な理論武装を求めるなみたいな意見も出てきます。
ブログに過度な理論武装を求めるな。
「ブログで表現する者」の「書く気」を削ぐ意見も見られることがあります。それは、「いちいちブログの内容に理論武装を求める人」です。そうです、自分の意見と食い違うときに、文章の中で理論のつながりの欠落点だけ指摘して「こういう場合はどうさ」と揚げ足取り屋さんに多いタイプです。
所詮、「思いつき」なのですから、揚げ足取り屋さんは相手を間違えています。実際にも、そういう場違いなコメントが数多く見られるのは悲しいことでもあります。気の弱いブロガー(行動した人)は、林さん同様、それだけで行動を自粛したりします。
「ブログで情報発信したい!」と思い、ブログを始めたばかりの人に対して、このような人の存在は、「(確固たる)理屈の裏づけがないとブログが書けない…」と感じさせ、せっかく「表現」しようとしている気持ちを奪いかねません。そしてそもそも、理論武装だらけのブログがはびこるネットの世界なんて…つまんない。いいじゃん、理屈がなくたって。(「理屈がない批判」は「どうよ」と思いますが)いいじゃん、感覚だけで。いいじゃん、「思った」「感じた」だけで書いたって。「表れたもの」に対してしか批判できない人よりよっぽど素晴らしいですよ。まっさらから文章を起こしている、という方は。
個人の「思いつき」が伝播して、他の人に気づきを与えられるのは、とてもいいことだと思います。伝える手段がないために、宣教師が宗教を広めた時代に比べれば、人間同士の叡智をシェアしやすくなった現代は、とても幸福な時代だと思います。幸せの根源は、自由意思の尊重、選択肢の多様さにあると思います。「思いつき」を共有できることは、選択肢が多様であることのインフラになりうると思っています。
情報発信の内容にどこまで求めるかは、ネットの実名・匿名の議論とも関係し、今後深まっていくことを期待しています。
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