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商社マンの営業として33年間(うち海外生活21年間)、国内外で様々な体験をした。更に、アイデアマラソンのノートには、思いつきを書き続けて27年間、読者の参考になるエピソードや体験がたくさんある。今まで3年半、ITmediaのビジネスコラム「樋口健夫の笑うアイデア動かす発想」で毎週コラムを書き続けてきたが、私の体験や発想をさらに広く提供することが読者の参考になるはずと思い、ブログを開設することにした。一読されれば「読むワクチン」として、効果があるだろう。

海外旅行・出張危険回避講座  (一読さえすればリスクは最小、そしてあなたは、海外旅行のプロ) その1 凄腕の詐欺師のシャツのボタン

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海外旅行・出張危険回避講座

(一読さえすればリスクは最小、そしてあなたは、海外旅行のプロ)

 その1 凄腕の詐欺師のシャツのボタン

 これからできれば数十回にわたって、海外旅行・出張時の犯罪の手口、巻き込まれ防止、被害防止、回避の方法を話していく。まず、最初は、ほぼ完全に私も騙されかけた名人芸の詐欺師の話だ。香港です。

私が商社マンで、中近東に駐在していた時、周りの商社マンが、さまざまな手口で、旅行中に被害に遭っていたのを防ぐために、手口の公開を始めた。これを一読だけでもしておけば、被害に遭うことは、(ゼロにはならないが)極端に減る。まさに読むBIZワクチンです。

 最初の話は、実に巧妙に作戦が練られていて、ほぼどんな人でも、このやり方で攻撃を掛けられると、防げないかもしれない。

 

 私が、サウジアラビアに駐在していた時、東京へ出張した。仕事は済み、帰途についた。キャセイパシフィックの香港乗換えで、バハレーンまで行き、そこでサウジア(サウジアラビア航空)に乗るコースだった。
 

 問題は香港だった。昼の2時ごろ香港に到着するが、香港発の便は夜の10時だったから、8時間も間が開いていた。その間、空港(古い空港)で待つわけにいかないので、香港のホテルでの休憩を航空会社で用意してもらった。
 香港に着くと、トランジット(乗換え)のカウンターで、香港のタクシー券とホテルの無料休憩券と夕食券を発行してもらった。


 成田から香港へ向かう便に乗る時に、スルーと言って、通しで切符をバハレーンまで切ってあった。荷物も直接バハレーンまで送られる。私は手荷物だけを持って、香港の空港の外へ出た。キャセイが用意してくれたリムジンタクシーに乗って、ホテルに向かった。

 ホテルは無料の休憩なので、贅沢は言えなかった。中の下クラスだろうか、私はチェックインを済ませると、部屋に入って、シャワーを浴び、今晩、遅く出発するので、ひとまず昼寝することにした。ベッドに入ってうとうとした頃、枕許の電話が鳴った。


「ハロー」と私。
「ハロー、ミスター樋口?」
「イエス」
「こちらはキャセイ航空です。私はキャセイ航空のトラフィック・コントローラー(運行管理者)のチャンです。ミスター樋口は今晩のキャセイ航空の便でご出発ですね」
「そうです」
「どこまで、でしょうか」
「バハレーンです」
「ああ、そうですか。そこに航空券をお持ちでしょうか、出発切符の再確認を、コンピューターでさせていただきます」
「なるほど、お願いします」、私はキャセイの便名、出発時間、私の名前を告げた。
「ちょっと、お待ち下さい...、ミスター樋口、残念ですが、ミスター樋口の切符は、コンピューターで確認されていません」
「そんな馬鹿な。東京で確認を取っていますよ」
「とにかく、コンピューターでは確認できていませんので、一度、そのチケットを見せていただきたいのですが」
「今、ホテルで休んでいるのですよ。今から、もう一度、空港へ行くのですか、まいったなあ」
「ミスター樋口、分かりました。私がそちらにお伺いします。パスポートと航空券を用意しておいて下さい。1時間ほどで部屋に参ります」
「分かりました。助かります」私はまたうとうとして、眠りに落ち込んで行った。どれだけ時間がたったのだろうか。

