家電からクルマのバルブまで――フィリップスが照らす明るい未来
ハンドル脇のスイッチを「パチッ」とひとひねりするだけで、前方を明るく照らしてくれるクルマのヘッドライト。最近は周囲の明るさを自動検知して点灯する「オートライト機能」がついた車両も多いので、ヘッドライトそのものを意識する機会は減ってきた。とはいえ、夜間走行においてはなくてはならない存在であることに変わりはない。
そんなヘッドライトにおいて核となるのがバルブであり、バルブ製造においてパイオニアと呼べるのがオランダに本拠を構えるフィリップス(正式名称ロイヤル フィリップス/旧社名ロイヤルフィリップスエレクトロニクス)だ。
今回、我々が訪れたのはバルブ製造工場のなかのほんの一部。
工場内には写真のような大型の工作機械がいくつも立ち並ぶ
日本国内でフィリップスと言えば家電メーカーとしてのイメージが強いものの、会社そのものは1891年に電球製造工場としてスタートした。世界で初めてハロゲンランプの量産を成功させたのも同社になる。現在は、自動車電球においては欧州車や国産車の多くにフィリップスの製品が純正採用されており、キセノンバルブ(HID)の生産量は世界ナンバーワンを誇る。ここではそんなフィリップスのフラッグシップファクトリーとも言うべきドイツのアーヘン工場に足を運んだときのレポートをお届けしたい。
「アーヘン工場の広さは10万㎡。フィリップスが持つ工場の中でも最大の規模になります」
そう話すのはアーヘン工場のファクトリーマネージャー、カール・スペクル氏。10万㎡と言われてもピンとこないかもしれないが、東京ドームがすっぽり2個収まってもまだ余裕がある大きさ。一般的なハロゲンバルブや、ハロゲンの約3倍の明るさでありながら消費電力が約1/2に抑えられたキセノンバルブの製造のほか、LED、有機EL(OLED)レーザー光線の研究・開発なども行う重要拠点だ。
バルブの製造工場へ足を踏み入れると、最新の工作機械が整然と並べられている。工場という言葉から想像する油臭さはまったくなく、むしろ清潔な印象すらある。
「フィリップスの製造するバルブの特徴のひとつが、主たる自動車電球であるハロゲンバルブにおいても品質の観点から石英ガラスを採用している点でしょう」
そう説明してくれたのはフィリップスでテクニカル&マーケティングコンサルタントを勤めるユルゲン・メルツァー氏。石英ガラスは一般的な硬質ガラスに比べ、熱に強いという特性がある。通常の硬質ガラスであれば、水が触れるなどの急激な温度変化で割れてしまうのに対し、石英ガラスは破損することなく点灯し続ける。万が一ヘッドライト内に水が入ったときなどには、石英ガラスが大きなアドバンテージになるのは言うまでもない。さらにユルゲン氏はこう続けた。
「バルブの中心にあるフィラメントはXYZという3つの軸で精度の確認をしています。それが0.1mmずれるだけで、光の軸に1mもの誤差が出てしまうのです」
石英ガラスの成形、結合、キセノンガスの注入方法と、フィリップスの工場には数えきれないほどの技術とノウハウがあった。そうした技術的なことに加え、工場内でもうひとつ印象的だったのは、過剰とまで思えるほどの品質管理体制。専用カメラやブラックライトを使った確認に、目視によるチェックを何度も繰り返すのだ。
「年間1億6000万個のバルブがここアーヘン工場で作られますが、不良品を限りなくゼロに近付けるのも技術のひとつ。製造はほとんどが機械によるものですが、それをコントロールするのは人間であり、そこにもフィリップスのノウハウがあるのです」
工場内に「We make the shine」(私たちが作っているのは輝きです)と書かれたポスターが貼られていた。このキャッチコピーの裏には「作っているのはモノではなく、光なんだ」という彼らのメッセージとモノヅクリの姿勢が潜んでいるのではないだろうか。
今後のフィリップスについて、マーケティング統括バイスプレジデントのディミトリ・ジャレード氏はこう話す。
「テクノロジーとイノベーション。我々がこれから核にしていくのはこの2つ。現在主流であるハロゲンバルブ、キセノンバルブはもちろんですが、LEDや有機EL、さらにレーザーといった次世代を担うであろう光源の開発は命題でもあります。特に自動車産業は新しいモノへの欲求が非常に高い。そして、日本は世界に名だたるクルマメーカーが複数ある国ですから、非常に重要なマーケットとしてもとらえています」
今回のアーヘン工場見学では、世界に名だたる多くのメーカーがフィリップスのバルブを純正で採用する理由を垣間見た気がする。クルマのパーツは全部で20000~30000個と言われており、バルブはそのなかのたったひとつの、ごく小さな部品にしか過ぎない。しかし、そこには様々な技術と歴史が凝縮されているのだ。たかがバルブ、されどバルブ。もし愛車をチェックする機会があったら、自分のクルマにはどこのメーカーのものが使われているかを知っておいて損はないはずだ。