Datadogに見る「AI観測」という新しい戦場 ― 会社概要とAI戦略まとめ
クラウド監視の代名詞的存在であるDatadog。近年は「AIを使う側」としても「AIを監視する側」としても存在感を強めています。本記事では、会社概要からAI戦略、そしてその技術的な立ち位置までを整理します。
Datadogとは何をする会社か
Datadogは2010年、Olivier Pomel氏とAlexis Le Quoc氏によって創業された、米ニューヨーク拠点のクラウドモニタリング企業です。2019年にNASDAQへ上場(ティッカー:DDOG)し、現在は従業員約9,800人、時価総額は約930億ドル規模にまで成長しています。
もともとはサーバーやアプリケーションのパフォーマンスを監視する「モニタリングツール」としてスタートしましたが、現在では25以上の製品を擁する統合プラットフォームへと進化。オブザーバビリティ(可観測性)、セキュリティ、ソフトウェア配信管理まで幅広くカバーし、約32,700社の顧客を抱えています。
Datadogの3本柱のAI戦略
「AIを活用したい」という点ではどの企業も同じ方向を向いていますが、Datadogのユニークさは2つの軸を同時に攻めていることにあります。
1. Bits AI ― 自社プラットフォームを動かすAIエージェント
障害の根本原因調査を自動化する補助ツールとして始まった「Bits AI」は、2026年のDASHイベントで大きく進化しました。Bits Detection、Agent Evals、Infrastructure、Code、Release、Data Analysis、Testing、Chatといった機能群が追加され、インフラを継続的にスキャンし、修正を提案し、あらかじめ設定したガードレールの範囲内で実装まで自律的に行えるようになっています。つまり「見つけて終わり」のツールから「見つけて直すAIチームメイト」への転換です。
2. LLM Observability ― 顧客のAI活用そのものを監視する
もう一つの柱がLLM Observabilityです。企業がOpenAIやAnthropicのモデルを使ったアプリケーションを本番運用する際、その挙動----入出力、レイテンシ、トークン使用量、そして回答の「質」----を監視するレイヤーを提供します。
3. AI Guard ― エージェントのセキュリティ
AIエージェントは高い権限と機密データへのアクセスを持つため、一つの悪意あるプロンプトが攻撃経路になり得ます。AI Guardは、エージェントの挙動を細かくトレースし、異常な振る舞いを分析することで、こうした攻撃を検知・ブロックする機能です。
ハルシネーション検出の仕組み
LLM Observabilityの中でも特に注目されるのが、ハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成すること)の検出です。RAG(検索拡張生成)を使ったアプリケーションでは、LLMの回答が参照元(コンテキスト)と矛盾していないかを、別のLLMが判定者となって評価する「LLM-as-a-judge」方式でチェックします。
利用する際は、LLMの呼び出しに「ユーザーの質問」と「参照コンテキスト」をアノテーション(注釈)しておく必要があり、これにより本番トレース上で自動的に矛盾を検出し、他の運用データ(コストやレイテンシ)と同じ画面で確認できます。
5つの管理された評価カテゴリ ― 正確性とユーザー体験の両輪
ハルシネーション検出は、Datadogが提供する「管理された評価(Managed Evaluations)」5カテゴリのうちの1つに過ぎません。
| カテゴリ | チェックする内容 |
|---|---|
| ハルシネーション | 回答が参照コンテキストと矛盾していないか |
| 回答失敗(Failure to Answer) | 空の回答や拒否応答になっていないか |
| トピック関連性 | 質問の意図から逸れていないか |
| 有害性(Toxicity) | 攻撃的・不適切な表現がないか |
| 感情分析(Sentiment) | ネガティブな応答になっていないか |
これらは大きく2つの軸に分けられます。ハルシネーションと回答失敗は「事実として正しいか」という正確性の軸、トピック関連性・有害性・感情分析は「ユーザーが気持ちよく使えるか」というユーザー体験の軸です。
背景には、本番環境でLLMの回答品質をオンライン評価しているチームが全体の4分の1程度にとどまるという業界の課題があります。「速度とコストは測れても、回答が実際に良いかどうかは測れていない」というギャップを埋めることが、この機能群の狙いです。
すごいのは技術より「統合」
Datadogのこうした取り組みは、一見「観測ツールがAIに追いついた」ように見えますが、実態はむしろ既存の強みをそのまま転用したという方が近いかもしれません。
LLMアプリケーションも突き詰めれば「プロンプトが入って、レスポンスが出てくる」一種のAPIコールです。もともと持っていた「トレースを追う」「異常を検知する」「アラートを出す」という仕組みを、そのまま応用できたことが強みになっています。実際、LLM ObservabilityはAPM(アプリケーション性能監視)やRUM(リアルユーザー監視)と同じ基盤・同じダッシュボード上に統合されています。
技術的な新規性というより、「監視対象がサーバーからAIモデルにまで広がった」ことにいち早く対応し、運用データと品質データを同じ画面に統合した点が、Datadogらしい強みと言えるでしょう。
一方で、AI-nativeなスタートアップ(LangSmith、Braintrustなど)と比べると、評価の作り込みの深さではまだ見劣りする部分もあります。Datadogが標準提供する評価カテゴリは5つですが、専業ツールは25以上の組み込みスコアラーを持つケースもあり、「幅広さ・統合度」でDatadog、「評価の専門性」で専業ツール、という棲み分けが今のところの構図です。
まとめ
Datadogは「AIを作る会社」ではなく、「AIを安全に本番運用させるためのインフラを作る会社」というポジショニングを取っています。自社製品にAIを組み込んで運用を自動化する一方、他社が作ったAIアプリケーションの品質・コスト・安全性を監視するレイヤーも提供する----豊富な顧客基盤とテレメトリーデータという既存資産を武器に、AI時代の「縁の下の力持ち」を目指していると言えそうです。