中小企業にとってSIerは必要悪ですらない
タイトルからいきなり喧嘩を売っているような感じになりましたが、これは僕の素直な実感です。中小企業とはいえIT化が喫緊の課題となっている現在において、SIerが不要とはどういうことか、見て行きましょう。
中小企業の問題はIT化の遅れではない
今、苦しい状況に立たされている中小企業は山ほどあるでしょう。そして、その多くは現在の課題として売り上げアップとコスト削減を取り上げることでしょう。
今回、売り上げアップについては検討の範疇ではないので、コスト削減に的を絞ってお話しします。多くのSIerは業務のIT化によって効率化を図りコストを削減するということを提案するでしょう。そうした活動のなかで実際にお客様から成果が得られたという声を聞く機会は一体どれほどあるのでしょうか。僕が過去に関わって来た200程度の企業に限っていえば、IT化の恩恵を受けた企業というのはほんの一部にすぎません。
それはなぜか。
IT化によって業務を効率化するには外部のSIerでは踏み込めない禁断の領域があるためです。
業務プロセスの可視化というパンドラの箱
ITシステムの導入で一見業務のスピードは上がったように見えます。データの入力から情報の共有、伝票入力や仕訳処理。これらのルーチンワークはPCの得意とするところであり、人間では到底たどり着けないスピードでこなしていきます。
こうしたシステムを導入したというのに効率化が進まないなんていうことがあるのだろうかと、疑問に思うでしょう。しかし、そのようなことが実際にあるのです。
ITシステムの導入で中小企業に起こった変化、それは「今までもそれほど時間がかかっていなかった部分が効率化した」「新システムに完全移行できず新旧織り交ざる不協和音」という間抜けな事実。
例えば、今までExcelで十分管理できていたデータを業務パッケージで置き換える、データベースを導入したにもかかわらず、事情により紙の伝票を処理しなければならない、などなど。こうしたことは現実に起こっています。
こうしたことが起こってしまう理由は何かといえば、IT化するための準備不足であるといえます。
ITシステムというのは定型業務の置き換えには優れていますが、不定形の、思考が必要とされる業務については不得手の極みです。あくまで人間の命令に従うことがPCの使命であるため、この現実は当面逃れられないでしょう。このような現実を無視して、むやみにIT化を提案するシステム屋が本当に多いという風に感じます。
業務プロセスに踏み込めるか否かが肝
ITシステムの導入には業務プロセスを言語化し、可視化することが重要です。なぜなら、コンピュータに処理を命令するのは言葉によってであり、暗黙の了解が通用しないからです。
SIerというのはここに踏み込むことができないゆえ、適切なITシステムの構築を行うことが困難になるのです。SIerと呼ばれる人々のなかに、企業の業務を理解している人がどの程度いるでしょうか。もしかしたらちょっとPCに詳しい会計士、税理士の方が適切なシステム構築をできてしまうのではないでしょうか。
業務を分析し、言語化、可視化まで行うには業務に関する知識が必要です。コスト削減には会計の知識も必要になるでしょう。ここまでできて初めて業務の効率化によるコスト削減が可能になるのです。
大きな企業であれば内部にIT専任者がいるでしょうし、経理部門も強固でしょう。コスト削減には必要な機能は内包しているので新しい技術を検証し、有効であれば積極的に導入することで大きな効果が見込めます。
しかし、多くの中小企業では業務をこなす力は持っていても、構造を分析し、言語化する能力を持っていることはごく稀なのです。
これからの中小企業にとって必要なのは高い技術力を持つSIerなどでなく、業務に精通した人材であると言えます。
IT技術の進歩でSIerが立場を追われる
そして、もう一つSIerにとって悪いニュースとしては、技術の進歩によりITを扱う上で要求される知識や技術の閾が下がっていること。
今時のクラウドサービスなどはアカウント登録を済ませてしまえば簡単に使い始められるサービスばかりになってしまいました。今後益々技術を要求されるような場面が減ることは間違いないでしょう。
この先SIerが生き残るために必要なことは業務や会計を理解すること、またはサービスそのものを作る側に軸足を移すこと、この二択になるのではないでしょうか。
そして、この先は会計士や税理士などの分野の方々にIT分野でのビジネスチャンスが巡ってくるように思います。今までITのことをあまり考えたことのない◯◯士の方々は真剣に取り組むときっといいことがあるかもしれません。
おわりに
目覚ましい技術革新により、我々の周りには様々なサービスがあふれ、それらはとても安価で、使い勝手が良いものばかりになりました。こうした状況の中、IT分野で活動する人々にとっては技術力だけではどうにもならない状況が迫ってきていると思われます。
今回のエントリーはSIerをターゲットに、ITだけ得意でもどうにもならない時代がくるという警鐘を鳴らしてみました。自戒を込めてEOM