IT投資戦略の混乱を解決するポートフォリオ管理
「IT投資は人まねでは駄目」という人もいる一方で「最新のシステムを作ってベンダーの実験台になる必要はない、実績のあるシステムだけを使えばよいのだ」という人もいます。("IT Doesn't Matter"のニコラス・カーのように)、「ITにお金をつぎ込んでもメリットはない。証拠はいっぱいある。」と言う人もいれば、「積極的なIT投資で競争優位を勝ち取った事例」も数多くあります。
なんで、こんなに話が食い違うのかと言えば、IT投資とはすべて同質のものであるという誤った前提の元に議論がされていることが理由だと思います。IT投資の中には企業の差別化のためのものもあれば、既存のプロセスを支えるためのものもあり、両者の特性は全くと言ってよいほど異なっています。要するにIT投資には案件ごとの特性を考慮して全体的なバランスを取っていくポートフォリオ管理の考え方が重要だということです。ポートフォリオの議論なしに、IT投資の投資効果(ROI)を考えても議論が拡散するだけだと思います。
このIT投資ポートフォリオの考え方は実はジェフリームーアの「コア/コンテキスト分析」に似てるなーということで、IT投資を「コア/コンテキスト分析」のフレームワークに当てはめてポートフォリオ分析をしたらどうなるかというのを18日発行の月刊ComputerWorld誌7月号の巻頭特集に書いてみました。「他人の褌」という説もありますが、かなりおもしろい分析ができたと思っています。
ムーアのフレームワークでは、コアとは企業の差別化に結びつくすべての活動であり、コンテキストとはコア以外のすべての活動です。どちらが大事かという話ではないですが、多くの企業がコンテキストに過剰な資源を割り当ててしまっているという問題があるとムーアは観測しています。この考え方をIT投資にも当てはめて考えることができます。先の例で言えば、ニコラス・カーは「コンテキストのIT投資に必要以上の投資をしても見返りはないのだから、ITにお金を使うのはやめなさい」と言っているわけですし、それに反論して「コアのIT投資がうまくいけば投資金額を大きく超える見返りがある」と言っているわけです。この議論を「コンテキストの」とか「コアの」と限定条件を付けないで、「IT投資」と十把一絡げで語るので混乱が生じてしまうわけです。
このテーマは、今後とも追求していきたいと思っています(TVJP会員向けコンテンツとして発表することになると思います)。
ところで、ジェフリームーアの最新刊「ライフサイクル・イノベーション」は本日発売であります。Amazonでは、ハリーポッターと同等のスペースを割いてプロモーションをやっていただけているようでありがたい限りです。
私が上記の巻頭記事を書いたComputerWorld7月号にも書評が載るようです。さらに同誌に毎月書いているコラム「紙のブログ」でも7月号では「ライフサイクル・イノベーション」をネタに書いてしまいました(〆切日がだいぶ違っていたので同じ号に載るとは思っていませんでした)。本の発売日に合わせて狙ってやっているみたいですが、あくまでも偶然です (^_^;)