 

 ドンドンと部屋のドアがノックされて、目が覚めた。
 慌てて、ドアを開けると、そこにシャツ姿の若い男性が立っていた。
「ミスター樋口? キャセイ航空のチャンです。(ここで握手」これが香港出国の時のカードです。よろしく。入っても構いませんか」カードには、ちゃんと私の名前がローマ字で書かれていた。
「どうぞ」
「さっそくですが、切符とパスポートを見せて下さい」
 私は、鞄からパスポートと切符を取り出して、チャンに渡した。
「じゃ、ここからお電話を借ります。宜しいですか」
「どうぞ、どうぞ」

 チャンは、ベッドの枕許の電話を回すと、英語で話し出した。
「はい、チャンです。課長、ミスター樋口の切符は確認済みになっています、はい。はい、そうです。...、はい、分かりました。じゃ、OKですね。はい、分かりました。結構です。すぐに帰ります」
「ミスター樋口、あなたはラッキーです。ようやくコンピューターで確認が取れました。私はダメだと思いました。申し訳無いのですが、私のタクシー代と、コンピューターの確認代を、いただきたいのですが」と、言いながら、私に切符とパスポートを戻した。
「いくらですか」
「確認料とタクシー代の合計で、ちょうど1000香港ドル(当時の為替で1万円以上した記憶がある)です」
「エエッ、そんなに掛かるのですか」、私は手持ちの香港の現金を丸っきり持っていなかったので、弱ったと思った。
「いや、お金が無いのですが」
「それは困ります」と、チャンの声色が少し変わった。ふっと見ると、チャンのシャツのボタンが上から3つまで外れていた。私の胸にかすかに、小さな警報ランプが点灯した。

「ミスター樋口、それは弱りました。課長にその費用を受け取って来るように言われています。お支払いいただかないと、帰れません」
「でも、それだけの金がないのです。交通費だけなら、今でも払えますが...」
「じゃ、空港でお支払いになるまで、ミスター樋口、そのパスポートをお預かりいたしましょうか」と、チャンは背筋を伸ばして、一歩前に出た。
(こりゃ、おかしい)「ミスターチャン。あなたは今晩、空港で待っていてくれるのですか」
「もちろんです。搭乗券とパスポートを持って、お待ちします」
「じゃ、それなら、私はその1000香港ドルを空港で払います。私はその便で出発するのですから、カウンターで待ってください。タクシー代は払いますが、パスポートと切符はあなたに渡せません」
「何を言うのですか、あなたは紳士でしょう。料金を払うか、パスポートを渡して下さい。私はわざわざ空港から来たのですよ」態度が硬化した。「約束が違います。あなたが空港に来れないというので私が来たのです」
「だから、言っているではないですか。空港で全額払います。領収証を用意してください」
「それなら、ミスター樋口。タクシー代だけでも、今、200香港ドル支払って下さい」
「あなたは今晩、空港に居るのですか」
「そうです」
「それなら、タクシー代も空港で払います」
「何ですって。ミスター樋口、あなたは嘘つきだ。交通費だけは払ってください。そうでなければ、あなたの便はキャンセルされます」と、チャンは大声を出した。私はもう我慢ができなくなった。もうこれは威嚇だ。脅しだ。
「何を言うのか。ミスターチャン、悪いが、部屋から出ていってくれ、あなたの課長の名は何と言うのだ。電話番号は、あなたの証明書は?」

 

 チャンがひるんだ。私は、部屋の中の私の荷物にチャンが触れないだろうと見張りながら、部屋のドアを開けて、
「ミスターチャン、外に出てくれ」と、近くの部屋に聞こえるように大声を出し、チャンの腕を引っ張った。
「ひどい人だ。ひどい人だ」と、チャンは言いながら、ふてくされて、部屋を出た。

 

