【続編】いま押さえておきたい「オープンウェイトモデル」具体例8選
はじめに
前回の記事「「オープンウェイトAI」に本気を出さないと、日本は取り残される」では、CNCFの提言を軸に、「主権的AI」を実現するうえでオープンウェイトモデルがなぜ重要なのかを整理しました。
データを外部に出さない安全性、ベンダーロックインからの解放、自社データでのカスタマイズ性----。理屈は分かっても、「では実際にどんなモデルがあるのか」がイメージできなければ、投資判断も人材育成の方向性も定まりません。
そこで本稿では、2025年後半から2026年にかけて相次いで登場した主要オープンウェイトモデルを8つ取り上げ、それぞれの特徴とライセンスを具体的に見ていきます。いずれも「重みが公開され、自社環境にダウンロードして動かせる」という前回の定義に当てはまるモデル群です。
オープンウェイトモデル戦国時代の8モデル
1. gpt-oss-120B(OpenAI)
OpenAIが2025年8月に公開した、GPT-2以来ひさびさのオープンウェイトモデルです。117B(1170億)パラメータのうち、実際に計算に使われるのは5.1Bのみという「MoE(Mixture of Experts)」構成を採用し、H100 GPU1基で動作します。ライセンスはApache 2.0で、商用利用の制約がほとんどありません。関数呼び出しやPythonコード実行、Web検索といったエージェント機能をネイティブに備え、推論の深さをlow/medium/highで切り替えられる点も特徴です。「閉じたAPI企業」の代表格だったOpenAIが重みを公開したこと自体が、業界全体への強いメッセージになりました。
2. MiniMax M2.5(MiniMax)
上海拠点の中国スタートアップMiniMaxが2026年2月に公開。230B総パラメータ中、活性化するのは10Bのみ。SWE-Bench Verified(コーディング能力を測るベンチマーク)で80.2%を記録し、クローズドモデルであるClaude Opusクラスに肉薄する性能を、大幅に低いコストで実現したとして話題になりました。ライセンスは修正MIT形式で、大規模商用利用時にはUI上へのモデル名表示が義務付けられています。
3. Ling-1T(Ant Group)
アリペイを運営するAnt Groupが2025年10月に公開した、1兆パラメータ級のオープンウェイトモデルです。トークンあたりの活性化パラメータは約500億で、31種のベンチマークのうち22種でクローズドモデルを含む競合を上回ったとされています。ライセンスはMITで、商用・非商用問わず自由に利用可能。Ant Groupは「AGIは公共財であるべき」という理念を掲げており、Ling(非推論)、Ring(推論特化)、Ming(マルチモーダル)という3系統でモデル群を展開しています。
4. Kimi K2.5(Moonshot AI)
Moonshot AIが2026年1月に公開した、テキスト・画像・動画を統合的に理解するネイティブなマルチモーダルモデルです。1兆パラメータのうち活性化は320億。特徴的なのは「Agent Swarm」機能で、1つのプロンプトから最大100体のエージェントを自動生成・編成し、複雑なタスクを並列処理できます。ライセンスは修正MITで、月間アクティブユーザー1億人または月商2000万ドルを超える大規模事業者以外は帰属表示も不要という、実質的にかなり自由な条件です。
5. GLM-5シリーズ(Zhipu AI/Z.ai)
清華大学発のZhipu AIが展開するGLMシリーズは、2026年に入ってからGLM-5→5.1→5.2→5.3と急速に進化を続けています。最新のGLM-5.2(2026年6月公開)は総パラメータ約7530億、活性化約400億のMoE構成で、100万トークンという長大なコンテキストウィンドウを実現。ライセンスはMITで地域制限なし。興味深いのは、この公開タイミングが米国商務省によるAnthropicモデル(Fable 5・Mythos 5)への海外提供制限の発表と同日だったことです。地政学的な緊張の中で「制限のないオープンな選択肢」を打ち出す狙いがあったと報じられています。
6. MiMo-V2-Flash(Xiaomi)
スマートフォン・EVメーカーとして知られるXiaomiが2025年12月に公開したモデルです。309B総パラメータ中、活性化は15Bのみという軽量設計で、毎秒150トークンという高速推論を実現。入力100万トークンあたり0.1ドルという低コストも相まって、SWE-Bench Verifiedでオープンウェイト系トップの73.4%を記録しました。ライセンスはMIT。DeepSeek出身のエンジニアも参加しており、家電メーカーからAI基盤モデル企業への転身を印象づけるリリースとなりました。
