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人材ビジネス経験は平均15年以上。古今東西、老若男女の転職を見てきた現役のヘッドハンター達が、今起こっている転職現場の「ホントですか?」を分かりやすく解説。転職成功やキャリアアップのヒントも、5人のヘッドハンターが交代で紹介します。

「ちょっと待った!」会社業績悪化での転職

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「会社の将来が不安だ...」

これは求職者の転職動機で最も多い理由のひとつである。「会社の何が不安なのか?」と尋ねてみると、「会社の業績が悪化し始めた」や「競合他社にシェアを奪われた」などの答えが返ってくる。「赤字でボーナスが下がった」などというものも含めると3人に1人はこの理由。時として「経営陣のやる気がなく...将来が不安」という声も聞かれるが、それは置いておいても、会社業績に関わる不安を理由に転職を考えている方は実に多い。そしてその方に対しては、常日頃から「本当に転職してもいいのですか?」と問いただすようにしている。なぜなら、

1.業績悪化時こそ自分の経験を磨ける機会であり
2.苦境を乗り越えた経験談を採用担当者は好み
3.転職回数にうるさい日本の採用事情があるから

という3つの理由で、「一度、立ち止まって考えてみたらどうか?」と思うのである。

 

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 そもそも、どんな会社に就職したとしてでも浮き沈みはある。極端な例をあげると、JALは破たん後に再上場を果たして2012年通期で過去最高益を出した。同じようにアメリカでも破綻したGMが1年半後に再上場して2011年通期で過去最高益を出している。いずれも再生手続きを経たとはいえ、見事なV字回復劇だった。破たん時の社員は絶望を感じただろうに、どん底から"強くなって戻ってくる"ことだってあるわけだ。

おおよそ会社の将来を転職理由にする人の傾向は、企業の成長期や安定期を経験していることが多い。そういう会社で安泰や成長を経験しているからこそ、反転した伸び悩みや業績悪化が不安となり、「転職しなくては...」ということになるようである。

ところが...だ。採用する側の面接官が面接NGとする理由には「会社の将来の不安を言ったから」というものが実に多い。ついつい本音で会社の不安を吐露してしまうと、マイナス評価になるわけである。採用企業側からすると、自社の業績だって今後、悪化する可能性だってあるわけで、将来の不安を理由に転職する人材は「うちの会社の業績が悪くなったらまた転職するのでしょ?」という心理になるのである。逆を言うと採用担当は、苦境にこそどんな経験とスキルを身に着けてきたか?に興味を持っている。好調な時は得てして大多数の人が波に乗って好結果を出せるが、苦境の時こそ実力の差が出るもの。会社が傾いた時にどんなアウトプットを出せたのか?ということを問う企業が多い。

そういう意味で、業績悪化に陥った会社での取り組みはキャリア上の大きなプラスとなるといって良い。職種別で言うと、V字回復を計画しターンアラウンドを担った経営企画職とか、経費や財務の見直しを行い企業体質を強くした経理財務職とか、起死回生の商品やサービスを開発した企画職とか、新たな販路開拓で業績を盛り返した営業職だとか、あらゆる職種で苦境時に身に着けられるスキルはあるものである。これらが会社の業績が悪いからと言って、早まって転職をしない方がよい理由である。

そしてもうひとつ、会社将来の不安を転職動機にしない方がよい理由は、"日本の採用は転職回数にうるさい"からである。日本では、絶対神話のような採用基準がいくつかあり、そのひとつが"転職回数"なのだ。例えば、20代であれば2回まで、30代であれば4回までというように回数規制をする企業が多い。解雇規制が緩く、転職=スキルアップの認識が高い欧米とは異なり、日本では転職回数が多いとジョブホッパー(バッタのように仕事を飛び回るという意味)の色眼鏡で見られてしまう。終身雇用の無くなった昨今でも、一度就業したら長く勤めて欲しいという傾向が日本では強いというのが背景にある。そんな事情で、会社の将来が不安だと言って転職を繰り返していると、そのうちに日本では転職できなくなる。語学堪能で欧米企業に就職するなら別だが、そうでなければ、どこかで将来の不安を押しこらえて働き続ける時が出てくる。だったら、若いうちから苦境でのスキルアップを実践した方が賢明だろうと思えるのだ。

takamoto.jpg生きている限り人間に不安はつきもの。会社の将来に不安がよぎっても、一旦立ち止まって、現職に留まるという選択肢を真剣に考えてみてはいかがだろうか。( (株)プロフェッショナルバンク 高本尊通)

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