バリで買ったグラフィックノベル『ICHIRO』
バリはウブドの書店で買ったグラフィックノベル『ICHIRO』(Ryan Inzana 作 2012年)。表紙は、手前の少年ICHIRO頭上の青い放射線が切り抜きになっていて、扉絵の武将姿の八幡神が透ける凝った作り。
お話は、なぜか突然ぶんぶく茶釜の説話が、江戸時代の浮世絵的な世界観で始まる。
そこからいきなり現代のNYに舞台が移り、母子家庭で、亡くなった軍人の父を思い出しつつ、トラウマを抱えて危うい感じの主人公イチローが登場。母は仕事の関係で日本へ。イチローはそこで母がたの祖父に出会い、なぜか戦争の話を聞き、天皇制のことや「神風」伝説、戦争経験者の話など、どんどんシリアスな戦争話になり、やがてイザナギ、イザナミに始まる日本神話がかなり詳しく展開する。
さらに祖父はイチローを広島に連れて行き、そこで原爆資料館を見学。イチローはショックを受け、いつもは大好きなシューティングゲームをやらなかったりする。さらに、なぜか祖父はイチローを出雲の祭礼に、車で連れて行く(出雲からだと、ふつうは電車だが、そこはアメリカ風?)。
んで、そこで色々あって、なぜか(こればっかだが)ぶんぶく茶釜の狸が柿を盗んでイチローに捕らえられるが逃げ出し、穴を掘って落ちると、イチローも引きずり込まれると、何とそこは「黄泉の国」! そこからは、ちょっとどこかのアニメでよくみる感じの日本的素材の不思議な混合世界で逃げ、捕らえられる。
捕らえられた先で、天つ国の武神だったが陰謀に巻き込まれ、幽閉されている八幡神に出会う。八幡は戦国武将的ないでたち。
ま、いろいろあって、天津国と黄泉の国を巡る陰謀と混乱の中で、なぜか狸が「TANUKI!」と叫んで竜になり(日本人的にはここ笑いどころ)、竜にのったイチローの活躍があって、最後は現実に戻るという、十代のトラウマを背景に描かれたファンタジー。
こういう英語版グラフィックノベルが、ウブドで売っていたっていうのが興味深い。バリにはファミリー旅行者も多いので、十代の子も多いかもしれない。親と子供は興味対象が違うので、バリで退屈することもあるかもしれず、そういう子などには面白いのかも。
絵柄を見ると、いくつかの少年の顔には望月峯太郎的なテイストがあり、筆を使って日本的な画像を作ろうとしているように見える。おそらく、日本にもきて取材したんだろうし、献辞に「For Yoko」とあるので、奥さんか彼女が日本人なのだろうか。ただ、そこで混合生成された日本イメージは、たとえば神話世界の描写が、今の我々が想像する中国風のものではなく、戦国と江戸のまざりあったものだったり、妖怪画も相当日本の資料を見ているのがわかるものの、その混ざり具合が日本人には奇妙に見えて、そこが面白い。こういう「ちょっと変な日本」が好きな僕にはなかなか楽しいのである。文化って、こうやって混ざり合っていくんだな、っていう感動みたいなのがある。