生成AIによるエンジニア不要論は本当か?3つの視点で考える
「最終的な目標をAuto-GPTに伝えると、その作業を完了するまでに必要になるプロンプトを、アプリケーションがすべて自分で作成してくれるということだ。」
もうここまで来たのかと驚かされる。記事を読めば、セットアップも難しく、誰もが使えるツールとは言えない。しかし、誰もが使えるようになるのは時間の問題だろう。
生成AIの昨今の急速な進化と普及は、これからのITビジネスにどのような変化を強いるのかは、多くの人が語っている。いまさら感はあるが、私自身の整理も兼ねて、あえて書いてみようと思う。
アプリケーション・エンジニアの役割は、ビジネス・プロセスの設計にシフトする
冒頭のAuto-GPTの説明にもあるが、「何をしたいかを伝えれば、アプリケーション・プログラムを生成してくれる」時代になれば、機能実装のためのプログラミング作業は、人間が行う仕事ではなくなる。コーディングのミスに伴うバグは一切なく、セキュリティやレスポンスと言った非機能要件を満たした完璧なコードを生成してくれるのは、さほど遠い未来の話しではないはずだ。
このような時代を迎えたとき、アプリケーション機能の設計や実装を担うアプリケーションSE/エンジニアの役割は、大幅に縮小するはずだ。一方で、ビジネス・プロセスの設計、さらには、ビジネス企画へと役割へのニーズは、増えていくだろう。
DXの大号令の下、デジタルを前提にビジネスを再定義し、作り直す動きが拡大している。これは、アナログな既存の業務をコンピューター・プログラムに書き換えることではなく、デジタルを前提に新しいビジネス・プロセスを描き、それに基づいてアプリケーション・システムを開発することだ。つまり、新しいシステム開発テーマが、大幅に増えることになる。
そうなれば、生成AIにコードの生成は任せ、その前提となるデジタル前提のビジネスの企画やビジネス・プロセスの設計に人間が役割を集中できるようにするのが、賢明なやり方となる。
「ビジネス・デザイナー」、あるいは、「ビジネス・エンジニア」なる職種が登場することになるのかも知れない。そういう役割を担うには、経営や業務に関心を持ち、デジタル・テクノロジーの進化に好奇心を持って接する感性が必要となる。知的力仕事は生成AIに委ね、知的創造力が、求められるだろう。
このようなことは、昔から言われていたことではあるが、知的力仕事の需要が大勢を占めていたので、このような「理想」は、「あるべき姿」として語るに留まっていた。しかし、もうそういうわけにはいかない時代になろうとしている。
「プログラミングは、ものづくりではなく、設計のプロセスである」
これもまた、言われ続けてきたことではあるが、「設計し言語化する」ことができれば、コードは生成AIに任せられるようになる。そうなれば、エンジニアは、本来の役割に集中できるようになるはずだ。
生成AIはローコード/ノーコード開発ツールと融合し、市民開発の普及を加速する
前節では、アプリケーション・エンジニアの視点で、妄想したのだが、これをユーザーの視点で考えれば、従来の意味での「アプリケーション・エンジニア」は不要になるだろう。つまり、業務を一番よく知っているユーザーこそが、ビジネス・プロセスを設計できるはずだからだ。ならば、難しいコーディングのお作法やプログラミング言語の文法を知らなくても、プログラムを作ることができるローコード/ノーコード開発ツールと生成AIを融合させれば、現場感覚を反映したアプリケーションを自分で開発したり、改修したりすることができるようになる。
そうすれば、外注費の削減、開発のスピード・アップ、改善サイクルの高速化/短期化が進み、沢山の開発テーマを短期間に開発できるので、ビジネス・プロセスのデジタル化は加速する。
当たり前のことではあるが、アプリケーションは作ることに価値があるのではなく、使うことに価値がある。この使うことに一番早くたどり着く有効な手段のひとつが、ローコード/ノーコード開発ツールを使った市民開発だ。その機能や使い勝手が大幅に高まり、改善の手助けもしてくれる新しいツールへと進化すれば、アプリケーションの本来の役割を最大限に発揮できるようになる。
エンジニアの役割は、コンピューター・サイエンティストへと回帰する
コンピュータの黎明期、コンピューターに関わるエンジニアは、コンピューター・サイエンスについての高い専門性が求められた。コンピューターの基本機能や動作原理を理解し、それをうまく使えるように設定や命令をきめ細かく指定する必要があった。テクノロジーの進化の歴史は、この難しさを隠蔽する歴史であったとも言える。
結果として、コンピューターの基本機能や動作原理を知らなくてもシステムを開発できるようになり、正しい使い方さえ知っていれば、エンジニアは、役割を果たせるようになった。
しかし、生成AIの登場により、改めて、コンピューター・サイエンスについての高度な専門性が、必要とされる時代になった。
コンピューター・サイエンスとは、コンピューターがどのように動作し、コンピューターで何ができるかの数学、工学、理学にまたがる学問分野である。さらには、AIの原理や仕組みについての理論もまた、コンピューター・サイエンスの学問分野である。
生成AIが、プログラム・コードを当たり前に書けるようになっても、それだけでシステムが使えるわけではない。データベースやトランザクション、ネットワークなどの設計が必要だ。また、さまざまなITサービスやツールなどを目利きし現場で使えるよう整備する必要もある。また、アジャイル開発やDevOpsなどの開発や運用に関わる高い専門性も求められる。何よりも、作られたプログラムが、ビジネス目的にかない、安全確実に機能することを保証しなければならない。
生成AIが例え完璧なコードを書き出したとしても、それを動かす土台を作らなければまともには使えない。そして、なによりも、コードは完璧であっても、それがビジネス目的を達成する上で、最適なテクノロジーを使い、適切な論理によって機能していることを検証できなくては、怖くて使えない。まさに、この点に於いて、高いコンピューター・サイエンスの専門性が求められる。
そもそも、「デジタルを前提にビジネスを作り変える」ためには、コンピューター・サイエンスについての高い知見が求められるし、それがあるからこそ、ITを活かしたイノベーションも創発される。
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「与えられた機能をコードに置き換える知的力仕事のスキル」から「コンピューター・ソースサイエンスの専門性を活かしてビジネスの仕組みを作る知的創造力を発揮できるスキル」へと、エンジニアの求められる能力はシフトするだろう。
生成AIの登場による「エンジニア不要論」は、一面的であり、限定的だ。付加価値を生みださない知的力仕事に従事しているエンジニアは、仕事を減らすだろう。一方で、知的創造性を発揮し、ビジネス・プロセスを設計する、あるいは、コンピューター・サイエンスの高い専門性を持って、ビジネスをデザインし、実行環境を整えるエンジニアは、さらに必要となる。
これからの理想を描けば、次のようなエンジニアになるだろう。
経営や業務に関心を持ち、テクノロジーへの好奇心を絶やさず、新しいことは直ぐに試し、コンピューター・サイエンスに熟知して、人との対話ができ、言語化できるエンジニア
ハードルは高い。しかし、これは、なかなかやり甲斐のある仕事ではないか。
そろそろ、こういうことを念頭に、自分のキャリアを考えてみるべき時期ではないかと思う。
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2022年10月3日紙版発売
2022年9月30日電子版発売
斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1
目次
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- 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
- 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
- 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
- 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
- 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
- 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
- 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
- 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
- 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
神社の杜のワーキング・プレイス 8MATO
8MATOのご紹介は、こちらをご覧下さい。