業績の伸び悩みは「営業の能力不足」ですか?
「うちの営業、鍛えてやってもらえませんか・・・」
こんなご相談を請けることがあります。そういうときには、次のような確認をさせていだきます。
「営業の能力を高めたいんですか?それとも、営業ひとりひとりの売上や利益を増やしたいんですか?」
前者は、営業個々人の能力を高めること、後者は営業個々人の成果を引き上げることです。
「成果が上がらないのは営業の能力が低いからであり、営業を鍛えれば売上や利益が向上する。」冒頭の言葉には、そんな前提があるのでしょう。
しかし、本当にそうでしょうか。確かに「営業の能力を高める」ことは、成果を上げるという目的を達成するための手段のひとつであることは間違えありません。しかし、それ以外にも「魅力的な商材や売れる仕組み」と「モチベーションを高める仕組み」がなければ成果は上がりません。
このふたつに取り組まないままに、営業の能力に業績の責任を押し込めてしまおうというのは、経営者や管理者の怠慢です。
魅力的な商材や売れる仕組み
「マーケティング」と置き換えることもできます。マーケティングの本質的役割は、「顧客のニーズに応えること」につきます。その取り組みが、営業活動や広告・宣伝活動と区別されないままに、曖昧な位置付けになっているところも少なくありません。
また、次のようなことがあるとすれば、それは、マーケティングが機能していない証拠です。
- 特定の顧客での成功体験をそのまま引きずり、そのときのやりかたを他でも通用すると考えてしまう。
- その市場が黎明期から成熟期へ移っているにもかかわらず目標や施策を変えようとしない。
- 市場環境が変化し顧客のニーズが変わっているにもかかわらず、それにあわせた戦略や施策を打ち出せない。
ドラッカーは、「マーケティングの究極の目的は、セールスを不要にすること」と述べています。つまり営業がお客様に売り込まなくても、お客様から欲しい、是非売ってくれといってくれるようにすることがマーケティングの目的なのです。
かつてSI事業者は、お客様の成長がシステム需要を拡大し、いつも要員不足で、黙っていても引き合いが舞い込んできましたからマーケティングなど必要ありませんでした。また、自分達で直接ユーザー企業に売り込まなくても、大手SI事業者が仕事を開拓し、彼等の下請けをしていれば稼働率を維持することができました。しかし、流れは変わりました。
工数需要はなくなることはないにしても、中長期的に見れば右肩下がりです。そうなれば、大手SI事業者は、これまでの下請けを内製あるいはグループ企業内にとどめ外注比率を下げて稼働率を高めようとします。またこの需要の不足を補うために、これまで手を出してこなかった中堅・中小企業の小規模案件にも手を伸ばし始めるでしょう。そうなれば、大手、中小のSI事業者を交えた価格競争が繰り広げられることになります。
これまでのハードウェアやソフトウェア・ライセンスの販売、導入支援作業、保守・サポート費用、運用作業などが、クラウドに吸収されてゆくでしょう。このような変化の背景には、顧客ニーズの変化があります。この変化に対応することがマーケティングなのです。
顧客のニーズにマッチした適切な商材、それを売りやすくするための価格設定やサービス形態、お客様に遡及できる営業資料、顧客を引きつける広告・宣伝、Webやメルマガ、マーケティング・オートメーションの仕組みなどを、ターゲットとする顧客や市場に対して、一貫した目標のもとでひとつの物語として結びつけて実行する。この取り組みを営業の自助努力に期待することや、本業の片手間で行うことには無理があります。
マーケティングを確実に行えば、営業は売りやすくなり、効率が上がります。結果として、成果が上がるのです。
モチベーションを高める仕組み
マーケティングによって、売れる商材がそろい、売るための仕組みが整っても、「評価制度」が、マーケティング施策と不一致であれば、営業のモチベーションは上がりません。
例えば、マーケティングの立場では、顧客のニーズはサービスにシフトしているためにクラウド・ベースのサブスクリプション(定額)型サービスを積極的に拡大してゆくことになりました。しかし、営業の業績評価が売上金額と利益金額だけであれば、サブスクリプションは売上金額や利益金額は低くなりますから、営業効率は上がりません。明らかに営業にとって利益相反です。売っても評価されないのであれば、営業のモチベーションは上がらないでしょう。
営業の評価制度は、マーケティング戦略や施策に対応し設定されるべきものです。ここに一貫性がなければ、せっかくの商材もマーケティング施策も機能することはありません。例えば、サービス商材の拡大を図ろうとする場合、次のような方法があるかもしれません。
- フロー案件については、これまで通り売上金額と利益金額を評価するが、ストック案件は、3年間の売上・利益見通しの合計金額として評価する。
- サービスのための設備投資費用は原価に算入せず、全て利益と見做して評価する。
- サービス・ビジネス専任の営業組織を作り、彼らの評価を他の営業と異なる基準で評価する。
いずれにしても、会計上の評価と営業成績上の評価を同一の視点で捉えるのではなく、戦略と施策に紐付けた評価方法を作る必要があるでしょう。
このようなことを申し上げると「管理が面倒だ」、「評価ルール作りが難しい」などと管理者や経営者からは、そんな本音が聞こえてきそうです。しかし、それこそが、管理者や経営者の仕事ではないでしょうか。モチベーションを上げる取り組みを怠り、営業の自助努力の足りなさを嘆くというのは、何とも情けない話です。自らの責任を果たさず、業績の伸び悩みを営業の能力不足や自助努力の足りなさに押しつけているだけのようにも感じてしまいます。
営業個々人の能力を高めることの重要性を否定するつもりはありません。しかし、能力の育成とマーケティングや評価精度とは一貫した施策でなければうまくいきません。危機感を煽り、鼓舞し、叱咤激励し、命令しても持続して成果を上げ続けることはできません。ここに掲げた3つの取り組みをおこない、仕組みとして事業目標が達成できる「ガバナンス」を構築することこそが必要なのです。
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