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【書評】『権力の館を歩く』:権力のアーキテクチャ

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著者: 御厨 貴
毎日新聞社 / 単行本 / 368ページ / 2010-07-31
ISBN/EAN: 9784620320083

オーラル・ヒストリーとして語られることの多い、政治の世界。その際、出来事が起こった現場の場所に関する詳細は、話し手の当事者には空気の如く思われていることが多く、口の端に上らないことも多いと言う。しかし、大きな決断や運命を左右する大きな出来事は、建物が持つ”場”によって規定されることが多いのも事実である。建物の構造がほんの少し違っただけで、その後の未来は大きく変わっていた可能性もあるのだ。本書は、そんな「建築と政治」の関係性に着目した希有な一冊である。

◆本書の目次
序 権力の館 事始め
マッカーサー GHQ跡第一生命感

Ⅰ 権力の館
吉田茂    大磯御殿
吉田茂    目黒公邸
鳩山一郎   音羽御殿
岸信介    御殿場邸
池田勇人   信濃町邸 箱根仙石原別邸
佐藤栄作   鎌倉別邸
田中角栄   目黒御殿
三木武夫   南平台邸
福田赳夫   野沢邸
大平正芳   世田谷区瀬田邸
中曽根康弘  日の出山荘
竹下登    世田谷区代沢邸
宮沢喜一   軽井沢別邸
軽井沢別荘地(戦中編)
軽井沢別荘地(戦後編)

Ⅱ 権力機構の館
首相官邸
貴族院、参議院
衆議院
最高裁判所
検察庁
警視庁
財務省・大蔵省
日本銀行本店
宮内庁庁舎
枢密院
都庁舎
北海道赤れんが庁舎
沖縄県庁・高等弁務官事務所

Ⅲ 政党権力の館
自由民主党本部
砂防会館
宏池会事務所
日本社会党(社会民主党)本部
日本共産党本部
公明党本部
民主党本部

結 権力の館 事納め
小沢一郎   深沢邸
やはり、抜群に面白いのは「権力の館」の章である。当然のことではあるが、主が我儘である方が、個性が存分に反映されるのだ。個人の要件定義を受けた建築物は、ときに主より雄弁にその主体を物語る。特に、着目すると面白いポイントは、”機能要件をどのように定義したのか”と”庭との向き合い方”という二点である。

◆「権力の館」の特徴
・吉田 茂
お手のものであった政治工作と同様に、始終手入れを好む普請道楽であった。非制度的な主体を好み、私邸で閣議を行う”館政治”の元祖。庭での散歩を好み、よくそこで考えごとをした。

・岸 信介
御殿場という立地に、首相復帰をもくろむ権力動機が現れている。合理的思考が反映され、いつ何がおこっても困らないつくり。り。
首相復帰への願望は、主体的に関わる庭を求めたところにもあらわれている。


・池田 勇人

私的スペースをほとんど無視し、商売繁盛の料亭のようなつくり。
庭にも自らのアイデンティティを求め、「石にも木にも顔がある」と述べたほど。


・佐藤 栄作

由比ヶ浜の海を一望できるパノラマ風景がすべて。また鎌倉という立地は、鎌倉文士たちとの交流も可能にした。一度だけ
パーティを開いた広大な庭は、他の政治家へ格の違いを見せつけたという。

・田中 角栄
フラットでフローという政治哲学をそのまま反映させた館のつくり。庭には、新潟に生まれ育った田中の皮膚感覚にあうものだけが取り入れられた。

・福田 赳夫

自身の身の丈にあわせるべく、距離感の近さを重視したつくり。
倹約の精神を貫き、庭もケチに徹したゆえの狭さを誇る。


・大平 正芳

執筆活動が有名であるように、知的活動を保証するためのつくりとなっている。
千客万来の”よすが”とするために、庭のボリューム感を重視した。


・小沢 一郎

神秘性におおわれた要塞のイメージ。多くの政治家にみられるような”建物と一体化して広がるイメージの庭”はなく、閉鎖感が目立つ。
また、政治家から依頼を受けた建築家という立場への興味も尽きない。吉田茂、佐藤栄作などから依頼を受けた吉田五十八によれば、「私宅でありながら、いつ公的要素が入り込むかはわからない。そのため、動と静をあわせもち、急変化を遂げるためのダイナミクスが求められた。」との弁を残した。そのため、「私的の居住部門」、「公式につかわれやすい接客部門」、「サービス部門」という3つの機能分配を行うことが、多くの「権力の館」に見られるベーシックな造りとなっている。

おそらくは建築家自身、依頼主である政治家の目利きを存分に行い、本人にも気付かれぬよう、隠れたデザインを施していたことであろう。また、多くのケースにおいて、建築物は政治家自身より寿命が長い。没後、どのような評価が下されるかも考慮し、主亡き後の館の姿も見すえて、デザインしていた可能性も否定はできない。

ちなみに、本書の構造も、「権力者の館」、「権力構造の館」、「政治権力の館」という3つの章で構成されている。権力者の館の代表的な機能分配である「居住」、「接客」、「サービス」に、なぞらえたということなのだろうか。もしそうだとしたら、本書自身も、まことに見事な「建築物」である。


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