Chrome OSでマイクロソフトはGoogleの調虎離山に成功したか、それとも。。。
新OS万歳歓迎のコメントがネット上にあふれていて、盛り上がるのは結構なことだが、
Googleがマイクロソフトを追い詰めている、という簡単でわかりやすい構図に盲目的に
扇動されてしまっている人が多そうなので、ちょっと違った観点で説明したい。
もちろん、マイクロソフトの中の人割引をしてもらっても構わないが、いたって
冷静かつ客観的な見方だと思う。
さて、タイトルにある調虎離山。兵法三十六計に含まれる戦略の基本なので初見の方は
覚えておいた方が良い。ビジネスパーソンには、私の戦略バイブルの1つでもある
「兵法三十六計の戦略思考」がビジネスケースでの実例も詳しく、わかりやすくてお勧めだ。
「天を待って以てこれを困め、人を用いて以てこれを誘う。往けばなやみ、来たれば返る」
自軍が有利な自然条件に恵まれているときには、それを利用して敵を苦しめ、
また、敵が食いつきそうなえさをまいておびき出す。敵陣への進攻に危険が伴うと
予想されるときは、わざと隙を見せて、相手の方から攻めてくるように仕向ける戦略だ。
簡単に言うと「相手が強みを持つ領域の外に相手を誘い出し、その優位性を失わせる」
ということだ。Webの世界で圧倒的な強みを持つGoogleと、クライアントやエンター
プライズサーバー領域で強みを持つマイクロソフトでは、そもそも得意とする戦場、
地形が異なるのである。そして、多くの場合(まだ)本格的には競合していない。
(今朝の日経記事含め、競合したらおもしろいだろうな、という外からの期待感が
実状以上に盛り上げているにすぎない)
そのような状況の中、Googleの方からクライアントOSの領域に飛び込んできてくれた。
表向きWeb用OSとはいいながらも、ネットブックで動かすれっきとしたクライアントOS
であり、虎が山からおりてきたのである。
一部のアーリーアダプター的な層は、Google割引で無条件に歓迎してくれるかもしれないが、
コンシューマー向け、エンタープライズ向けともに、クライアントOSの世界はそんなに甘い
ものでもない。ネットブック向けにターゲットを絞って低価格一点張りで勝負するとなれば、
直接の競合はWindows7ではなくmoblinの方だろう。
品質は?サポートは?互換性は?クライアントOSとしてマジョリティに受け入れられる
ための労力は並大抵のモノではないが、Googleにその体制や覚悟があるようには
見受けられない。おそらくネットブックメーカーにかぶってもらおうということなのだろうが、
利幅の薄いネットブックビジネスで、メーカー側もそれほど手厚い対応はできないだろう。
となれば、GoogleがChrome OSに割くであろう少なくない戦力を、個別撃破してゆくことで
全体の戦力を削り、クラウド側の戦闘をも有利にしてゆくことになろう。
そして、タイミングがビミョーだった。もしVistaとXPの狭間で苦しむマイクロソフト相手
であれば、つけいる隙もあったかもしれないが、もはやWindows7のローンチに向けて
業界を挙げて取り組みを進めている最中である。
あと1年早ければ、戦局を左右したかもしれない、と、ゲルググ量産化計画のような
言われ方を後にされるかもしれない。ちょっとだけ、間に合わなかったかもしれない。
ただ、せっかくWebの世界から飛び出してきてくれたGoogleに対し、無双モードで圧倒
するというのも長期的に広い視野で見るとあまりよい戦略ではないかもしれない。
Googleには、彼らにしかできない役目を、業界の中で果たしてもらいたいものである。
例えば、ネットブックというカテゴリーは、厳しいビジネス状況など諸々の妥協から
生まれた産物ではあるが、その販売台数もさることながら「2台目需要」を生み出した
功績は非常に大きい。
そこで、Chrome OSを組み込む対象を、PCの派生であるネットブックのような枠をも
飛び出し、もっと別のデバイスに向けて頂きたいものである。もちろんマイクロソフトも
世の中をより便利にするための新しいデバイスの開拓を必死に行っているが、
新しいモノを創り上げ社会現象を巻き起こすめの勢いは、多いに越したことはない。
その点においては、Chrome OSあるいはAndroidに大いに期待している。
ちなみに、私は先日プライベート用のPCを買い換えた。これまで持ち運び用、および
Windows7の検証用にAcer Aspire Oneの初期型ネットブックを愛用していたのだが、
やはりPCとしてみてしまうとスペックが物足りないところがあり、同じくAcerの
Timelineに買い換えたのである。
Acerのうまいところは、目新しさでネットブックを買ってみたものの、そろそろ不満が
たまってきた、というタイミングで、フルスペックのPCを、しかもネットブック+αの
価格帯でだしてくるタイミングの絶妙さだ。Core2 Duo搭載で重さ1.6kg、8時間稼働
であれば、OfficeやVisual Studioを業務上酷使するマイクロソフト社員でも、十分
実用に耐えるマシンといえる。
さらに、本体価格が8万円弱と安めなため、勢いHDDをSSDに換装した(メーカー保証外に
なるので自己責任で)ところ、さらに快適となった。最大4GBまで搭載可能なメモリの
拡張性も、今後のOffice2010ベータ版の本格検証運用を考えても余裕のあるスペックだ。
ネットブックで実績を積み、表向き「Good Enough」といいながらも需要のノリシロを残し、
フルスペックPCへのアップセルに誘導するAcerとマイクロソフトの需要喚起策に
まんまと顧客としてのってしまった格好ではあるが、悪い買い物ではないと思っている。
そのような全体戦略があればネットブックメーカーも疲弊することはないだろうが、
単なる価格のたたき合いでは、早晩勢いにかげりが見えてくるだろう。
日本のPCメーカー各位には、間違っても近視眼的な価格のたたき合いのために
OS原価を削減したいという誘惑に駆られた縮小均衡の悪循環には陥ってもらいたく
ないものである。Acerやその他グローバルネットブックメーカーは、最終的に自社が
トクをする算段があるからこそ、低価格シェア拡大戦略をとっていることを忘れてはならない。
---
アクシズが火星の向こうのアステロイドベルトにあれば討伐隊を出すのも大変だが、
地球圏に移動してきてくれて、さらに地上まで降下してきてくれるのであれば、
対応策はいくらでも打てる。泥まみれの地上戦で、宇宙育ちがどう戦うのか、
しばらく情勢を見届けさせて頂きたい。アクシズの旗艦サダラーンの撃沈は、
宇宙より地上の方がたやすい。