 私はドアを急いで閉めて、電話に飛び付いて、交換嬢に
「キャセイ航空を頼む。急いで」と、叫んだ。
「...はい、こちらはキャセイ航空」
 私はチャンの来訪のことを告げて、トラフィック・コントローラーのチャンが実在しているかどうかを説明した。
「そのような者はいません。そちらのホテルとお名前を至急教えていただけますか。それはインチキです」と、キャセイ航空の事務員も慌てている。

 私は、その瞬間に分かった。組織的な詐欺団だった。私から、確認費用を巻き上げるか、パスポートを詐取することが目的だった。
 数分したら、また電話が掛かってきた。
「はい」
「ミスター樋口、キャセイ航空から連絡が有ったのですが、私はこのホテルの支配人です。誰かがキャセイ航空の名前を騙って、部屋に来たのですか」
「そうです」

 私はすべての事情を説明した。
「ミスター樋口、あなたの落ち度は部屋の中に知らない人を入れたことです。強盗になっていたかもしれません。被害が無くてよかった」
 私は電話を切って、考えた。詐欺師を飼っているのは、このホテルだ。あの詐欺師に私の滞在と名前、部屋の番号、航空会社からの宿泊バウチャーなどを詐欺師に知らせたのは、ホテルのカウンターの男性がぐるになっていたからだ。それ以外に、だれも私のことを知らないのだから、間違いない。

 まいった。完璧に近い詐欺だった。詐欺師のたった一つの間違いが、シャツのボタンを一つ多く外していたことだった。
 この詐欺師がシャツのボタンを留めて、少し低姿勢で話していたら、金額が低かったら、私は詐欺に引っ掛かっていたに違いない。


パスポートを盗まれてしまうと、再発行があるまで、香港を出発することもできないし、サウジアラビアの非常に難しいビザを取得するのに2週間ほど、香港に滞在することになっただろう。下手をすると、一端、日本に帰国したかもしれない。大変な問題になったはずだ。私は取り返しが付かない汚点をつけるところだった。

 

注意

この手口では、100%ホテルのカウンターの係が、外部の犯罪人に宿泊客のデータを流している。特に大事なのが、到着便、また帰国のフライトの航空会社の便など。被害者が、若い女性の場合は、一旦、ホテルの部屋に入れたら、何が起こっても、自分の責任にされてしまい、ホテルは絶対に非を認めないだろう。絶対に、絶対に、他人を部屋に入れてはいけない。

 

私は国によっては、同じホテルに2泊程度なら、ベッドメイキングも不要として、余分のタオルとミネラルヲータ―を持ってきてもらって、外に「Don't Disturb」のカードをぶら下げておくことにしている。ルームメイキングをしている間、部屋の扉をあけっぱなしで仕事をしているのも、やばいし、国によっては、ルームメイキングも信用できないこともある。


あなたはこの詐欺に抵抗できるか?

ポイント

(1)この詐欺師は、そのタイミングの私の一番心配していたところを見事に突いている。これが凄いことだ。そんな時には、相手の電話番号を尋ねて、航空会社に尋ねる必要がある。それをすると、詐欺師は来ないだろう。

(2) ましてや、私の部屋に直接来ているところが、更におかしいと気づくべきだろう。どんなホテルでも、直接部屋に通すのはおかしい。

(3) まず、キャセー航空の社員証をチェインのかかったドア越しに要求しなければいけない。

 

読者へのお願い!

このブログ記事で、自分の体験をどんどんコメント欄に投稿願います。特に変わった詐欺や、巧妙な手口を公開することで、被害者の増えるのを防ぐことができます。もちろん無記名です。

 

お知らせ

この12月(2011年)に、私の新しい本が出ました。

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新版、図解 仕事ができる人のノート術」(東洋経済新報社)

~アイデアマラソンが仕事も人生も豊かにする~

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この本は私か過去28年間継続してきたアイデアマラソン発想法とノート術のノウハウの最新の本です。すでにアイデアマラソンを始めている人も、これから始めようとしている人も、ぜひともご一読ください。

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