7. Qwen3.5-397B(Alibaba)
Alibabaが2026年2月に公開した、初のネイティブ・マルチモーダル対応Qwenモデルです。397B総パラメータ中、活性化はわずか17B。線形アテンションとスパースMoEを組み合わせた新しいハイブリッド構成により、旧世代の1兆パラメータ超モデル(Qwen3-Max)に匹敵する性能を、より少ない計算資源で達成したとされます。201の言語・方言をサポートし、日本語を含む多言語対応も強みです。ライセンスはApache 2.0。
8. DeepSeek-V3.2
2025年12月公開。671B(6710億)パラメータ全体をMITライセンスで公開しており、「DeepSeek Sparse Attention(DSA)」という新しいスパースアテンション機構により長文コンテキストでの計算量を大幅削減しています。上位版の「Speciale」は、国際数学オリンピック(IMO)や情報オリンピック(IOI)、ICPC世界大会で金メダル級のスコアを叩き出し、オープンモデルとして初の快挙を達成しました。2024年末の「DeepSeekショック」から1年、オープンウェイトの最前線を走り続けている存在です。
比較早見表
| モデル | 開発元 | 公開時期 | 総パラメータ | 活性化パラメータ | ライセンス |
|---|---|---|---|---|---|
| gpt-oss-120B | OpenAI | 2025年8月 | 117B | 5.1B | Apache 2.0 |
| MiniMax M2.5 | MiniMax | 2026年2月 | 230B | 10B | 修正MIT |
| Ling-1T | Ant Group | 2025年10月 | 1T | 約50B | MIT |
| Kimi K2.5 | Moonshot AI | 2026年1月 | 1T | 32B | 修正MIT |
| GLM-5.2 | Zhipu AI | 2026年6月 | 約753B | 約40B | MIT |
| MiMo-V2-Flash | Xiaomi | 2025年12月 | 309B | 15B | MIT |
| Qwen3.5-397B | Alibaba | 2026年2月 | 397B | 17B | Apache 2.0 |
| DeepSeek-V3.2 | DeepSeek | 2025年12月 | 671B | 37B | MIT |
一見して分かるのは、8モデル中7モデルが中国発であるという事実です。米国発はOpenAIのgpt-oss-120Bのみ。前回の記事でCNCFが指摘していた「クラウドネイティブ人材の不足」「アジア他国に後れを取る危機感」という論点は、このオープンウェイトモデルの勢力図を見るといっそう実感を伴って迫ってきます。
また、すべてのモデルが「MoE(Mixture of Experts)」構成を採用し、総パラメータ数に対して実際に計算で使われる活性化パラメータをごく一部に抑えている点も共通しています。これが、巨大なモデルでありながら比較的手頃なハードウェアで運用できる理由であり、「自社インフラで動かす」という主権的AIの実現可能性を高めている技術的な背景です。
日本にとっての示唆
前回の記事で触れた通り、オープンウェイトモデルの価値は「自社の管理下でAIを動かせること」にあります。今回紹介した8モデルは、いずれもHugging FaceやGitHub、ModelScopeといった場所から重みをダウンロードでき、Ollama・llama.cpp・vLLM・SGLangといったツールを使えば、自社サーバーやプライベートクラウド上での運用が可能です。
一方で気になるのは、この勢力図における日本発モデルの不在です。ライセンスが寛容でハードルが低いからこそ、「海外の優れたオープンウェイトモデルをベースに、日本語・日本の商習慣・特定産業のデータでファインチューニングする」というアプローチは、日本企業にとって現実的な選択肢になり得ます。ゼロからフロンティアモデルを作るのではなく、こうした素材を「賢く使いこなす」体制づくりこそが、まず着手すべき一歩なのかもしれません。
次回は、これらのモデルを実際に自社環境(オンプレミス/プライベートクラウド)で動かす際の具体的な選択肢----推論エンジンやツールチェーンの比較----について掘り下げてみたいと思います。